[重賞回顧]航海は始まったばかり!超新星ヴェラアズールが、芝転向6戦目でG1制覇!~2022年・ジャパンカップ~

ワールドカップが開幕しておよそ1週間。残念ながら、開催国カタールの1次リーグ敗退が早々に決まってしまったが、日本、イラン、サウジアラビアなどのアジア勢が、ヨーロッパや南米の強豪を続々と撃破している。

今まで以上に実力が拮抗していることはもちろんのこと、ヨーロッパの各国リーグはシーズンまっただ中。それを中断して開催されるということも、少なからず影響しているのだろうか。また、カタールで行なわれるという「地の利」も、アジア勢には少なからずあるのかもしれない。

一方、こじつけかもしれないが「競馬のワールドカップ」と呼びたいのが、ジャパンカップ。その舞台となるのは日本を代表する東京競馬場だが、JRAの大レースは、直線が長く、道中そこまで高低差のないコースで行なわれることがほとんど。言い換えれば、ヨーロッパとアメリカのちょうど中間で行なわれているのが日本の競馬である。

当然、日本のサラブレッドはその大レースを勝つために生産されており、最も重要なスピードと瞬発力を強化するための配合がなされ、外国調教馬に比べて地の利もある。

もちろん、大前提として日本競馬のレベルそのものが、以前とは比べものにならないほど上がっているが、前述した理由から、ジャパンCで日本調教馬が勝ち続けているのも当然であり必然。逆に、100年を超える凱旋門賞の歴史の中で、いまだ欧州調教馬しか勝利していないのもまた、必然といえるのかもしれない。

ところが、そんな状況が長く続いた2019年。外国調教馬がジャパンカップに1頭も出走しないという事態が起きてしまった。これがワールドカップであればおそらく開催されないが、無論ジャパンCは行なわれる。果たして、それで良いのだろうか──。

それから2年半の時が流れ、今年5月。東京競馬場に国際厩舎が誕生した。

以前から計画はあったものの、2019年の「事件」が多少なりとも建設を早めたのは間違いなさそうだが、これにより海外調教馬の不利が多少なりとも軽減されることになった。

例えば、その一つが輸入検疫。これまでは空港到着後、千葉県白井市にあるJRA競馬学校に移動して受ける必要があったが、この国際厩舎で受けることが可能に。それにより、移動や環境の変化といった負担が軽減された。

また、それぞれの馬房には監視カメラが設置されており、ホテルに宿泊しているスタッフも、馬の様子をチェックすることが可能に。これは、他の主催者でもやっていない試みのようで、これらが海外メディアに大きく取り上げられた成果か、今年は5年ぶりに4頭の外国調教馬が出走。その中に、凱旋門賞馬アルピニスタの姿がない(出走表明も故障で回避。そのまま引退)のは残念だが、それでもいずれ劣らぬ強豪が揃った。

ただ、人気の中心となったのはやはり日本調教馬で、単勝10倍を切ったのは4頭。とりわけ3頭に人気が集中し、最終的に他の2頭から少し抜けた1番人気に推されたのがシャフリヤールだった。

デビュー3戦目の毎日杯を当時の日本レコードと同タイムで勝利すると、そこからダービーに直行して連勝し、一気に世代の頂点へと上り詰めた本馬。その後、神戸新聞杯とジャパンCは連敗したものの、今春のドバイシーマクラシックでは成長力を見せつけ、ダービー馬として初となる海外GI制覇を成し遂げた。前走の天皇賞・秋は5着と敗れたが、上積みが期待されたか、優勝候補の筆頭と目されていた。

これに続いたのが、3歳馬ダノンベルーガ。デビュー2連勝で共同通信杯を制し、世代トップの実力を示したものの、上位人気に推された皐月賞とダービーはともに4着。期待に応えることができなかった。それでも、古馬との初対決となった前走の天皇賞・秋も3着と好走し、シャフリヤールには先着。潜在能力は現役トップクラスとみられ、大きな注目を集めていた。

