日経新春杯は、JRAの年間スケジュールで最初に行なわれるGⅡ競走。1ヶ月後の京都記念とともに、春の中・長距離路線に向かう古馬たちにとって、重要なステップレースとなっている。
ただ、別定戦の京都記念に比べ、ハンデ戦の日経新春杯は、前走条件戦に出走していた馬や4歳馬が活躍する傾向にある。2022年に関しては、前走条件戦組が不在だったものの、クラシックに出走した4歳馬が2頭出走し、人気の中心となった。
その中で、単勝2倍を切る圧倒的な支持を集めたのが、4歳牡馬のステラヴェローチェ。前年の皐月賞とダービーで3着に好走し、菊花賞と前走の有馬記念でも4着に健闘。大舞台であと一歩のレースが続いたものの、今回のメンバーでは断然の実績でもある。4ヶ月前に同じ舞台で行なわれた神戸新聞杯も勝利しているため、大きな注目を集めていた。
2番人気は、5歳馬のフライライクバード。セレクトセール1歳市場で税込1億800万円の高値で取引された本馬。出世にやや時間を要したものの、2走前、同じコースで行なわれたムーンライトハンデキャップを勝利。オープンに昇級すると、前走のアルゼンチン共和国杯でも3着に好走した。中京競馬場は4戦2勝2着1回3着1回と相性が良く、重賞初制覇が期待された。
僅差の3番人気に続いたのは、4歳馬のヨーホーレイク。2歳時は、デビューから2連勝を飾り、続くホープフルSも3着に好走。クラシックで活躍が期待されたものの、きさらぎ賞2着から挑んだ皐月賞は5着。ダービーも7着に終わってしまった。その後、目に外傷を負い、その治療が長引いたため秋は全休。そのため、今回はダービー以来の実戦となるものの、ポテンシャルの高さは間違いない良血馬で、上位人気に推されていた。
そして、4番人気に推されたのが5歳牝馬のクラヴェル。4走前、格上挑戦で出走したマーメイドSで2着に好走すると、そこから重賞で連続3着。さらに、GI初挑戦となった前走のエリザベス女王杯でも3着に好走した。土曜日に組まれた牝馬限定の愛知杯に登録があったものの、ゲート裏まで距離があるとテンションが上がるということで、あえてこちらに出走。この馬もまた、重賞初制覇を狙っていた。
レース概況
ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートから、予想どおりトップウイナーが逃げる展開に。2番手に続いたのは、前走の中日新聞杯で1、2着のショウナンバルディとアフリカンゴールド。一方、断然人気のステラヴェローチェは、フライライクバードやモズナガレボシとともに、4番手で1コーナーを回った。
向正面に入ると各馬バラバラの隊列となり、先頭から最後方まではおよそ30馬身と、かなり縦長の隊列。それでも、前半の1000m通過は1分0秒2とそれほど速くなく、3番人気のヨーホーレイクは9番手。クラヴェルは、大きく離れた後ろから3番手に控えていた。
その後、残り1000mを切ったところで、中団の各馬が上昇し始めて少しペースが上がり、3~4コーナー中間で15馬身ほどの差に。そして、前の10頭が固まるようにして4コーナーを回り、レースは最後の直線勝負へと入った。
直線に向くとすぐ、ショウナンバルディとアフリカンゴールドが先頭に。そこから前走の再現を図ろうとするも、坂を上ったところで、今度は、馬場の中央からステラヴェローチェとヨーホーレイクが併せ馬の形で抜け出す。
残り100mを切り、そこから完全に2頭のマッチレースとなるも、勝負所でステラヴェローチェをマークするように仕掛けたヨーホーレイクの末脚が上回り、見事1着でゴールイン。4分の3馬身差でステラヴェローチェが続き、そこから3馬身離れた3着にヤシャマルが入った。
良馬場の勝ちタイムは2分11秒7。ダービー以来、7ヶ月半ぶりに実戦復帰したヨーホーレイク。1年3ヶ月ぶりの勝利が重賞初制覇となり、オーナーの金子真人ホールディングスは、土曜日の愛知杯に続き2日連続の重賞制覇となった。
各馬短評
