祖父から受け継いだ驚異のスピード〜2001年・フェアリーステークス〜

世界でも、間違いなくトップクラスのレベルにあるといってよい現代の日本競馬。
その背景には、育成・調教技術の向上があったことはいうまでもないが、特に大レースにおいては、以前と比べてよりいっそうスピードが重視され、血統面でも、同様にスピードが重視されることとなった。

種牡馬では、ディープインパクトを筆頭に、サンデーサイレンスの子孫が枝葉を広げ、キングカメハメハを筆頭にKingmamboの子孫が、さらに大きな観点で見ると、Mr. Prospectorの子孫もまた大きく枝葉を広げた。

そして、それらの種牡馬と組み合わさり、スピードをさらに増幅させるという役割を担った点で、とりわけ、Storm CatとDanzigの存在は、現代の日本競馬においてはあまりにも大きい。

Storm Catは、特に母系に入ることによって、ディープインパクトやキングカメハメハと相性の良さを発揮し、キズナやロードカナロアをはじめとする、数々の名馬を世に送り出してきた。

一方でダンチヒは、母系に入った時だけでなく、父としても、産駒のアグネスワールドとマグナーテンが、それぞれ芝1200mと1400mのJRAレコードホルダーにその名を刻んでいる。それらのタイムがマークされてから、実に20年近く経った現在もいまだ破られていないことを考えると、Danzigがいかに傑出したスピードを持っていたか、窺い知れるというものだ(2021年1月現在)。

今回は、そのDanzigを祖父に持つ一頭の快足牝馬が、持っているスピードを余すところなく発揮し、敗れた他の出走馬も、翌春のクラシックで軒並み大活躍することとなった、2001年のフェアリーステークスを振り返りたい。


フェアリーステークスは、現在、芝1600mの3歳牝馬限定重賞として行われているが、2007年までは2歳牝馬の限定重賞として、芝1200mで12月に行われていた。

当時から、フルゲートの混戦になることが多かったこのレース。しかし、この2001年は特に大混戦ムードで、単勝オッズ10倍を切る馬が6頭もいた。そんな中、4.1倍の1番人気に推されていたのは、アローキャリーだった。

ホッカイドウ競馬でデビューした同馬は、5戦目となった中央の2歳500万クラス(現1勝クラス)に参戦する。出走全馬が地方所属馬というレースで、札幌の芝1000mを、なんと57秒2という超のつく優秀なタイムで駆け抜けてレコード勝ち。続く2レースは敗れたものの、その後JRAに移籍して栗東の山内研二厩舎の所属となり、転入初戦の阪神ジュベナイルフィリーズで、いきなり半馬身差の2着に激走し、そこから中1週での出走となった。

一方、2番人気に推されたのは、前走りんどう賞を勝利したブルーリッジリバー。2歳重賞では、出走馬の中で2勝をあげている馬は少なく、その点でも人気を集めていた。さらに、血統面でも筋が通っていて、母スカーレットブルーの妹には重賞を制したスカーレットリボンやスカーレットブーケがいた。さらにそのスカーレットブーケからは後に、ダイワメジャーとダイワスカーレットの兄妹が生まれることとなったことからも、日本有数の牝系の1頭といえる。

3番人気に続いたのは1戦1勝の外国産馬サーガノヴェル。この馬のデビュー戦には、新馬戦ではなく中山ダート1200mの未勝利戦が選ばれたが、既走馬相手に6馬身差の圧勝でデビュー戦を飾った。今回、初めての芝のレースながら、中1週でここに参戦してきていた。

以下、人気は、タガノチャーリーズ、トゥインチアズ、スマイルトゥモローの順で続いた。


冬晴れの下ゲートが開くと、全馬出遅れることなくきれいなスタートが切られた。
中でも、スズカアンゼラが好スタートを切ったもののすぐに控え、内から、世代屈指のスピード馬タガノチャーリーズが馬なりでハナに立つ。
テイエムハーバーが手綱を押してそれを追い、金沢競馬の所属ながら、前々走で中央のもみじステークスを圧勝したトゥィンチアズが3番手につける。さらに、その外をアローキャリーとカロスキューマが追走し、馬場の内目にサーガノヴェルが控えていた。

有力と目されていた馬は他に、ブルーリッジリバーとスマイルトゥモローがちょうど真ん中あたりに付け、スプリント戦らしく、上位人気馬はすべて中団よりも前にポジションをとり、レースは3~4コーナーの中間点に差し掛かった。

前半の3ハロンが32秒5という猛烈なハイペースの中、いつものことと言わんばかりに、タガノチャーリーズが依然として涼しい顔で快調に逃げる。トゥインチアズが一つポジションを上げて1馬身差の2番手。アローキャリー、カロスキューマが、その後ろを半馬身差の等間隔で追走し、サーガノヴェルは変わらず馬場の内目を通って、各馬4コーナーを回り最後の直線勝負へと入った。

