父から受け継いだタフさで39戦を走り抜けて - メイショウサムソン産駒・デンコウアンジュ

無事之名馬、メイショウサムソンの記憶

私が競馬を意識し始めたころに応援していたのは、メイショウサムソンであった。

皐月賞、ダービーの二冠制覇をリアルタイムで目の当たりにしたことは記憶に無いものの、2007年天皇賞(秋)でのパフォーマンスに衝撃を受けたのは覚えている。最内で逃げるコスモバルクの背後にピッタリ付け、直線に入るメイショウサムソン。外側にヨレたコスモバルクの進路に沿うようにして馬場の良いところに持ち出し、一気に馬群から抜け出した。メイショウサムソンは、これで天皇賞の春秋連覇を達成。コスモバルクの癖や進路を見抜いていた武豊騎手とその指示に従ったメイショウサムソン…その"人馬一体"の美しさに、あんぐり開いた口がしばらく塞がらなかった事を覚えている。

メイショウサムソンは古馬中距離G1を毎年のように大きな怪我なく走り続けた、いわゆる「無事之名馬」タイプでもあり、その丈夫さ・タフさも大きな魅力であった。引退馬協会によれば、2022年9月に腸捻転の疑いで開腹手術を受けて一時は危険な状態だと心配されたが、その後は驚異的な回復力で一命を取り留めたそうだ。メイショウサムソンらしいタフさを改めて感じる結果となった。

メイショウサムソンの引退から時が経ち、メイショウサムソンの産駒たちが競馬場に姿を現すようになったころ、1頭の牝馬が競馬界を賑わせた。

父譲りの強さと丈夫さを兼ね備えた娘

今回振り返るデンコウアンジュは父メイショウサムソン、母デンコウラッキー(母父マリエンバード)という血統で、母と同じく田中康弘氏の所有馬である。

そんなデンコウアンジュは2戦目の未勝利戦で川田将雅騎手が跨って5番人気の低評価ながら勝利したものの、直線での進路妨害によって他馬に迷惑をかけてしまい、川田騎手は騎乗停止となってしまう。中一週で向かったアルテミスSには騎乗停止期間中の川田騎手に代わって田辺裕信騎手が跨った。ここでも12番人気と評価を下げた。

1番人気はこの後の阪神JFとNHKマイルCでジーワンを2勝するメジャーエンブレム。さらには府中牝馬Sを制し、エリザベス女王杯で3年連続2着に入るなどの活躍をしたクロコスミアも出走していた。

迎えた直線。逃げるメジャーエンブレムが馬群をさらに突き放して、セーフティーリードをつけたように見えた。しかし、一頭だけ信じられない豪脚で襲いかかってきた馬がいたのだ。デンコウアンジュだ。デンコウアンジュは東京競馬場の長い直線を使って、あれよあれよとメジャーエンブレムに馬体を離して外から並びかける。上がり3F33.3の末脚はメンバー中の最速タイムを叩き出し、クビ差でメジャーエンブレムをとらえたのである。

このデンコウアンジュの勝利は、実にセンセーショナルで尚且つ衝撃を受けた。メイショウサムソン産駒にとっても待望の初・平地重賞制覇となり、彼女の末脚には今後の活躍を期待せざるを得なかった。しかし、阪神JFでは7着で末脚は不発に終わった後、3歳になってもなかなか勝利を掴めず、さらには重賞でも馬券圏内にすら入ることができなくなっていた。それでも牝馬三冠に加えてエリザベス女王杯を走り切ったその丈夫さは、おそらく父譲りなのだろう。その姿に、父メイショウサムソンの力強さを垣間見た。

迎えた2017年の4歳春。ヴィクトリアMでは、蛯名正義騎手が鞍上に選ばれた。
デンコウアンジュは一年半近く勝利が無い上に近走成績が芳しくなかったため、単勝67.9倍の11番人気の評価に甘んじる。スタート直後他馬に挟まれて後退してしまう不利を受けてしまい、4コーナーでも更なる不利を受けたが、直線に入ると外目から一気に末脚を炸裂。勝ったアドマイヤリードには及ばなかったが2着に健闘し、再び実力をアピールした。

その後もヴィクトリアM後も半年以上休むことなくコンスタントに出走。勝利には届かない日々が続いたが、同時に父親譲りのタフさは健在であった。

──そして2019年。6歳になったデンコウアンジュはアルテミスS以来、3年半以上勝利から遠ざかっていた。メイショウサムソンは5歳で引退しているため、父を超えた期間のキャリアを歩み始めたことになったのであった。

ファンを驚かせたのは、3度目の出走となった福島牝馬S。
前々走3着、前走4着と調子をあげていたデンコウアンジュが、待望の勝利を果たしたのである。これは、メジャーエンブレムらを撃破した2歳アルテミスS以来となる、重賞2勝目だった。それも2馬身半差の完勝。これまでの惜敗の鬱憤を晴らす結果となった。久々の勝利にファンは歓喜した。

翌年の愛知杯(小倉2000m)も7歳ながら制して、重賞3勝という戦績を残してターフを去ったデンコウアンジュ。時折り見せるその豪脚には、馬券ファンも悩まされたものだろう。

牝馬にして、オープンを中心に通算39戦を戦った脚元のタフさは素晴らしいものである。デンコウアンジュの子どもたちにも、母や祖父のようなタフさと強さを兼ね備えた競走馬になってほしい…というのは、多くのファンが感じていることだろう。貴重なメイショウサムソン直仔の重賞勝ち馬からひろがる血脈に、是非ともご注目いただきたい。

写真:かぼす、Horse Memorys

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