1着 ヨーホーレイク
休み明けを苦にせず快勝。もちろん、ステラヴェローチェとの2kgのハンデ差や、マークする立場になったことは大きい。ただ、初の古馬混合戦が7ヶ月ぶりの復帰戦というのは、ある意味この馬にとって大きなハンデだった。
父ディープインパクトに、母クロウキャニオンといえば、特にPOGプレイヤーにとってはお馴染みの血統。しかし、この兄弟から芝の重賞ウイナーが誕生したのは、実は8つ上の全兄カミノタサハラ以来(2014年の弥生賞)ひさびさのこと。
また、この兄弟姉妹が、中京競馬場で好走しているのも一つの特徴で、全姉のラベンダーヴァレイが4勝目を挙げた鳥羽特別は2018年12月の中京開催。さらに、クールウォーターの新馬戦勝利や、半弟のダンテスヴューが秋に未勝利戦を勝利したのも当場で、去る1月9日に行われた3勝クラスの新春Sでは、全兄のストーンリッジが15番人気の低評価を覆し3着に激走した。
ヨーホーレイク自身も、きさらぎ賞で2着に好走しており、今後この兄弟姉妹が中京競馬場のレースに出走してきたときは注目したい。
2着 ステラヴェローチェ
実績断然は誰もが認めるところ。懸念されたのは有馬記念からの中2週だったが、目立ったイレ込みや、大きな馬体減などは見られなかった。
前述したとおり、2kgのハンデ差やマークされる立場になったことは、多少なりとも影響したはず。同じバゴを父に持つクロノジェネシスと同様、今後も非根幹距離のレースが主戦場になるだろうか。
3着 ヤシャマル
1年前に2勝目を挙げてから一気の3連勝。しかし、その後は4戦連続してオープンの壁に跳ね返されていた。
上位2頭から3馬身離された3着で、多少、漁夫の利があった感は否めない。とはいえ、直線の長いコースで行なわれる非根幹距離のレースでは、今後も常に警戒が必要な存在になりそう。
レース総評
前半1000mは1分0秒2で、12秒4のラップを挟み、後半の1000mが59秒1。やや後傾ラップで、中京競馬場のレースにしては、やや瞬発力が求められる展開となった。
上位3頭はそれぞれ1着から順に、父、母の父、父の父がディープインパクトの牡馬。そう考えると、納得のいく結果だった。
周知のとおり、ダービーをはじめとする根幹距離のGIに強いディープインパクト産駒の牡馬は、対照的に非根幹距離の古馬混合GIで成績があまり良くない。宝塚記念は0勝で、有馬記念もサトノダイヤモンドの1勝のみに終わっている(牝馬は各1勝ずつ)。
ただ、ダービーで7着に敗れていることからも、ヨーホーレイク自身は非根幹距離のレースに向いている可能性があり、梅雨時の重い馬場になりやすい宝塚記念はともかく、有馬記念で好走があっても不思議ではない。
一方、3着のヤシャマルは、瞬発力タイプよりも持久力タイプが多いキズナ産駒の牡馬。天皇賞・秋やジャパンカップなど、大箱のコースで瞬発力が求められるレースよりも、小回りコースや内回りコースの非根幹距離で持久力を活かすようなレースが得意。
産駒がデビューした2019年の6月2日から2022年の1月16日まで。キズナ産駒の牡馬の芝1400mと1800mの複勝率は、35.7%と34.4%。出走数に差はあるものの、1600mと2000mの20.0%と27.0%を大きく上回っている。
その典型例が、2021年の阪神大賞典を制し、日本の馬場、特に東京競馬場とは異なるフランス・ロンシャンで行なわれたフォワ賞を勝利したディープボンド。続く凱旋門賞は大きく敗れたものの、帰国初戦となった非根幹距離の有馬記念でも2着と好走した。
最後に、友道厩舎所属のディープインパクト産駒で、金子真人オーナーの所有馬といえば、1月5日に亡くなった2018年のダービー馬ワグネリアンが思い出される。今回、直線の叩き合いを僅かの差で制したヨーホーレイク。ゴール前、その背中を天国のワグネリアンがそっと後押ししたと思えてならないような勝利で、まさに同厩の先輩に捧げる弔い星となった。
写真:俺ん家゛