[1-0-2-60/63]
[3-4-0-32/39]
これら2つの数字は、秋華賞における前走紫苑S組の成績である。上段は紫苑Sがオープン特別としておこなわれていた2000年から2015年まで、下段は重賞に昇格した2016年から2023年までの成績。
年数が異なるため、出走頭数は後者のほうが少ないものの、3着内数は前者の倍以上。しかも、この中に含まれるヴィブロスやディアドラは、秋華賞だけでなく海外のGⅠも勝利し、本番に出走が叶わなかった2018年の覇者ノームコアも、ヴィクトリアマイルを当時の日本レコードで制覇。さらに、引退レースの香港Cで有終の美を飾ってみせた。
重賞昇格が契機になったとはいえ、ここまで出世レースに変貌することも珍しいが、今回もまた、後の大物誕生を予感させる中身の濃いレースとなった。
1番人気に推されたのはボンドガール。後のオークス馬チェルヴィニアを筆頭に、この世代で最もレベルの高いメンバーが集結した新馬戦を勝利したボンドガールは、重賞未勝利とはいえ2着3回と実績十分。前走のクイーンSでは、古馬相手でも実力が通用することを証明してみせた。
そこから1ヶ月半ぶりの実戦となる今回も、武豊騎手とコンビ継続。待望の重賞初制覇が期待されていた。
これに続いたのがエラトー。ディープインパクトの後継種牡馬で、現役時に英国の2000ギニーを制したサクソンウォリアー産駒のエラトーは、初勝利までに4戦を要すも、函館の条件戦を連勝。メンバー唯一の3勝馬で、実績上位の存在といえる。
春二冠は出走が叶わなかったものの、そこを休養に充てたことが結果的に成長を促し充実一途。上がり馬の筆頭格として本番の出走権を獲得できるか、注目を集めていた。
僅かの差で3番人気となったのがミアネーロ。2023年のリーディングサイアーを獲得したドゥラメンテ産駒のミアネーロは、メンバー唯一の重賞勝ち馬。フラワーCを完勝するなど当地では3戦2勝の成績で、実績上位かつコース巧者といえる。
鞍上は、今回も含め5戦中4戦でコンビを組む津村明秀騎手。2つ目のタイトル獲得を狙っていた。
以下、フラワーCでミアネーロと接戦を演じ2着に好走したホーエリート。中山では2戦2勝のキタサンブラック産駒クリスマスパレードの順で人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、全馬ほぼ揃ったスタート。ただ、ハナにこだわる馬がおらず、各馬、相手の出方を見ながらスタンド前を通過する中、押し出されるようにイゾラフェリーチェが先頭に立った。
2番手につけたのはクリスマスパレードで、テリオスサラとレイククレセントが1馬身半後方を併走。ハミング、フォーザボーイズ、エラトーがそれぞれ半馬身間隔で続き、これら7頭が一つの集団となった。
一方、そこから4馬身離れた第二集団はミアネーロとホーエリートが前に位置し、1馬身半差でガジュノリとボンドガール。さらに2馬身半離れた後方にバランスダンサーとサロニコスが控えていた。
1000m通過は58秒8と、この日の馬場を考えれば平均よりも僅かに遅い流れ。前から後ろまでは12、3馬身の差で、そこまで縦長の隊列にはならなかった。
その後、3コーナーに差しかかったところで第二集団の各馬が前との差を詰め始めるも隊列に大きな変化はなく、4コーナーで全馬が7、8馬身の圏内に固まる中、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入るとすぐ、イゾラフェリーチェを交わしたクリスマスパレードが先頭に立ち、レイククレセントが2番手に上がった。その後ろは、テリオスサラ、フォーザボーイズ、ミアネーロの3頭が前を追う一方で、ボンドガールはなかなか進路を見つけることができず、馬群から抜け出せないでいた。
その後、坂を駆け上がってから、ミアネーロとようやく前が開いたボンドガールが勢いよく末脚を伸ばすも、これらの追撃を振り切ったクリスマスパレードが1着でゴールイン。クビ差2着にミアネーロが入り、1馬身1/4差3着にボンドガールが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分56秒6のコースレコード。前走、初ダートの関東オークスで9着に敗れたクリスマスパレードが、巻き返しに成功し重賞初制覇。見事、本番へのチケットを掴み取った。