わずかの差で3番人気となったのがヴェラアズール。体質の弱さから、デビューからダート戦に出走し続けていた本馬が初めて芝のレースに出走したのは、今年3月。そこをいきなり勝利すると、それからわずか3戦でオープン入りし、昇級初戦かつ重賞初挑戦となった前走の京都大賞典でも差し切り勝ちを収めた。ジャパンC出走馬としては異色ともいえる存在で、今回は世界的名手のムーア騎手が騎乗。一気にGI制覇なるか期待されていた。

そして、やや離れた4番人気に推されたのがヴェルトライゼンデ。ホープフルSで2着、ダービーも3着と好走するなど高い能力を示していたが、4歳時に屈腱炎を発症。1年以上の休養を余儀なくされてしまった。それでも、復帰戦の鳴尾記念をいきなり勝利して、待望の重賞制覇を達成。前走のオールカマーは7着に敗れたものの、左回りはこれまで3戦してすべて3着内に好走しており、しかも今回は好枠をゲット。こちらも、大きな注目を集めた。

レース概況

ゲートが開くと、シャドウディーヴァがわずかに出遅れた以外は揃ったスタート。その中から予想どおりユニコーンライオンが飛び出し、同枠のハーツイストワールが2番手。3番手のインにシムカミルがつけ、外にテーオーロイヤル。中にヴェルトライゼンデが位置していた。

一方、上位人気馬では、ヴェラアズールがちょうど中団9番手につけ、ダノンベルーガがその直後を追走。そして、シャフリヤールはさらにそこから2馬身差。後ろから3頭目に構えていた。

前半1000mは1分1秒1の遅い流れで、先頭から最後方のリッジマンまでは、およそ13、4馬身の差。しかし、リッジマンは馬群から3馬身ほど離れて追走していたため、それ以外の17頭は10馬身ほどの一団となって進んでいた。

レースは後半に入り、ユーバーレーベンがロングスパートを開始した以外、隊列にほぼ変化はなかったが、残り1000mから徐々にペースアップ。続く3~4コーナー中間で、ダノンベルーガとシャフリヤールも仕掛けて馬群はさらに凝縮し、レースはそのまま最後の直線勝負を迎えた。

直線に向くと、逃げ込みを図るユニコーンライオンのリードはおよそ1馬身。ハーツイストワールがこれに並びかけ、外からボッケリーニが差を詰めるも、早くもダノンベルーガがこれらを捕らえにかかって先頭へ。さらに、そこへヴェルトライゼンデとシャフリヤールが迫り、残り200mからは3頭のマッチレースになるかと思われた。

しかし、馬群の間を縫うように追い込んできたヴェラアズールが、さらに加速してこの争いに加わると、先に抜け出したシャフリヤールとヴェルトライゼンデをゴール前で並ぶ間もなくかわしさり1着でゴールイン。4分の3馬身差でシャフリヤールが続き、クビ差の3着にヴェルトライゼンデが続いた。

良馬場の勝ちタイムは2分23秒7。重賞初出走初勝利を成し遂げたばかりのヴェラアズールが、一気の3連勝でGI初制覇を達成。開業7年目の渡辺薫彦調教師も、これがJRAのGI初勝利となった。

各馬短評

1着 ヴェラアズール

デビュー前から骨折や骨瘤など体質の弱さがあって、デビューから2年間はダート戦に出走し、芝のレースに初めて出走したのがわずか8ヶ月前。この時点で、ジャパンCはおろか、芝のGIを勝利するとは、果たしてどれくらいの人が予想しただろうか。

道中はちょうど中団、馬群の中に位置し、直線は内に進路を取り末脚一閃。特に、最後の伸びは、天皇賞・秋を制した際の父エイシンフラッシュを彷彿とさせるような走りだった。

