スペシャルウィークと第19回ジャパンカップ 。「日本総大将」に立ちはだかった世界の猛者たち。

1.ゲーム『ウマ娘』が描いた第19回ジャパンカップ

2022年3月18日、Cygamesが手掛けるアプリゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』において、メインストーリーの第1部・最終章の前編が公開された。スペシャルウィークを主人公として同世代のウマ娘との絆や激闘が描かれたシナリオは、各所で高い評価を得た。しかし、それと同じか、或いはそれ以上に話題となったトピックがある。前編はスペシャルウィークの天皇賞(春)勝利がクライマックスとなるのだが、後編へのフックとしてラストでエルコンドルパサーの凱旋門賞挑戦に言及されたのだ。この時に名前のみ登場したのが、フランスのウマ娘「モンジュー」。モチーフは勿論、1999年の凱旋門賞馬・モンジューである。2018年に放送されたアニメでは、モンジューの立ち位置として「ブロワイエ」という架空のウマ娘が登場していた。4年の時を経て実名で登場したことは、トレーナー(『ウマ娘』のプレイヤー)の間で大きな反響を呼んだ。

そして7月20日、最終章後編においてモンジューが正式に登場。凱旋門賞でエルコンドルパサーと戦ったことでその強さに惹かれて来日を決意、ジャパンカップでスペシャルウィークと激突する展開が描かれた。

しかしここで注目したいのは、このジャパンカップが、「スペシャルウィークとモンジューの一騎打ち」として描かれなかったことである。物語の展開としては来日するモンジューに「日本総大将」スペシャルウィークが立ち向かう、という構図になっていた。しかしレース終盤、スペシャルウィークに追いすがったウマ娘は、「香港の雄」と「英国の星」の二人。そう、このジャパンカップにおいて、出走した海外勢はモンジューだけではなかったのである。

ストーリー中でも「滅多に見ないような海外勢の層の厚さ」が指摘されているが、モデルとなった1999年の第19回ジャパンカップは、非常に豪華なメンバーが顔を揃えたレースであった。「香港の雄」・「英国の星」にも注目しながら、第19回ジャパンカップを振り返ってみたい。

2.襲来した錚々たる海外馬たち

まずは、海外馬の顔ぶれを単勝人気順に見ていこう。

1番人気に推されたのは、フランスの3歳馬・モンジュー。フランス・アイルランドと2か国のダービーを制し、凱旋門賞ではエルコンドルパサーを退けた、欧州最強馬である。凱旋門賞を制したパートナーであるマイケル・キネーン騎手と共に、日本馬の前に立ちはだかった。

3番人気となったのが、ドイツの4歳馬タイガーヒル。ドイツ伝統のGⅠバーデン大賞を連覇し、サンクルー大賞ではエルコンドルパサーの2着に入った強豪である。鞍上はテレンス・ヘリヤー騎手。

6番人気はこちらもドイツの5歳馬ボルジアで、牝馬ながら1997年にドイツダービーとバーデン大賞を制覇している。フォワ賞ではエルコンドルパサーの2着。鞍上は日本での実績も十分のオリビエ・ペリエ騎手。

7番人気は4歳馬ハイライズ。本家イギリスのダービー馬、「英国の星」である。古馬になってからは勝ちきれないレースが続くものの、ジャパンカップの勝利経験もあるランフランコ・デットーリ騎手とのコンビで戴冠を狙う。

9番人気はイギリスの4歳馬フルーツオブラヴ。欧州だけでなく、香港・ドバイ・カナダへの遠征も経験している国際派である。鞍上はこちらもジャパンカップ勝利の実績を持つマイケル・ロバーツ騎手。

12番人気の低評価に甘んじたのは6歳の騸馬インディジェナス。香港ヴァーズや香港ゴールドカップを制して香港の年度代表馬に選ばれた「香港の雄」であり、KGVI & QESに続く海外遠征の舞台として選ばれたのがジャパンカップであった。鞍上はダグラス・ホワイト騎手。

こう見ると分かる通り、「香港の雄」・「英国の星」は共に、十分な実績を持ちながらもそれほど高い評価を受けていたわけではなかった。海外馬の陣容は、それだけの層の厚さを誇っていたのである。