迎えた直線。タガノチャーリーズが、2番手以下との差をさらに広げ、一気に逃げ込みを図る。3頭横並びの2番手から追ってきたのは、道中内目をロス無く追走していたサーガノヴェルで、アローキャリーとトゥインチアズは坂で伸び脚を欠き、変わって追い込んできたのはブルーリッジリバーだった。

坂を上りきったところで、前はサーガノヴェルがタガノチャーリーズに並びかけ、ゴールまで残り50m地点でついに先頭に立った。ブルーリッジリバーも、さらに末脚を延ばして前に迫るも、サーガノヴェルの勢いは衰えず、タガノチャーリーズを捕らえるのが精一杯。

結局、1馬身半差をつけて、サーガノヴェルが余裕を持ってのゴールイン。2着にブルーリッジリバー、3着にタガノチャーリーズが入った。

勝ちタイムは、2歳戦では驚異的ともいえる1分7秒8で、これがJRA史上初めて、2歳馬が芝1200mで1分8秒を切ったレースとなった。その後も、このレコードを破る馬はなかなか現れず、2020年8月の小倉で、フリードが1分7秒5をマークするまで、実に19年間も2歳JRAレコードとして記録され続けたのだった。


サーガノヴェルは、そこから3ヶ月の休養に入り、同じ舞台で行われる3歳重賞のクリスタルカップで復帰した。フェアリーステークスと同じように、道中はハイペースで逃げるタガノチャーリーズを前に見て、5番手の内で控える展開。

すると、今度は絶好の手応えのまま4コーナーでは外に持ち出され、残り200mで前を捕らえて早くも先頭に立つ。さらに、追ってきたイーグルスウォードとカフェボストニアンの末脚を楽々と抑え、再び1馬身半差の快勝を見せて3連勝を達成したのである。

勝ちタイムは、前走をさらに上回る1分7秒6。3歳戦のタイムは、古馬のレースと同じカテゴリーに含まれるため、さすがにレコードタイムとはならなかったものの、3歳3月にしてのこのタイムは、やはり驚異的だった。

さらに、続くニュージーランドトロフィーで、サーガノヴェルは、ここまでの1200m戦から2ハロン延長となる1600mのレースに挑戦することとなった。

今度は、タガノチャーリーズが出走しておらず、スピードの違いでサンヴァレーと共に自ら逃げる展開となった。道中は3番手以下を大きく引き離し、800m通過は44秒7、1000m通過も55秒9という、スプリント戦並みの超のつくハイペース。

それでも、直線に向くと後続を突き放し、坂を駆け上がっても依然として2馬身ほどのリードがあった。しかし、最後の最後で伏兵のタイキリオンにアタマ差捕らえられ、勝ち馬と同タイムの2着に敗れてしまった。

この時にマークされた勝ちタイムは1分32秒1で、これまた驚異的なタイムだった。というのも、同レースが1600mとなってからは、2021年現在もレースレコードとなっていて、それに続くタイムは2010年の1分32秒9。この2002年のタイムが、いかに抜きん出たものであるかを如実に表している。


さらにエピソードを付け加えるなら、この後に行われた春の牝馬クラシック二冠の結果である。
そこで軒並み大活躍したのは、超高速決着となったフェアリーステークスで、サーガノヴェルに敗れた馬たちだった。

クラシック第1弾の桜花賞。桜の栄冠を手にしたのは、フェアリーステークスで1番人気に推されながらも4着に敗れたアローキャリー。さらに2着に入ったのは、フェアリーステークスでも2着だったブルーリッジリバーである。

そして、2冠目のオークス。距離でいえば、フェアリーステークスとは2倍の差がある2400mの長丁場で、一見すると、フェアリーステークスの結果がリンクすることなど、まるで想像もできない。しかし、実際に樫の女王に輝いたのは、フェアリーステークスで6番人気ながら11着と敗れていたスマイルトゥモローだった。

好タイムでの決着となった2001年のフェアリーステークスは、出走各馬の中にあった潜在的なスピードを一挙に目覚めさせた、そんなお宝レースだったのかもしれない。

一方、サーガノヴェルのその後の勝ち鞍は、11月に行われた、オープンの秋風ステークスのみとなってしまった。しかし、そこでも、同期で後に高松宮記念を制することになるサニングデールを破り、勝ち時計もやはり1分7秒1という好タイムだった。

サーガノヴェルの父はBoundaryで、その父はDanzig。
早熟の天才少女というニックネームがぴったりの彼女だったが、祖父から受け継いだスピードは、紛れもなく一級品だった。

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