関東でおこなわれるフェブラリーSの前哨戦、根岸S。秋から年始に施行時期が移った2001年以降、当レースとフェブラリーSを続戦した馬はのべ129頭で、本番における勝率は5.4%、複勝率も13.2%。前走チャンピオンズC組(ジャパンCダートの時代も含む)の勝率25.0%、複勝率50.0%と比較すると明らかに分が悪く、お世辞にも優秀な成績を残しているとは言えない。
ただ、根岸S1着馬に限れば、出走したのべ20頭中6頭が本番も連勝。勝率30.0%、複勝率55.0%と素晴らしく、近年もレモンポップを筆頭に、モズアスコット、ノンコノユメ、モーニンらが、上半期のダート王に輝いている。
本番との間隔が中2週と短く、距離延長で臨むローテーションが一見ネガティブに感じられるものの、実際にそんなことはなく、注目の前哨戦と断言できるレースが根岸Sである。
そんな根岸Sに、2025年もフルゲートの16頭が参戦。やや人気は割れ、5頭が単勝10倍を切る中、フリームファクシが1番人気に推された。
GⅠ2勝ディアドラの半弟で、2023年のきさらぎ賞を制したフリームファクシは、皐月賞とダービーで9、10着に敗戦。クラシック路線に乗ったものの、3歳春から4歳春にかけ、やや不振に陥ってしまった。
それでも、5走前のパラダイスSから2戦連続好走し、復調の兆しを見せたところで陣営はダート転向を決断。すると、これが吉と出てコールドムーンSを4馬身差で圧勝し、次走は敗れたものの、前走のすばるSも完勝した。
今回と同じ左回りのダート1400mは2戦2勝。得意とする条件で、芝・ダート双方の重賞制覇が懸かっていた。
これに続いたのがコスタノヴァ。芝の新馬戦で11着に敗れるも、ダートに転向した次走から6戦5勝2着1回と、ほぼ完璧な成績でオープンも勝利したコスタノヴァは、交流重賞のクラスターCで6着。ダート戦で初めて連対を外してしまった。
今回は、それ以来5ヶ月半ぶりの実戦となるものの、東京ダートは4戦全勝と大の得意。5歳ながらキャリア8戦と消耗も少なく、自身の庭ともいうべき舞台で重賞初制覇なるか注目を集めていた。
そして、3番人気となったのがロードフォンス。デビュー2戦目から12レース連続、左回りのダート1400m戦に出走してきたロードフォンスは、この距離のスペシャリスト。とりわけ、直近2走は今回と同じコースで上がり最速をマークしての連勝で、本格化を感じさせる内容だった。
重賞初挑戦ながらコース実績は上位。この馬もまた重賞初制覇が懸かっていた。
以下、ここまでの10戦すべてで3着内に好走しているサンライズフレイム。重賞3勝の他、海外GⅠ2着の実績があるドンフランキーの順で人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、タガノビューティーが落馬し競走を中止するアクシデント。ただ、それ以外の15頭はほぼ揃ったスタートとなった。
その中で、僅かに好スタートを切ったドンフランキーが飛び出そうとするところ、アームズレイン、サンライズフレイム、サトノルフィアンがこれに競り掛け、前は4頭が横並びに。その後ろにメイショウテンスイとバルサムノートがつけ、スレイマン、コスタノヴァ、ロードフォンスらが中団に位置。一方、人気のフリームファクシは後ろから4頭目につけるも、鞍上のミルコ・デムーロ騎手にやや促されながらの追走となった。
600m通過は33秒9のハイペースで、先頭から最後方のスズカコテキタイとアルファマムまでは20馬身ほどの差。かなり縦長の隊列となったものの、4コーナーを回るところでも前は3頭による競り合いが続き、レースはそのまま直線勝負を迎えた。
直線に入ると、ドンフランキーが後続を引き離しにかかるも余力なく失速。替わってサンライズフレイムが先頭に立った。
ところが、それも束の間。外からコスタノヴァがこれらをあっという間に交わしさると、後続との差をグングン開きにかかった。注目は2着争いとなり、中団から末脚を伸ばしたロードフォンスが残り100mで2番手に上がり、最後方から追い込んできたアルファマムがこれに続くも、コスタノヴァがそのはるか前で先頭ゴールイン。4馬身差2着にロードフォンスが入り、2馬身差の3着にアルファマムが続いた。
稍重馬場の勝ち時計は1分22秒6。5ヶ月半ぶりの実戦をものともしなかったコスタノヴァが、ダート短距離界に新星誕生を予感させる完勝で重賞初制覇。東京ダートの成績を5戦5勝とした。
各馬短評
1着 コスタノヴァ
もともとゲートは得意ではないとのことだったが、五分以上のスタートを決め中団に位置。直線、坂の途中から末脚を伸ばすと僅か100mほどで一気にリードを広げ、あっという間に勝負を決めてしまった。
