![[重賞回顧]あの日の勝負服、もう一度─柴田大知とコスモフリーゲンの星に願いを~2025年・七夕賞~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/07/img_7790-1.jpg)
快晴の福島、夏空に願いを託す一日。
夏の福島競馬場名物“願いの重賞”、七夕賞。今年もファンや関係者が、それぞれの想いを短冊に込めるように、出走馬一頭一頭へ熱い視線を送った。
1番人気に推されたのは、クラシック戦線を歩んだ素質馬ドゥラドーレス(戸崎圭太騎手)。6歳ながらここが11戦目。小倉日経賞での勝利に続き、前走エプソムカップで2着と復調気配を見せており、ここで復活の重賞制覇を掴めるかに注目が集まった。半妹は有馬記念勝利のレガレイラ、兄も重賞勝利で続きたい。
2番人気は、福島初参戦のコスモフリーゲン(柴田大知騎手)。近走は中山競馬場で安定した成績を残しており、追い切りで手応えを掴んだ鞍上の言葉も後押しに。オープンクラス初挑戦ながら堂々の人気を得た。逃げの戦法から展開のカギを握る存在としても注目が集まる。
さらに、福島民報杯でのオープン勝利、新潟大賞典での重賞制覇と、ローカルで着実に実績を積み上げてきたシリウスコルト(古川吉洋騎手)、そして近年この七夕賞で好走が続いているキングカメハメハ直系のダンテスヴュー(内田博幸騎手)も参戦。実績と勢いを兼ね備えた、個性豊かな顔ぶれが揃った。
そしてもう一頭、まさにこのレースにふさわしい存在がいた。7番枠に入ったオニャンコポン(菅原明良騎手)である。皐月賞や日本ダービーに出走した実力馬が、約3年半ぶりの勝利を目指し、再びターフへと戻ってきた。
──願いが詰まった短冊のように、15頭の競走馬が、それぞれの想いを胸に福島の芝2000メートルを駆け抜けた。
レース概況
ゲートが開くと、積極策に出たのは2番人気・2番枠のコスモフリーゲン。初の福島コースでも迷いなくハナを奪い、堂々とレースを引っ張る形となった。スタート直後からショウナンマグマが気合をつけて鈴をつけに来たが、1ハロン目から他馬に譲らぬ勢いで先手を主張。3番手にはその直後の好ポジションを狙ったシリウスコルト、さらにその後ろにシルトホルンとリフレーミングが続き、縦長の隊列で1コーナーへと進んでいった。
向こう正面では、先行各馬を見ながら中団外を進んだのが1番人気・ドゥラドーレス。その直後には、7番枠からスタートしたオニャンコポンが構える形となり、やや前目には福島巧者リフレーミングが内で折り合いをつけて追走。さらにその後ろには、じわりと押し上げの構えを見せるニシノレヴナントの姿もあった。一方、後方には最軽量52キロのドラゴンヘッドや、マテンロウオリオンら差し・追い込み型の馬たちが末脚勝負に賭ける構えで待機。勝負どころに向けて、それぞれが仕掛けのタイミングを探っていた。
勝負どころとなる3〜4コーナーの中間地点。先頭を行くコスモフリーゲンに対し、後続の先行馬群がじわじわと差を詰め始めた。柴田大知騎手のゴーサインに応えるように、コスモフリーゲンは再び脚を使って馬群を引き離しにかかる。これまでの勝利と同様に、馬群から抜け出して粘り込みを図る正攻法の競馬だ。
しかし後続も簡単には引き下がらない。ショウナンマグマは懸命に追いすがるも手応えに翳りが見え、替わって最内からシルトホルンが伸びてくる。ショウナンマグマの外を回したシリウスコルトもスパートを開始し、そのさらに外からはドゥラドーレス、そしてオニャンコポンも満を持して最内から一気に外に進路を切り替えて進出を開始。コーナー出口、コスモフリーゲンを目がけて、各馬が一斉に襲いかかる形となった。
直線に入ると、コスモフリーゲンが懸命に粘る中、外からドゥラドーレスがストライドを広げて一完歩ずつ迫ってくる。ゴールまで続いた1ハロンの攻防は、柴田大知騎手のひと押しが決め手となり、コスモフリーゲンがわずかアタマ差で振り切った。重賞初挑戦にして掴み取った嬉しいタイトル。福島競馬場では“コスモ”の勝負服が鮮やかに夏を彩った。
3着争いは、最内を抜けていたシルトホルンに、残り200mから一気の末脚で迫ったオニャンコポンがこれを交わして3着に浮上。5着には52キロの軽量を味方につけ、最後方から鋭く伸びたドラゴンヘッドが入り、人気の一角シリウスコルトはハンデが響いたか、直線で伸びを欠いて8着に敗れた。

各馬短評
1着 コスモフリーゲン 柴田大知騎手
初の重賞挑戦で見事タイトルを手にしたコスモフリーゲン。