各馬短評
1着 クリスマスパレード
2番手追走から直線に向いてすぐに抜け出し、そのまま押し切って勝利。2着馬との差はクビ差だったが、着差以上に強い内容だった。
これで中山コースは3戦3勝と相性抜群。長く良い脚を使えるキタサンブラック産駒で、それが急坂で鈍らないのがこの馬の強み。先の話にはなるものの、宝塚記念やオールカマーといったレースでは、牡馬相手に互角以上の戦いを繰り広げるのではないだろうか。
2着 ミアネーロ
道中の位置取りが勝敗を左右したものの、最後まで勝ち馬を追い詰めての惜敗。ボンドガールとともに最速タイの上がり3ハロン33秒0をマークしたが、中山芝1800m以上でこの上がりを計時した馬は過去5年遡ってもおらず、極限ともいえる末脚。そういった点でも、後ろ向きになるような敗戦ではなかった。
大舞台に強いドゥラメンテ産駒。さすがに本番では人気にならないはずで、一発があってもなんら不思議ではない。
3着 ボンドガール
スタートで僅かに立ち後れ、後ろから3頭目のインに位置。勝負所でロスなく回ってきたものの、直線入口と坂下で二度前が塞がり、上がり最速タイで追い込むも届かなかった。
スタートが決まれば先行するスピードは十分に持っているものの、1800m以上では決め手を活かす競馬が良さそう。ただ、今回のように直線で不利を受ける可能性もあり、なんとも難しいところ。逆に、直線でロスなく馬群を捌ければ、まとめて面倒を見るだけの実力は持っている。
レース総評
10レースにおこなわれた芝1200mの特別戦は、勝ち時計が1分6秒8。これは、2012年のスプリンターズSでロードカナロアがマークしたコースレコードと0秒1しか変わらず、紫苑Sも速いタイムでの決着が予想されたが、前半1000mは58秒8で、同後半が57秒8=1分56秒6と、コースレコードがマークされた。
ただ、この2日間はそれ以外のレースでも速いタイムがマークされ、間違いなく高速馬場といえる状態で、コースレコードに関しては評価が分かれるところ。むしろ、それ以上に評価したいのは、ややスローからの瞬発力勝負になったとはいえ、上がり4ハロンが11秒9-11秒6-11秒4-11秒0と、きれいな加速ラップになっていたことである。
とりわけ、急坂がある最後の1ハロンが最速だったことは驚きで、ここでもう一段階加速したクリスマスパレードと、それを上回る勢いで追い込んだ2、3着馬は、非常に強い競馬をしたといえる。
1着クリスマスパレードは父がキタサンブラックで、三世代目の産駒。意外なことに、これが世代初のJRA重賞勝ちとなったが、現3歳は血統登録数が55頭と非常に少ない。また、牝馬としては2022年のアルテミスS勝ち馬ラヴェルに次いで、2頭目の重賞ウイナーとなった。
脚質を見ると、キタサンブラック産駒でGIを制したイクイノックスとソールオリエンスは、父とは異なり決め手を活かすタイプ。一方、クリスマスパレードは、今回を含めた3勝すべてが2番手追走から直線早目先頭に立って押し切る競馬で、キタサンブラックにそっくり。東京や京都の外回りでキレ負けする可能性はあるものの、勝負所で不利を受けにくい脚質で、よほどハイペースに巻き込まれない限り、大崩れしにくいタイプといえる(ダートが合わなかった前走はノーカウント)。
一方、母父のブレイムは、結果的に引退レースとなった米国のブリーダーズCクラシックで、19戦無敗だったゼニヤッタの連勝をストップした名馬。代表産駒に、2024年の新種牡馬で売り出し中のナダルがおり、母父としてのJRA重賞勝ちは今回が初めてだった。
ところで、かつての京成杯AHがそうだったように、9月中山の開幕週といえば驚愕のレコードが度々マークされた舞台。近年そういったことはなかったが、2024年の春開催は痛みが大きく、例年よりも広い面積で芝の張り替えがおこなわれ、なおかつ高温少雨となったことで、期せずして高速馬場が出現した。
上位人気馬で、この高速決着、瞬発力勝負に泣いたのが8着エラトー。父の父が瞬発力勝負にめっぽう強いディープインパクトとはいえ、父サクソンウォリアーは、瞬発力勝負や高速馬場とは対極にあるといってもいい英国競馬のクラシックを勝利。2連勝した函館も洋芝で高速決着になりにくく、今後、小回りかつ時計を要する馬場状態のレースに出走してきた際は、見直しが必要となる。
写真:shin 1