レース後、騎手たちのこんなコメントを目にしたり耳にしたりすることがあります。

「〇〇が勝負の分かれ目だった」
「勝負どころで置かれてしまった」

それはきっと、実際に乗っていたからこそ感じることなのでしょう。

一方、ファン目線で「あそこが勝負を分けた」と感じられる瞬間もあります。それは、映像が残っていて、その映像を見ることができてこそ、ではないでしょうか。

2016年の川崎記念は、最後の直線でホッコータルマエとサウンドトゥルーの猛烈な追い比べが展開されたレースでした。
ホッコータルマエがアタマ差で凌ぎ、史上初のGⅠ級10勝目という偉業を成し遂げたわけですが、その裏には間違いなく勝負を分けたと言える瞬間があったと思うのです。

2016年1月27日。
JpnⅠ・川崎記念の人気は、2頭に集中しました。
1番人気は、川崎記念3連覇を狙うホッコータルマエ。
4歳で本格化を迎えると、その年のかしわ記念から、出走したレースすべてがGⅠ級という王道路線を歩み続けていました。そこで積み重ねたGⅠ級勝利数は、9つにものぼります。

円熟期を迎えて現役最終年にもなったこの年、7歳というベテランとなっても堂々の1番人気でした。

対するのは、同じく2.1倍ながら僅かの差で2番人気となったサウンドトゥルー。

こちらは明けて6歳ではありましたが、ようやく晩成の血が開花。前走・東京大賞典でGⅠ初勝利を達成していました。ここ3戦はいずれもホッコータルマエに先着と、勢いに乗って世代交代を目論んでいる1頭でした。

3番人気以下は離れてアムールブリエ、カゼノコ、マイネルバイカ、パッションダンスとJRA勢が上位人気を独占。地方勢は人気では大きく水を開けられる形となりました。

レースはホッコータルマエが持ち前のスタートセンスでいつものように好スタートを切りますが、控えて絶好位のポジションを確保。

ハナは船橋のサミットストーンが奪います。
サウンドトゥルーは押して、ホッコータルマエを見る中団のインへ。

1周半という長丁場ながら、終始ホッコータルマエの幸騎手とサウンドトゥルーの大野騎手が互いに意識し合っていたことは、幸騎手がしきりに後ろを確認していたことからも窺えました。

縦長の展開となったなかで、このレースを支配していたのは人気の2頭。
お互いがどこで仕掛けるか、痺れるような駆け引きがあったのかもしれません。

前を行くサミットストーン、マイネルバイカ、パッションダンスから離れた4番手ホッコータルマエという隊列でレースは続きます。

そして迎えた、2周目の向正面。
勝負どころを前に、ひと息ついて態勢を整えようとしていたホッコータルマエ。

その間隙を突くかのように、サウンドトゥルーが内からスルスルと進出、ホッコータルマエの内へと並びかけていきます。

その直後、ホッコータルマエの幸騎手が後ろを確認し、横目でサウンドトゥルーが並んできたことを確認すると、遅れまいと合図を送りました。
この時点では手応えでは圧倒的にサウンドトゥルーが上回っており、馬なりでホッコータルマエの前に出たように見えました。

しかし、次に2頭が大きく映し出された4コーナー手前では、ホッコータルマエの手応えが上回り、サウンドトゥルーは2馬身ほど後ろにいたのです。
公式映像で引きの画になり2頭がクローズアップされなかった約10秒、この僅かな瞬間に勝負を分けたと思われる瞬間がありました。

その時競馬場のゴール手前で大型ビジョンを見ていた私は、その瞬間を目撃したことを今でも鮮明に覚えています。

サウンドトゥルーがホッコータルマエと前を行くパッションダンスの間を突いて外に持ち出そうとした瞬間、ホッコータルマエがブロックするような形となり、サウンドトゥルーの進路が一瞬塞がれてしまったのです。
それは3コーナーに入るところを正面から捉えたような映像でしたが、現在見られる公式映像ではその瞬間は映っていません。

ただ、公式映像でも3コーナーに入るところの2頭を注視すれば、小さくしか映っていませんが、サウンドトゥルーが控えて減速する場面が見られます。
その大型ビジョンの映像が現地だけの映像だったのか……そして他の場所でも当日映っていたのかは分かりませんが、現地の大型ビジョンを見ていた方は私を含め、間違いなくあの勝負の分かれ目を目の当たりにしていたことと思います。

一瞬の判断が勝負を分ける大舞台では、致命的とも言えるブレーキ。

ホッコータルマエに対して後手に回ってしまったサウンドトゥルーでしたが、直線ではホッコータルマエの背後から必死に追い上げ、僅かアタマ差まで追い詰めたのです。

その走りは、力のなせる業であったことは言うまでもありません。

しかし、勝者はホッコータルマエであり、幸騎手の瞬時の判断、その最後のピースがピタリと嵌まってGⅠ級10勝、川崎記念3連覇という作品が完成したことは間違いのない事実です。

2016年の川崎記念を振り返る際、3コーナーのシーンを意識してもう一度見直せば、今までより一層熱き戦いを感じることができるかもしれません。

写真:馬人

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