まずこのレースを回顧するにあたり、私が発した言葉を振り返り、並べて書いてみる。
「あ!」「お?」「え?」「危ない!」「大丈夫……?」「先頭!?」「うーん、さすがに」「嘘!?」「あああ!」だ。
正直に言って私の注意は終始、メイケイエールに向けられていた。
白熱したレースでは興奮し声を出すことがあるが、何が起こるかわからない「恐怖」に声を出したのは久々のことだった。
出走12頭の内、唯一の重賞馬であり、複数勝利しているメイケイエール。
その他の出走馬は1勝馬のためメンバー中で抜きんでた実績を持ち、ファンは1.6倍と断トツの1番人気に推した。
迎え撃つその他11頭は、1勝馬といえど、見どころある素質馬が揃った。
つばき賞をクビ差で敗れたタガノディアーナや、ソダシに0.4秒差まで迫ったテンハッピーローズとストゥーティ、エルフィンステークス1番人気に支持されたエリザベスタワーなどが出走した。
レース概況
全馬揃ったスタートを切る。
2番のストゥーティがハナを奪取し、それに続いてシャーレイポピーが2番手。
ところが、その直後の中団グループが、穏やかではなかった。
エリザベスタワー、テンハッピーローズ、メイケイエールが揃って引っ掛かり、頭を上げながら追走したのだ。中でもメイケイエールは激しく、名手である武豊騎手でも制御することができなかった。それを見るやや後方にはタガノディアーナやレアシャンパーニュが控え、最後方にはタイニーロマンスとバリコノユメが位置した。
600メートルを36.3秒で通過──暴れるメイケイエールは、そのペースを受け入れることができなかった。
突如前を行くストゥーティ、シャーレイポピーをかわし先頭に立ち、自身でラップを刻むことを選択。
すると、ようやく折り合いがついて後方との差が広がり、最後の直線に入った。
大本命メイケイエールが前にいることで、後方の各馬も盛んに手を動かし始める。内回りとの合流地点で内からエリザベスタワー、外からストゥーティがメイケイエールに並びかけた。3頭が並んだ時点でメイケイエールに分があるとは考えられなかった。
しかし、200メートル付近で武豊騎手のアクションが大きくなると、メイケイエールがもう一伸びを見せる。外から追い上げるストゥーティ、タガノディアーナを退け、内のエリザベスタワーと馬体を併せて一騎打ちに。
競り合う中、そのままゴール板を通過した。
各馬短評
1着 エリザベスタワー・メイケイエール
2頭の競り合いは、写真判定を経て同着となった。
重賞では、2019年のフィリーズレビュー(ノーワン・プールヴィル)以来の決着である。レース後の騎手インタビューのコメントはどちらも重賞勝利後とは思えない暗さであった。
エリザベスタワーは、3コーナーで頭が上がり最後の直線では外によれるなど、不安を残したものの、重賞タイトルを獲得し、春のクラシック参戦が可能となった。
メイケイエールは、かねてより課題の口向きの悪さがよりいっそう強調されてしまった。ちぐはぐな競馬を披露しながらも重賞勝利を拾うあたり、相当の力はある。ただし、本番の桜花賞に向けてより多くの課題を抱えることとなってしまった。
3着 ストゥーティ
当初は逃げの手に出るなど、積極的に運んだ。直線では、2頭にかわされてもしぶとく粘り、外から差し切りを狙うタガノディアーナをハナ差退け、優先出走権を獲得した。これで3戦連続3着となった。
レース総評
今年は2頭の勝者が生まれたチューリップ賞。しかし、どちらの勝者も本番に向けて大きな不安が残る一戦となってしまった。
桜花賞では直行組やフィリーズレビュー組、アネモネステークス組などが揃う中で、チューリップ賞組は自分自身との戦いを強いられる。本番でどのようなパフォーマンスを見せるのか。
果たして良化するのか?
それとも悪化するのか?
その結果がわかるのは、2021年4月11日である。