[対談]第2のリアルインパクトを探せ!新種牡馬における『伏兵』たち──治郎丸敬之×緒方きしん

エピファネイアVSキズナという2頭の新種牡馬で盛り上がった2019-2020年のクラシックシーズン。しかしNHKマイルCで並み居る強豪を抑えて勝利したのはリアルインパクト産駒・ラウダシオンだった。
リアルインパクト産駒は2歳夏頃に高いパフォーマンスを披露する産駒が複数登場し話題になったが、今回のG1タイトル獲得で更なる人気を集めるだろう。
そんなリアルインパクトに負けないほど、今年も楽しみな「伏兵」が勢揃い。
果たして第2のリアルインパクトになり得る素質を持つのは、どの種牡馬だろうか?

緒方:昨年は人気のキズナ・エピファネイアから活躍馬が出ただけでなく、伏兵とも言えるリアルインパクトからG1馬がでました。今年も面白そうな逸材が揃っていますから、モーリス・ドゥラメンテ以外からも活躍する種牡馬は必ず登場するはずです。伏兵といっては失礼なレベルの馬もたくさんいますけど。治郎丸さんはどの馬に注目していますか?

治郎丸:実際に全部の新種牡馬の産駒を見ているわけではないけど、「第2のリアルインパクト」候補筆頭としては、ミッキーアイルを推したいね。もちろん他と比べて産駒数が多いから有利っていうのもあるけど。いきなりミッキーアイルから紹介って、王道な指名すぎる?(笑)

緒方:王道といえば王道ですけど、ミッキーアイルは確かに良いですよね。ただ、ミッキーアイルは現役時代にNHKマイルC勝っているものの、5歳でマイルCSを勝っていたりと本格化は結構ゆっくりだった気もする1頭です。

治郎丸:ミッキーアイルのすごいところは精神力だと思う。5連勝してNHKマイルCを制覇してからの、安田記念で16着惨敗。初めての惨敗を引きずってそのまま終わってしまったり、立ち直るのに時間を要する馬も多い中で、ミッキーアイルは秋初戦のスワンSで勝ったんだよね。あの勝利で、この馬の精神的な強さを感じた。2歳〜3歳の時にああいう連勝を重ねて、さらに古馬になってもう一段レベルアップがあったというのはとても大きい。

緒方:気性が遺伝するように、精神的なタフさも遺伝しますからね。

治郎丸:そもそも競走馬が走らなくなるのは、肉体的要因よりも精神的な要因が多いと思う。ピーク時と比べて馬体がほとんど見劣りしないのに、なぜだか2歳や3歳の時みたいなタイムが出せなくなるような馬は特に。だから精神力っていうのは本当に重要になってくる。その点ミッキーアイル産駒は父親譲りの精神的な前向きさがあるだろうから、早くから活躍して、さらには古馬になってからも活躍するような馬も多いんじゃないかなぁ。

緒方:ミッキーアイル産駒は、馬体がパワフルな馬が多いですよね。

治郎丸:ロックオブジブラルタルの血がより強調されているのか、お尻が大きい産駒が多いよね。お父さんも大きかったけど、もっと大きい。より短距離志向だと思うな。モーリスはマイラー、ドゥラメンテは中距離のなかで、タイプが異なる。函館2歳Sから狙えるレベルかもしれない。

緒方:住み分けができそうなのは追い風かもしれませんね。現場での評判はどうなんですか?

治郎丸:1歳の早い段階から、騎乗した方からは「ミッキーアイル産駒はすごい」という評判を良く耳にしてたよ。スタートダッシュがききそうだから、逃げ切り先行型のスプリンターが多そう。イメージとしては、朝日FSで差されて2着になる馬というか(笑)

緒方:差されちゃダメでしょ、と言いたいところですが、朝日FSの2着馬が指名できるならオイシイですね。古馬になってからも活躍を続けてくれる馬がいそうですから、POG期間が終わってからも長い間応援できそうかなと期待しています。

治郎丸:坂路をバンバン使ってくるような厩舎が相性良さそう。ただ、ロックオブジブラルタルの血はあるけど、走りには軽さも感じられるし決してゴツいわけではないから、ダートは無理そうかな。

緒方:ヴェックマン(母マルティンスターク)が良さそうだなって思っています。あの馬はポテンシャルも高そうですし、ミッキーアイルを手がけた音無厩舎というのも魅力です。

治郎丸:ヴェックマン(母マルティンスターク)いいよね!非常に魅力的な素材だと思うよ。

緒方:ミッキーアイル以外だと、僕はリオンディーズ産駒が楽しみです。こちらも伏兵と呼んでいいかわからないほど牝馬を集めました。母はシーザリオで、説明不要なほどの良血馬です。半兄エピファネイアも種牡馬として順調なスタートを切りましたし、朝日FSを勝利していることからも仕上がりの早さは問題なさそうです。

