![[エッセイ]「また、会いたいな」。白い奇跡が織りなす夢物語](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/08/2025081403-scaled.jpg)
初めてその存在に巡り合ったときのことを、私はいまでもはっきりと覚えている。
パドックをゆっくりと歩く、一頭の白毛馬。
純白の馬体は陽光に照らされて眩しく輝き、汗をかいてほんのりピンク色に染まったその肌は、奥にある血管や筋肉すら透けて見えるようで、思わず息を呑んだ。
競馬場にはいろいろな馬がいる。鹿毛、栗毛、黒鹿毛、芦毛──だが、白毛はやはり特別だった。純粋で、力強い、白。その姿に目が離せない。
ふと見ると、付き添う厩務員さんの装いも上下真っ白だった。晴れ舞台に臨む愛馬への演出が、また心地よかった。馬と人がひとつの景色になって、場内の視線を奪っていた。

国内で生まれる年間数千頭のサラブレッドの中で、白毛馬はほんの一握りだ。めったに会えないから、白毛馬と出会えた日は、少しうれしくて、なんだか運がいい気持ちになれる。
パドックでは「白い!」というざわめきが拡がり、アイドルが登場したかのような独特の空気が生まれる。誰もが思わずスマホを構え、目を輝かせながら出会いの証を写真に収めている。
ゲートが開くとスタンドからの声はひときわ熱を帯びる。爽やかな風が渡る新緑のターフで、泥が飛び散るダートの上で、そのシルエットが群れの中から一頭だけ、すっと浮かび上がる。一心不乱に走る彼らに自然と惹かれる。きっと白毛馬には、レースの勝ち負けを超えて人々の心を揺さぶる特別な力が備わっているのだろう。
なぜ、世にも珍しい白毛馬が、こんなにも日本の競馬に根付いているのだろう。そのルーツはいくつかあるけれど、一番大きな起点を辿ると、一頭の牝馬──シラユキヒメに行きつく。
1996年4月4日。真っ黒な名種牡馬サンデーサイレンスと、オーソドックスな鹿毛のウェイブウインドから、突然、全身真っ白な仔馬が産まれた。母になったシラユキヒメは、ソダシやアマンテビアンコ、ハヤヤッコといった名馬の祖となり、想像をはるかに超える「白い奇跡の系譜」を確かなものにしていった。白毛馬が当たり前のように活躍するこの時代に立ち会えることは、ほんとうに幸せなことだ。

私自身、白毛馬に会うたびに思う。
きれいだな、と。
また会いたいな、と。
彼らは競馬場に非現実を差し込んでくれる。その姿を見つめるだけで、理由もなく心が晴れる。白毛馬は私たちに競馬場での小さな魔法をかけてくれる。
もし、まだ彼らを生で見たことがないなら、ぜひ一度、競馬場へ足を運んでみてほしい。テレビやスマホ越しでは味わえない、競馬の新たな奥行きを体感できる。彼らが織りなす物語は、これからも競馬の歴史に彩りを加えていく。遺伝子の神秘が生み出した奇跡の存在。それがいま、日本のターフに生きている。
白い風が吹き抜ける競馬場で、その続きを、ぜひあなたも見つけてほしい。
写真:ふわまさあき
■白毛ファン待望の「白毛本」が大好評発売中!
ソダシ、ハヤヤッコ、アマンテビアンコ、マルガ──そしてゴージャスやアオラキなど、近年多くの白毛馬たちが競馬界を盛り上げている。そんな白毛馬たちの魅力をまるごと詰め込んだ一冊『名馬コレクション 純白の奇跡』が大好評発売中。ハクタイユーからシラユキヒメ一族、さらにはゴージャス・アオラキといった最近の白毛血統まで、白毛馬たちを徹底的に取り上げた書籍となる。その美しき純白の名馬たちを心の底から堪能できる一冊だ。
※本コラムは書籍未収録です
■巻頭は国枝調教師が語るハヤヤッコとの日々
巻頭 国枝栄調教師インタビュー
最後に出会った白毛馬との9年間
- 取材・文 和田章郎
第1章 シラユキヒメ一族 part1
ソダシ ”純白の奇跡”を体現したスーパーアイドル
マルガ デビュー前から話題沸騰したニューアイドル
ハヤヤッコ 愛され続けた、速くて白いタフネス
ユキチャン 白毛旋風の先駆けとなった砂上のヒロイン
アマンテビアンコ ダート競馬の新章を刻んだ白き新星

第2章 シラユキヒメ一族 part2
シラユキヒメ 日本競馬に白毛を定着させた一族の礎
ブチコ おてんば娘から偉大な母へ
シロニイ 碧眼のイケメン兄さん
マイヨブラン、カルパ、エクラドネージュ、シュネーグロッケン、スーホ ほか
第3章 輝き続ける白毛血統
ハクタイユー 一族(ハクホウクン、ハクバノデンセツ・ハクバノスケなど)
The Opera House 一族(アオラキ、スノーエルヴァなど)
マダムブランシェ 一族(ユキンコ、デルマイダテンなど)
サトノジャスミン 一族(ゴージャス、ジャジャミンなど) ほか
第4章 白毛を愛する人々
ヤシ・レーシングランチ代表が明かす・ゴージャス育成秘話
アオラキ 新天地での挑戦 笠松・笹野調教師インタビュー
ナリタファームで過ごす 白毛馬たちの幸せな日々 ほか

【特別寄稿】『私と白毛』
矢野吉彦さん(フリーアナウンサー/競馬評論家)
木津信之さん(日刊ゲンダイ記者)
栗林さみさん(フリーアナウンサー)
一瀬恵菜さん(競馬大好きタレント)
和田稔夫さん(週間Gallop記者)
太田尚樹さん(日刊スポーツ記者)
第5章 白毛を知る
白毛を化学する
世界の白毛事情
白毛馬たちの第二ステージ ほか

書籍名 | 純白の奇跡 名馬コレクション |
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監修 | ウマフリ |
発売日 | 2025年08月5日 |
価格 | 定価:2,980円(税込) |
ページ数 | 96ページ |
