[連載・ドリームホースが繋ぐ夢と希望]第2回 未来へつなぐ希望の物語 「カサマツノライトオ」が繋ぐ“絶滅危惧血統”の希望と未来

人間は、先祖から受け継いだ火を守る者である。

──アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ

私には、この言葉が心に深く響きます。競馬においても、消えゆく血を守るということは、先人の意志を未来に手渡すことと同じだと思います。

2025年5月23日、一本の知らせが届きました。「カサマツノライトオ、種牡馬登録完了」。この報せをどれほどの人が待ち望んでいたことでしょう。多くの競馬ファンにとっては、ひっそりと過ぎていったニュースだったかもしれませんが、私にとっては、絶えかけた火が、再び灯された瞬間でした。

カサマツノライトオの父は、日本最速とまで称されたスプリンター・カルストンライトオ。そして、その父系には、今や世界中で消えゆこうとしている『ゴドルフィン・アラビアン直系(ゴドルフィン・バルブ系)』という、極めて希少な血統が流れています。

日本最速のスプリンターの血と、幻となりつつある三大始祖の“火”を宿したカサマツノライトオは、思いとは裏腹に、競走馬としてはデビュー前に私が描いたような結果を残せませんでした。そんな彼に、私は命のリレーを託す決意、受け継がれた火を守る決意をしました。

もちろん、種牡馬入りは確実な成果が約束された挑戦ではありません。それでも、この「夢(ロマン)」を信じ、行動する行為そのものが、何よりも尊いと信じる私への新たなる挑戦の一報だったのです。

不運、そして葛藤の末の決断

カサマツノライトオは2021年に笠松競馬場でデビューし、33戦というタフなキャリアを重ね、2025年には6歳を迎えました。しかし、同年4月6日、ゲート内の不良により競走除外、90日の出走停止処分が下されました。さらに鞍上の柴田騎手も落馬して負傷するという事態に。下手をすれば大事故につながっていた可能性もあり、この出来事を機に、現役続行を断念することにしました。

実は私は、カサマツノライトオの所有を決めた頃から、彼を「種牡馬にしたい」という思いを抱いていました。しかし、この事故は、私の心を深く揺さぶりました。荒い気性で騎手にご迷惑をおかけし、その上、成績も芳しくないこのカサマツノライトオの仔を産み育てることが、本当に正しい選択なのか。迷惑をかけてしまった自責の念と、カサマツノライトオの血統を守りたいという思いの狭間で、私は深く苦しみました。

そんな時、一人の友人が声をかけてくれました。「『カサマツノライトオ』の血を残したいという気持ちが、どれほどのものなのかを自分に聞いてみた方がいい。結局、諦めて後悔か、やって(お金の面で)後悔(苦労)でしょ。どちらの後悔が、納得できるのか。ただ、どちらを選択しても、今まで通り応援するよ」。諦めかけていた、いや、実は諦めていた私にかけられたその言葉は、まるで霧が晴れるように、私の気持ちを整理してくれました。

行動することでしか、何も守れない。

──司馬遼太郎

その言葉を胸に、「もうチャレンジもせず、ただ諦める後悔はしたくない。たとえ一頭でも、この血を未来へつなぎたい」と、私は血を残すための、最後の挑戦を開始する決断を下したのです。

偉大な父、カルストンライトオの記憶

2002年、新潟競馬場で行われた『アイビスサマーダッシュ(GⅢ)』で、一頭の馬が風になりました。その名はカルストンライトオ。驚異的なスピードで他馬を置き去りにし、日本競馬史に残るラップタイムを叩き出しました。

《2002年 アイビスサマーダッシュ(芝1000m)》

  • 1ハロン目:12.0秒
  • 2ハロン目:9.8秒
  • 3ハロン目:10.2秒
  • 4ハロン目:9.6秒
  • 5ハロン目:12.1秒

前半3ハロン(600m)通過タイムは32.0秒。中でも2ハロン目と4ハロン目に9秒台を記録したその異次元のラップは、まさに「風を裂く走り」でした。そして、最終タイム53.7秒は、2025年5月現在もなお新潟芝1000mのコースレコードとして破られていません。この快速馬・カルストンライトオの最後の牡馬産駒として生まれたのが、カサマツノライトオなのです。

消えゆく血と、ただ一頭の継承者

カサマツノライトオの価値は、父の実績だけではありません。彼の血統背景には、もうひとつの使命があります。それが、『ゴドルフィン・アラビアン直系(バルブ系)』という父系であること。サラブレッド三大始祖のひとつでありながら、現代ではその系譜を継ぐ馬は極端に少なくなっています。

日本国内では2025年現在、この父系に属しているのは「クリノアドバンス」と「カサマツノライトオ」の2頭のみ。そして、種牡馬登録が完了しているのは、カサマツノライトオただ一頭なのです。