3.迎え撃つ日本馬たち

では、この強力な海外馬を迎えた日本馬の顔ぶれはどのようなものだったのか。
主だった馬をこちらも単勝人気順に見ていきたい。

モンジューに続く2番人気に支持されたのは、前年に日本ダービーを制した4歳馬スペシャルウィーク。前々走の京都大賞典こそ不覚を取ったものの、天皇賞(秋)は見事に立ち直り、天皇賞春秋連覇を達成する。同期のグランプリホース・グラスワンダーが回避したこともあり、「日本総大将」として世界の猛者に挑むこととなった。鞍上は武豊騎手。

4番人気は3歳馬代表・ラスカルスズカ。菊花賞3着からジャパンカップに駒を進めたが、この馬はサイレンススズカの半弟という出自でも注目を集めた。稀代の快速馬が天へと旅立った東京競馬場には初見参。古馬・海外馬相手にどれだけ戦えるのか、期待されての4番人気であろう。鞍上は柴田善臣騎手。

5番人気は5歳馬ステイゴールド。前走の天皇賞(秋)はスペシャルウィークの2着となった。前年のジャパンカップは10着と大敗しているが、巻き返しを図る。鞍上は熊沢重文騎手。

8番人気は3歳牝馬ウメノファイバー。府中2400は勝利したオークスと同舞台である。前年にエルコンドルパサーでジャパンカップを制した蛯名正義騎手と共に、強豪に挑む。

この他、小倉記念の覇者でコメディアン・萩本欽一氏がオーナーの5歳馬アンブラスモアや、皐月賞2着・ダービー4着の3歳馬オースミブライトらも出走し、実績馬たちが世界の名馬を迎え撃った。

4.日本と世界のぶつかり合い

レースはアンブラスモアの逃げで始まった。インディジェナス・タイガーヒル・ステイゴールドらが先団を形成し、ハイライズ・フルーツオブラヴらが中団に位置する。スペシャルウィークはその後ろ、10番手辺りにつけ、モンジューとボルジアはこれを見る形で更に後方。大欅の辺りでスパートしたスペシャルウィークは直線に入ると抜群の手応えで馬場の真ん中を抜けてきた。モンジューが鋭く追い込み、「香港の雄」インディジェナスと「英国の星」ハイライズも追いすがるものの、及ばない。スペシャルウィークが上がり最速の末脚を炸裂させ、1着でゴールした。

スペシャルウィークが2着インディジェナスにつけた着差は1馬身半。快勝と言って良いだろう。しかし、3着にはハイライズ、4着にはモンジューが食い込み、スペシャルウィークを除く日本馬最先着は5着のラスカルスズカ。終わってみれば海外勢の層の厚さが際立つ結果であったとも言える。その中で見事に勝利したスペシャルウィークは、「日本総大将」という称号を確固たるものにした。その後もゼンノロブロイなど、この称号が与えられた馬が登場しながらも、いまだに「日本総大将といえばスペシャルウィーク」というイメージが強いのも頷ける。ゲーム『ウマ娘』がこの第19回ジャパンカップをメインストーリーのクライマックスで描いたことで、そのイメージは更に強固になっていくだろう。

第19回ジャパンカップから20年以上が経過し、レースの位置付けは変わった。特に海外馬の参戦が減少したことは大きな変化と言えるだろう。海外馬の勝利は2005年のアルカセット以来無く、2019年には、史上初めて日本馬のみでレースが行われた。日本馬のレベルが向上したこと、12月の香港国際競走が国際GⅠに昇格したことなど、要因は様々あるだろうが、スペシャルウィークが勝ったときのような「日本と世界がぶつかり合うレース」という位置付けから、「日本馬によるクラシックディスタンスの頂上決戦」という位置付けに変化してきたと言えるだろう。21世紀になって本格的に競馬を見始めた身としては、「日本馬が勝つのか、海外馬が勝つのか」と心躍らせていた時代の競馬ファンに羨ましさを感じるところだ。

JRAもジャパンカップの現状を踏まえ、帯同馬が出走できる国際競走を設置したり、東京競馬場に国際厩舎を新設したりするなど、改革を進めている。その成果もあってか、2022年は7頭の海外馬から出走表明があり、そのうち4頭を迎えてジャパンカップが行われた。令和の時代、ジャパンカップはどのようなレースになっていくだろうか。「日本総大将」が凱旋門賞馬や各国のダービー馬とぶつかり合う、第19回ジャパンカップのようなレースが見られることを願っている。

写真:かず

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