治郎丸:リオンディーズは、気性が荒いとされているこの兄弟のなかでも、かなり荒かったよね。産駒を見たけど、なんかこう、カッカしてる馬が多い。個人的には大人しい馬が好きなんだけど、気性の激しさは仕上がりの早さと結びつくこともあるから、吉と出るか凶と出るかは分からない。細めマッチョな馬が多いのも印象に残っている。

緒方:そうなんですよね。リオンディーズよりもほっそりしているというか。この点はあまりプラスとは思えないですが、育成が難しい馬なんでしょうか。

治郎丸:もしかすると気性の荒さゆえに普段の生活の中で消耗しているのかもしれない。トモ自体はすごい馬が多いので、ポテンシャルはすごいと思う。それをいかせるかどうかは、産駒によってバラつきがありそうだなぁ。あと、故障は心配。特に前脚が危ないかなって懸念している。注目しているリオンディーズ産駒は、エルピス(母ピュクシス)で、この馬は「THE・リオンディーズ産駒」とも言える馬だと思っているから、こういうタイプが走ってくるならリオンディーズは安泰かも。

緒方:僕が注目しているのは母レインボーマリーンです。兄弟は中央未勝利、母は中央1勝馬ですが、叔父にはウインバリアシオンがいる爆発力のある血統です。何と言ってもフォルムが美しい。応援したくなる1頭です。リオンディーズは骨格の美しい馬が多いので、血の力は素晴らしいなと感じさせられます。

治郎丸:他に種付けが多いところだと、ラブリーデイかな?でもラブリーデイはなかなか種付けしにくいよね、古馬になってから強かった馬だし。よくこんなに集まったなぁ。

緒方:開花してからが本当に強かったですから、そうしたインパクトもあるのかもしれません。個人的には母父のダンスインザダークがどう出るかが気になります。産駒を見てみたら意外とダートでも走りそうな力強さがあるのが、イメージと違いました。ベルンハルト(母アーデルハイト)は近親にブエナビスタやアドマイヤオーラといった芝馬がいる馬ですが、母父アグネスタキオンですし、ダートでも十分活躍できそうな筋肉を持っています。まぁ、芝で使うでしょうけど。あとは金子氏が所有するゾンニッヒ(母エンドレスノット)が綺麗な馬体をしているのが印象的です。

治郎丸:なるほど、ダート狙いならラブリーデイは面白いかも。ホッコータルマエも同じ感じでイメージしておけばいいかな?リオンディーズは同じキングカメハメハ産駒だし筋肉もあるけど、ダートは苦手そうだよね。荒れた芝には強そうだけど。

緒方:輸入種牡馬はどうですか?超話題という馬がいるわけではありませんが、それぞれ見どころがある種牡馬です。クリエイターIIはTapit産駒らしく良いシルエットの馬を出していますが、2世代目から同父のラニにすっかり繁殖牝馬を取られてしまったので初年度からいきなり試金石です。ディスクリートキャットはバラつきはありつつも、良い筋肉を持つ馬が見られます。見どころのある種牡馬だと思いますよ。

治郎丸:ディスクリートキャットはダートでコンスタントに活躍しそうだけど、芝はなぁ。パワーで押し切る馬だろうね。父親の現役時代を見る限り、精神力があるかは不安。早いうちに賞金を稼ぎ切るタイプかもしれないね。ラインオブフェイト(母ハンドオブフェイト)はマッチョでお尻大きくて、早いうちからガンガン活躍してくれるんじゃないかなあ。これがディスクリートキャット産駒の強さ・ポテンシャルを知るのにちょうど良さそうな馬だね。マクフィ産駒は、活躍するかは別として、美しい馬が多いなって印象を持っている。

緒方:ダートだとダノンレジェンドやアジアエクスプレスも楽しみで、地方中央問わず活躍馬を出してくれる「ポスト・サウスヴィグラス」としても期待しているのですが、如何せん今の時期お目にかかれるサンプルが少なくて傾向がつかめていません。アジアエクスプレスは「父ヘニーヒューズの血が濃く出ている馬が多いな」とか、ダノンレジェンドは「思っていたほどマッチョじゃない馬もいるかな?」とか、現時点ではそんな程度です。

治郎丸:ダノンレジェンドは弟のダノンキングリーも活躍しているし、見どころの多い種牡馬だよね。そのあたりは活躍馬の傾向を見てからの判断でもいいかも。

緒方:試す人がどれだけいるかはわかりませんが、ディープ牝馬と配合したら血統の上ではほとんどダノンキングリーと同じになるわけですしね。意外と芝でも走れたりするかもしれません。本当に期待しているので、初年度から面白い馬が登場してくれると嬉しいです!


さて、ミッキーアイル・リオンディーズといった馬を紹介してきたが、他にも魅力ある新種牡馬は多数控えている。現役時代に人気を集めたペルーサなども今年産駒がデビュー。お気に入りの種牡馬を今のうちから探しておくのも楽しそうだ。
次回はディープインパクト後継種牡馬争いについて語っていく。

写真:Horse Memorys

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