過去、東京ダートは4戦4勝も、そのうち3勝は1600mで1400mは1勝だけ。ただ、その1勝が2024年5月の欅Sで、当年の根岸S覇者で秋に武蔵野Sを勝利するエンペラーワケアを破ってのもの。勝ち時計も、良馬場ながら今回より0秒7速い優秀なものだった。
一方、今回は展開面でやや恵まれていたため、4馬身という着差をそのまま鵜呑みにすることはできない。それでも、このメンバーでは何回やっても勝ちそうな内容で、次走が左回りかつワンターンのコースであれば、GⅠでも好走が期待できる。
2着 ロードフォンス
道中はコスタノヴァの2馬身ほど後ろにつけるも、インぴったりを回った同馬に対して、こちらは馬群の外を回ったためコーナーでやや距離損。さらに、直線に入ってすぐカラ馬に前を塞がれる不利があった。
今回は勝ち馬があまりにも強く、おそらくこの不利がなくても逆転は厳しかったが、自身は素晴らしい走りを披露。しかも、不利がありながら3着に2馬身という決定的な差をつけており、こちらも左回り、特に1400mでは引き続き好走が期待できる。
3着 アルファマム
この馬もまた、デビュー戦から徹底してダートの短距離戦に出走。後方一気の末脚が武器で、ほぼ毎レース上がり最速をマークしている。
そのため、どうしても展開待ちになってしまうが、流れが速かった今回は上手くハマった印象。直線の長短にかかわらず、逃げ・先行馬が多いメンバー構成のレースでは忘れずにマークしておきたい。
レース総評
600m通過33秒9は、根岸Sが年始の東京開催に移った2001年以降(2003年の中山開催を除く)、コースレコードでの決着となった2018年と並ぶレース史上最速のペース。ただ、一転して後半600mは36秒9とかかり、差し、追込み勢が台頭する結果となった。
その中で、勝ったコスタノヴァに近い評価を与えられるのが、2番手追走から先行勢で唯一4着に粘ったサンライズフレイムである。同馬は、デビューから数えて11戦目の今回、初めて4着に敗れたものの、半兄が2021年のGⅠ全日本2歳優駿や2023年の武蔵野を勝利したドライスタウトという良血。コスタノヴァからは7馬身離されてしまったが、逃げ争いを演じたサトノルフィアンが10着、ドンフランキーに至っては13着に敗れており、ロードフォンスと同じく、ダート1400mでは今後も好走が期待できる。
一方、勝ったコスタノヴァはロードカナロアの産駒で、母の父がハーツクライ。この組み合わせからは、先日の日経新春杯を完勝したロードデルレイをはじめ、重賞3勝のケイデンスコール。京成杯オータムハンデを連覇し、芝1600mの日本レコードを持っているトロワゼトワル。2019年のシンザン記念を勝ったヴァルディゼールなど重賞ウイナーが続出しており、GⅠ馬こそ出ていないものの、コスタノヴァとロードデルレイにはビッグレース制覇が期待される。
また、ロードカナロア産駒は東京ダート1400mが得意で、2020年以降、当コースでおこなわれた古馬混合の重賞とオープンに限れば計6勝。種牡馬別の勝利数はトップで、2位オルフェーヴルの4勝、3位レモンドロップキッドの3勝が、それぞれヘリオスとレモンポップ1頭だけの成績であるのに対し、ロードカナロア産駒は5頭で6勝をあげ、今回も2頭出走した産駒が1、2着を独占した。
一方、フェブラリーSには産駒が5度出走し2着が一度のみではあるものの、そのうち4度がレッドルゼルで、これだけで不振とはいいきれない。
そういった意味でも、コスタノヴァがフェブラリーSに出走した際は注目だが、常に3ヶ月前後の休養をはさみながら使われているため、今のところ陣営は出走に関して慎重な様子。ただ、ダート短距離路線では2024年からさきたま杯がJpnⅠに昇格しており、コスタノヴァをはじめ、根岸S出走馬が同じ左回りの1400mでおこなわれるさきたま杯に出走した際も、どういった成績を残すのか注目したい。
対して、1番人気に推されたフリームファクシは6着に敗れてしまった。
こちらは、レース前から心配されていた使い詰めの影響があったかもしれないが、それ以上に影響したと思われるのが、ダートスタートだった点ではないだろうか。
この馬もまたスタートが決して得意ではなく、ダートの2勝はいずれも芝スタートの中京が舞台であり、芝の部分で行き脚をつけることが可能だった。ところが、オールダートの今回は序盤から後方に置かれ、鞍上に促されながらの追走。前が飛ばす中、展開有利だったにもかかわらず、直線でもジリジリとしか伸びなかった。それだけに、芝スタートのフェブラリーSで巻き返す可能性はあるものの、使い詰めできている点と、賞金面で出走が微妙かもしれない。
写真:s1nihs