つまり、彼はこの父系を未来へつなぐ『最後の希望の一頭』なのです。

しかい、種牡馬になるというのは“肩書き”ではありません。そこには日々のケアと、確かな資金が求められます。登録・諸手続きの費用はさほど問題ありませんが、種牡馬を維持するためには月20万円程度の費用が必要です。さらに、繁殖牝馬を用意しようとすれば、購入費用にかなりの金額が必要になり、その上、出産までの預託料もかかります。生まれてからも当然出費はかさみますし、無事に生まれるかどうかもわかりません。生まれてくる子供が走ってくれるならば、もちろん金銭的な問題を解決してくれるかもしれませんが、わからないのが競馬です。

この壮大な挑戦に必要な費用は、私一人で背負いきれるものではありませんでした。何とかしてこの夢を現実にするため、様々な方法を模索してきましたが、なかなか具体的な道筋は見えずにいたのです。

そのため、クラウドファンディングの方式を使い、協力者も募らせていただきました。 https://dreamhorse.base.shop/p/00004

他にも、SSオーナーズクラブとの共同企画として、所有している2頭の2歳馬の共有馬主を募るなど、多角的な資金調達を試みています。

そのかいもあって、現在、信頼できる仲間とともに繁殖牝馬1頭を確保し、発情周期に合わせて交配の準備を進めています。とは言え、たった一頭で血を残すのは難しいというのが現実。なんとか他の繁殖牝馬を用意できないかと奔走していますが、この時期に新たな繁殖牝馬を集めるのは容易ではなく、受胎も保証されていません。それでも、諦める理由にはなりません。

多くの方から、このような資金調達に対してご批判もいただきました。ただ、同時に協力していただける方々にも出会えました。ご批判には真摯に耳を傾け、改善できることはできる限り改善したいと思っていますが、応援していただいた方々に報いるためにも、全力で血を残し、強い馬を生産したいと心から願っています。

カサマツノライトオの実績から、この計画は無理だという意見があることも承知しています。しかし、カサマツノライトオの血統の中には、あのタイキシャトルを負かしたテンザンストームと、タイキシャトルが結び付いて生まれたテンザンアモーレの血が流れ、日本のスプリンターの代表であるサクラバクシンオーの血も流れています。そして、父は最速のカルストンライトオ。彼は、次世代を担うスピードスターの可能性を秘めている馬だったのです。

もちろん、血統だけでは走りません。ただ、彼が走らなかったのには理由があります。

カサマツノライトオは、実は蹄に問題があり、スピードを生かせないという弱点も抱えていました。さらに喉鳴りもあり、なかなかトレーニングもままならなかったのです。

ミホノブルボンを管理していた戸山為夫調教師も、その昔、ある取材で、「この馬が生まれ持った資質はマイラー(短距離馬)です。長距離を勝つには、猛特訓でスタミナを植えつける必要があった。スピードや瞬発力は先天的な要素が大きいが、スタミナはスパルタ調教を課すことで可能というのが私の持論です。」と話されていました。

ミホノブルボンのように偉大な馬ではないですが、カサマツノライトオはスプリンターとしての天性の才能があったと思います。しかし、その才能を最大限に生かすためのトレーニングができなかった。だからこそ、この天性のスピードを次世代につなげ、かつスタミナのある馬へと鍛え、その血をつなげたいと思っているのです。

競走馬の生産に携わる以上、「勝つ」ことを諦める気は一切ありません。夢とロマンをつなげながら、勝ちにはこだわっていきたいと思っています。

あなたのお力を貸してください

この挑戦には、仲間の力が必要です。私たちは、クラウドファンディングだけに頼らない「共創型の支援」を模索しています。

  • 繁殖牝馬をお持ちで、ご協力いただける方
  • 血統に詳しい方やご縁をつないでくださる方
  • SNSなどでこの物語を広めてくださる方

批判する者が価値を持つのではない。栄誉は、実際に競技場に立ち、顔を泥と汗と血にまみれながら戦う者に属する。間違いを犯し、何度も失敗しながらも挑戦し続ける者にこそ、真の功績がある。

──セオドア・ルーズベルト(米第26代大統領)

あなたが何かをすると決めたとき、それに反対する人たちが必ず現れる。けれど、自分の心の声を信じなさい。

──エリノア・ルーズベルト(元アメリカ大統領夫人)

この言葉を胸に、私たちは挑戦を続けます。

一頭の馬を通じて、絶えかけた血を未来へとつなぐ──。その灯を守る仲間を、探しています。

カサマツノライトオ、誰にも知られなかった無名の競走馬でした。

その馬は今、種牡馬登録を完了し、 かつての栄光と、いまの現実、そしてまだ見ぬ命をつなぐ最後の継承者の物語に挑戦しています。

どうか、この小さな風を、未来へ。

ご協力を、心よりお願いいたします。

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