[インタビュー]騎手引退から20年余りの時を経て、競馬の世界へ。『馬物語』予想家、小田部雪さんの意気込み。

佐賀競馬場で売られている競馬専門紙の『日本一』が2022年7月24日をもって休刊というニュースは、多くのファンに驚きを与えた。地方競馬の売上はネット販売の追い風に乗って好況という記事も散見されるが、競馬を取り巻くその他の環境は新型コロナウイルスの影響もあり、苦境に立たされているものもある。

そんな淋しいニュースの後に、続いては良い意味で驚きの報せが届いた。新たな競馬新聞、『馬物語』が創刊されたのだ。『馬物語』は、元『日本一』の社員だった永瀬将尚さんが新たに会社を立ち上げて発行に至った。

さらに驚いたのは予想家の顔触れだ。立ち上げられた永瀬さんが本紙の予想をしているが、二人の元騎手も紙面で予想をされている。そのうちのお一人、小田部雪さんは現役の騎手を引退されてから20年余りの時を経て、競馬の世界に戻られることとなった。その経緯や、『馬物語』での予想家デビューをされた感想、馬券の予想方法などを伺った。


──騎手を引退された後は、どうされていたのでしょうか?

「3人の子供の母親業もやりつつ、競馬とは違う業界での仕事をしていました。ただ、ここ2~3年は子どもが大きくなって佐賀競馬場にも足が運べるようになっていました!」

──『馬物語』のオファーは、どのような経緯からでしたか?

「中津時代の幼馴染が佐賀で厩務員をしているんです。その人から『日本一』の休刊、そして『馬物語』創刊の話が教えてもらい『もしよければ携わってみないか?』と誘って頂きました」

──最初に聞いた時は、どう思われましたか?

「私なんかで務まるのか……という不安がありました。競馬の世界での影響力も全く無いし、新しい新聞の力になれるのか、予想家としてやっていけるかは、心配でした。競馬場に行っても自分のお気に入りの馬しか見ていませんでしたからね。それでも地方競馬、特に愛着のある九州に残っている佐賀競馬を盛り上げられたらという思いで、お引き受けすることにしました」

SNSの反応見ると、古くからのファンを中心に、やはり「小田部雪」という名前を目にすると、驚きや懐かしさを感じた人も多かったようだ。

予想家としてデビューを果たした小田部さんだが、「攻めている予想(穴予想)をしている」という口コミも広がっている。

「本紙の予想を真似してもつまらないですし、元ジョッキーだからこそ、という視点で考えています。だから人気薄の馬に重い印がつくこともありますけど、競馬の予想は難しいですね。過去のレースの動画を見ながら、『ゲートはあまり早くないけど、二完歩目が早い』とか『この馬は3コーナーで気を抜く癖がある』といった特徴を手書きでまとめています。新聞社から届く馬柱をコンビニでプリントアウトして、手書きでそこに馬の癖などを記入しながら予想しています。機械オンチなのでアナログな方法で予想してます(苦笑)」

──馬券の的中率は、どうですか?かなり当たってますか??

「実は私……馬の乗り方は知っていますが、馬券の買い方はつい最近まで知らなかったんです(苦笑) 券売機の前で案内をされている職員の方に『この馬の単勝馬券を買いたいのですが、どうすれば良いですか?』と質問して、ようやく買えました。その職員の方には“最近競馬を始めた女性が、一人で競馬場に来た”と思われたかもしれません(笑)」

ちなみに小田部さんがその時、買おうと思っていた単勝馬券はタガノキトピロという馬だったという。

「JRAで1勝して佐賀に転入してきたこの馬は栗毛に派手な流星がカッコイイんです。瞳もすごくカワイイ。一目ぼれでした。佐賀では16戦13勝、今年になってからは5戦して全勝(2022年10月現在)。3月に重賞の九州クラウンを勝った時は、思わず競馬場で泣いてしまいました。今は休養中なので、レースに戻ってくるのがとても楽しみです」

──佐賀の騎手で、注目をしている方はいらっしゃいますか?

「石川慎将(いしかわしんすけ)騎手です。彼のお父さんは元騎手の石川浩文調教師。中津に居た頃は一緒にレースに乗っていました。なので、慎将騎手は幼い頃から知っていました。子供の頃は本当に小さくて『背負っているランドセルの方が大きいのでは?』というほどでした。まるで親戚の甥っ子の成長過程を見ているようです(笑)」

タガノキトピロを好きになり、競馬への情熱が戻ってきたタイミングで予想家の誘いを受けた小田部さん。これからは『馬物語』をどんどん宣伝していきたいと力強く語る。

「まだコロナ禍ではありますが、落ち着いたら他の競馬場での予想イベントがあれば参加してみたいです。騎手時代もいろんな競馬場でレースに乗せて頂きましたが、まだ行ったことない競馬場もたくさんあります。弥冨に移転した名古屋競馬場にも、いつか行ってみたいですね!」

小田部さんは、予想をする際に馬に乗っていた頃の感覚を思い出しているという。ただ、3人のお子さんに「ママは昔、馬に乗っていたんだよ」と言ってもあまり興味は示されないそうで、競馬場にも一緒に来てくれない、と苦笑いする。

ある時は母親、ある時は競馬予想家。そしてある時はタガノキトピロのファン。様々な顔を持つ小田部さんだが、その根底にあるのは『競馬が好き』ということ。それが今回のインタビューからも伝わってきた。競馬に育てられ、競馬を愛して、そして競馬への恩返しとして──佐賀競馬、ひいては地方競馬の盛り上がりに一役買って出たのだろう。

「コンビニのeプリントサービスで『馬物語』を手に取って頂くことも可能ですので、多くの方に見て頂きたいです!」

インタビューの最後にしっかりと紙面のアピールをされたその顔は、『馬物語の予想家・小田部雪』の顔だった。

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