スタートから迷いなくハナを主張し、ショウナンマグマに競られる展開でも一切ひるまず、マイペースに持ち込んだ柴田大知騎手の手綱さばきが光った。3〜4コーナーで他馬が迫っても焦らず、仕掛けの合図にしっかり反応して後続を再び突き放す操縦性の良さも大きな武器となった。
ゴール前ではドゥラドーレスの猛追を受けたが、柴田騎手が最後まで身体を目一杯伸ばして追った一完歩が実を結び、アタマ差で先着。鞍上にとってはスマイルカナで制した2020年フェアリーステークス以来、約4年半ぶりの重賞制覇となった。
同じの勝負服で掴んだ一勝に、騎手としての矜持がにじむ。ローカル開催の彩る赤と緑の勝負服が、再び夏競馬に熱をもたらしてくれた。
2着 ドゥラドーレス 戸崎圭太騎手
1番人気の期待を背負って臨んだドゥラドーレスは、外枠ながらもスムーズに好位集団の外につけ、長く良い脚を使って最後まで伸び続けた。外枠は大きなストライドを活かすこの馬にはむしろ好条件だったが、内から楽に逃げたコスモフリーゲンとの位置取りの差が、アタマ差の決着に影響したかもしれない。
とはいえ、エプソムカップに続く重賞2着で着実に地力は強化されており、次こそ重賞初制覇が見えてきた。2歳下の半妹レガレイラは昨年の有馬記念勝ち馬、母母ランズエッジからはアーバンシックやステレンボッシュといったクラシック好走馬が並ぶ血統馬。
6歳にしてまだキャリア11戦目という伸びしろも魅力で、悲願のタイトル獲得は時間の問題だろう。

3着 オニャンコポン 菅原明良騎手
「この七夕賞をもって、引退か現役続行かを判断する」とオーナーが事前に発信していた一戦。
近走着順からは人気を落としていたものの、クラシック路線を歩んだ素質馬がここで意地を見せた。
中団からじわじわ進出し、直線では一瞬進路が塞がれそうになったが、この馬をよく知る菅原明良騎手が左手綱をいっぱいに引いて大外へ。わずかに生じたスペースに活路を見出し、末脚を伸ばしてシルトホルンを交わして3着に飛び込んだ。土壇場での“勝負強さ”が光る見事な騎乗だった。
また、オニャンコポンはエイシンフラッシュ産駒で、近年の七夕賞に強いキングマンボ系の血統背景も持ち合わせる。京成杯では力の要る中山芝2000mを制していて、条件が噛み合えば上位争いに加われる実力馬であることを改めて示した。
この走りに応え、レース後にはオーナーから「現役続行で4勝目を目指します」との発信も。
8着 シリウスコルト 古川吉洋騎手
「結果的にはハンデですね。あの感じでいつもは抜け出して来ますし、この時計なら動けるはずなのですが。仕方ないです」と古川吉洋騎手が振り返ったように、道中はリズム良く先行し、4コーナーの出口では逃げるコスモフリーゲンを捉えるかという絶好の位置につけていた。
だが、そこからもうひと押しが利かなかった。過去に唯一大きく崩れた福島記念では、ハイペースを追走した末のスタミナ切れが敗因だったが、今回は逆に“楽に運べた”ことが仇となった印象もある。加えて、トップハンデ58.5kgが最後の伸びに響いた可能性は十分にある。
それでも、新潟大賞典での重賞制覇をはじめ、今年の古馬重賞戦線で存在感を見せている4歳世代の実力馬の一頭。今回の敗戦で評価を下げるにはまだ早い。むしろ、再浮上の舞台として狙いたいのは、シリーズ最終戦・新潟記念だろう。
レース総評
今年も、それぞれの陣営の願いと覚悟が詰まった一戦だった。
勝利を掴んだのは、オープン初挑戦ながら逃げ切りを決めたコスモフリーゲン。柴田大知騎手に久々のタイトルを届けた一戦は、ただの“勢い”では説明できない、鍛錬と信頼に裏打ちされた勝利だった。
2着に敗れたドゥラドーレスも、敗戦とはいえ重賞連続好走を果たし、ついにその血統にふさわしい輝きを取り戻しつつある。6歳にしてまだキャリアは浅く、ここからの飛躍に期待が膨らむ。
そして、3着に飛び込んだのは”7番枠”のオニャンコポン。
人気薄ながら、かつてクラシックを戦った実力馬が、再びファンの前で輝きを放った。勝利こそ逃したが、オーナーの「このレースで今後を決める」との言葉に、3着という形で応え、現役続行予定だ。
再び“もう一勝”を願われる存在になったことが、何よりの復調の証だろう。
願いは、一夜にしてすべてが叶うものではない。しかし、コスモフリーゲンのように真っすぐ前を向いて進めば、ドゥラドーレスのように力を積み重ねれば、オニャンコポンのように誰かの想いに応えれば、その先に光が射す──七夕賞の馬たちは、それを競馬という舞台で証明してみせた。
今年も、七夕の日の福島には、たしかに短冊に託された願いが風に舞っていた。
写真:はまやん