今回のように直線が長い大箱のコース。内回りよりも外回りコースが向くのは明らかで、距離もおそらく2000m~2400mがベスト。芝では底を見せておらず、次走がどこになるのか、出走してきただけでも楽しみな存在。

2着 シャフリヤール

内枠有利のジャパンCでは、かなり不利ともいえる7枠からスタート。得意の瞬発力勝負になったとはいえ、道中も外々を回って他馬より余分に距離を走っており、1番人気馬にこんな言い方はおかしいかもしれないが、大健闘といえる内容だった。

こちらも得意条件はヴェラアズールと同じはずで、来年もドバイシーマクラシックが始動戦となるだろうか。いずれにせよ、さらなるビッグタイトルの上積みを期待したい。

3着 ヴェルトライゼンデ

最高の枠を引いたが、そのぶん抜け出すのに手間取り、最後の最後でキレ負けしてしまった。

ただ、左回りが合うのは間違いなさそうで、これで4戦してすべて3着以内に好走。2、3歳時にGIで好走実績があるとはいえ、屈腱炎から復帰してまだ3戦目で、初めて重賞を勝ってからもまだ3戦目。間もなく6歳シーズンを迎えるが、長期の休養をはさんでいるため使い減りしておらず、この先もまだまだ活躍が見込めるのではないだろうか。

レース総評

前半1000mは1分1秒1で、同後半は58秒0。完全な後傾ラップで瞬発力勝負となったが、最後、内から2頭分をものすごい勢いで伸びてきたヴェラアズールの走りは、天皇賞・秋を勝利した際の父エイシンフラッシュを彷彿とさせた。

体質面で弱いところがあったとはいえ、デビューから16戦連続でダートに出走し、2勝をあげていたヴェラアズール。ただ、年齢を重ねる毎に体質が強化され、満を持して芝のレースに出走したのが、今年3月の淡路特別だった。

ところが、そこからは毎レース上がり最速をマークし、芝転向後6戦4勝3着2回で、日本を代表する大レース、ジャパンCを勝利するまでになったのだから競馬は分からない。

ダートを主戦場としていた馬が芝に転向し、2000m以上の古馬混合GIを勝利するのは、昭和63年の年度代表馬タマモクロスとアグネスデジタルくらいしか思いつかず(地方出身馬を除く)、後者は3歳でマイルCSを勝っていた。そう考えると、ヴェラアズールはこれまでの日本競馬にはほとんどいなかったタイプといえる。

とはいえ、母ヴェラブランカの兄姉妹には重賞3勝のフサイチホウオーや、オークス馬トールポピー、そして秋華賞馬のアヴェンチュラがおり、もともと芝に適性があったのは間違いないだろう。

一方、父はエイシンフラッシュで、産駒は現2歳が6世代目。年初の京成杯を制したオニャンコポンが産駒の重賞初勝利だったが、2頭目のヴェラアズールは、父が4度挑戦して手にすることができなかったタイトルを、なんと1回でクリアしてしまった。

ただ、父がキングズベスト産駒の中でそうだったように、ヴェラアズールもまた、エイシンフラッシュ産駒の中では特殊な存在。本来、キングズベストやエイシンフラッシュの産駒は、持久力を武器にする馬が大半で、バリバリのヨーロッパ血統にもかかわらず、エイシンフラッシュが瞬発力を武器に活躍できたのは、管理した藤原英昭厩舎のチーム力によるところも大きい。

そして今回、藤原英昭調教師が管理するダービー馬シャフリヤールを差し切ったのがエイシンフラッシュ産駒だったところにも、血と人のドラマがあった。

上述したように、芝では6戦4勝3着2回と、まだ底を見せていないヴェラアズール。直線の長い大箱のコース向きだが、次走どのレースに出て来ても本当に楽しみで、可能性がさらに広がったヴェラアズールの航海は、まだ始まったばかりだ。

写真:shin 1

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