天才による"先手必勝"の神技が光った、2013年札幌記念を振り返る。

北海道開催のハイライトと呼ばれるのが、夏のローカル開催唯一のG2競走・札幌記念。夏場にはG1競走が行われないこともあり、数々の実力馬たちがここに集まってくる。最近は、秋の凱旋門賞のステップレースとしてここを使う馬も増えてきた一戦。レース全体のレベルとしてもソダシをはじめ、毎年のようにG1ホースが出走するようになってきたことで、注目度は非常に高い。過去の勝ち馬を見ても、軒並み名馬と呼ばれる馬ばかりだ。

今回は、そんな札幌記念の歴史でも珍しい、函館競馬場で開催された2013年8月18日のレースを振り返る。


2013年は札幌競馬場がスタンド改築工事を行なっていて使用できなかったため、夏シーズンのおよそ3ヶ月の間、函館競馬場で夏の北海道開催が行われていた。

この日は朝から雨が降り続き、レースが進んでいくにつれて芝は掘り起こされ、メインの札幌記念が行われる頃には重馬場にまで悪化していた。ただでさえ、例年にはない長期間の開催で馬場が悪い中、追い打ちをかける雨で、芝の状態は非常にタフなものとなっていた。

1番人気は2.6倍の支持を集めたロゴタイプ。朝日杯FSと皐月賞を制し、ダービーでは5着に敗退したものの、その世代のクラシック戦線における主役の一頭だった。秋のG1シーズンに向けて、弾みをつけたいところ。鞍上には2歳の夏以来のコンビとなる村田一誠騎手が跨った。

しかし、ロゴタイプには歴戦の古馬たちが立ちはだかる。続く2番人気、3.4倍の支持を集めていたのが4歳のトウケイヘイロー。ロゴタイプとは違い、クラシック戦線には出走さえ叶わなかった遅咲きの逸材である。条件戦で地道に経験を積み上げ、オープンクラスに昇格するといきなり2013年のダービー卿CTを制覇。さらには武豊騎手の手綱で鳴尾記念と函館記念をどちらも逃げ切り、重賞連勝中の勢いそのままに、ここに挑んできた。

2頭に続く形でアルゼンチン共和国杯の勝ち馬であるルルーシュ、さらに2年前の秋の天皇賞馬・トーセンジョーダンと続いていた。

牝馬からは、2012年のヴィクトリアマイルを制し、牝馬路線で大活躍していたホエールキャプチャが参戦。さらに2012、2013年のクイーンSを連覇し、洋芝適性をアピールしていたアイムユアーズや、2011年の桜花賞馬マルセリーナなど、実力派5頭が出走していた。

小雨の中、開設以来、初のG2レースが行われる函館。詰めかけた大勢のファンが見つめる先。

──それは正面スタンド4コーナー側にあるゲートの中にいる16頭である。

一斉に扉が開いた。

トーセンジョーダンがスタートで躓いたのを尻目に、横に広がった隊列から抜け出して先頭に立ったのはトウケイヘイロー。ぬかるんだ馬場を踏みしめながら、15頭を引き連れて1コーナーを回っていく。

その後ろにアイムユアーズとアンコイルドの二頭が並んで、好位4番手につけたのがロゴタイプ。中団にトーセンジョーダンやエアソミュールなどがポジションを取っていた。

淡々としたペースで流れて、前半1000mは1分1秒7。2ヶ月間使った上に雨でぬかるんだこの馬場コンディションを考えると、ペースは速い。

前傾ラップのハイペースならば、差し追い込み勢が有利かと思われた。

──しかしそのような思惑は、4コーナーを前にして、一気に吹き飛んだ。

残り400mの標識でカメラの視界の先が先頭に映し変わった瞬間、なんとトウケイヘイローが2番手との差を5馬身ほどに突き放していたのだ。

直線に向いても、後ろからは誰もやってこない。まさに、ひとり旅。

なんとも鮮やかな逃げ切り勝ちだった。

後半1000mの上がりタイムは1分4秒8。しかしそれ以上に前半のハイペースで後続の馬に脚を使わせたため、誰も追いつけなかった。ハイペースで逃げながらも、トウケイヘイローに途中でタメを効かせて3、4コーナーでさらにギアを上げ、そして最後まで粘り切る。まさに天才・武豊騎手の研ぎ澄まされた神技と言うべきであろう。

一方、1番人気に推されていたロゴタイプは3コーナー2番手まで進出したが、直線で脚が上がってしまい5着。中団6番手以降の面々は掲示板に入ることすらできなかった。

例年と比べ、非常にタフな馬場で行われた、印象深い札幌記念であった。

今年もまた、札幌記念がやってくる。今回も私たちを興奮させ、実りの秋に繋がる名勝負を期待することにしようではないか。

写真:安全お兄さん

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