ドゥラメンテ〜ダイナカール一族のプリンスが抱える“力と心と強運”〜

「うわぁ、それかぁ」
「あー、取られたぁ」
POGドラフトシーズンには、こんな嘆き節が競馬ファンの間でしばしばあがる。そしてどのドラフトでも注目の的になる血統、牝系がいくつかある。そのひとつにあがるのが、ダイナカール一族。ダイナカールではピンとこない若者もエアグルーヴ一族と記せば合点がいくだろう。


1980年代の社台ファームを支えたノーザンテーストとシャダイフェザーとの間にうまれたダイナカール。そのダイナカールに凱旋門賞馬トニービンを交配して誕生したエアグルーヴは、90年代後半、牡馬と互角に戦う逞しさと時折垣間見える牝馬らしい繊細さで、ファンを魅了した。
そのエアグルーヴの初仔、日本の競馬界に革命を起こしたサンデーサイレンスを父に持つアドマイヤグルーヴは、セレクトセールで当時最高価格となる2億3千万円で落札された。母譲りの脚が長くスマートで美しい馬体に我々はやられたものだ。
母の繊細さまで受け継いだアドマイヤグルーヴはレース当日に気性の不安定さを露呈、三冠馬スティルインラブの後塵を拝した。だが、続くエリザベス女王杯でスティルインラブとの叩き合いをハナ差制して待望のGⅠ奪取。
母子三代GⅠ制覇を成し遂げた。

ダイナカール一族の血を継ぐという宿命を背負ったアドマイヤグルーヴの忘れ形見こそが、今回の主役ドゥラメンテである。

父は日本ダービー馬キングカメハメハ。
祖母や母そっくりな薄めの馬体、長い四肢に父譲りのやや硬く強い筋肉をまとったドゥラメンテは、2014年東京秋開催の開幕週、毎日王冠当日にファンの前に姿を見せた。

単勝1.4倍の圧倒的な人気に支持されたドゥラメンテはスタートで母そっくりな出遅れを披露、F.ベリー騎手が促すと一気に行きたがる激しさを見せた。不器用なコーナリングで置かれ気味になりながら、最後の直線はのちの姿を予感させる伸び脚で差を詰めるも、先に抜け出したラブユアマンの2着に敗れた。

続く未勝利戦ではR.ムーア騎手を背に好位から一気に抜け出して圧勝したものの、堀調教師は不器用なコーナリングや気性面を考慮し、冬の中山開催を休みにあてて2月東京に勝負をかけた。
3歳500万下芝1800mのセントポーリア賞、石橋脩騎手を背に、ドゥラメンテは秘めたる素質を爆発させる。
伏兵のマラケッシュが飛ばす1000m58秒8mの流れのなか、ドゥラメンテは中団のインコースに控えながらも終始唸るような手応え。最後の直線では他馬が一杯に追われる最中、ドゥラメンテは馬なりのまま狭いスペースを突き破ってきた。
石橋脩騎手が内にササる馬を矯正しつつ追い出すと、後続を一気に突き放してみせた。

尋常ならざる強さに底知れぬ可能性を感じたのか、堀調教師は中1週の強行軍で同条件のGⅢ共同通信杯出走を決めた。
ところが、ここでドゥラメンテはダイナカール一族特有の気難しさを露呈してしまう。
石橋脩騎手が好位に収めようとすると、馬は何度も頭を上げて徹底抗戦の構えを見せた。折り合いに専念するうちに位置を下げてしまったドゥラメンテは、最後の直線で外から前走同様に鋭い末脚を見せるも内にササる悪癖も手伝い、インコースで終始流れに乗っていたリアルスティールに逆転を許してしまった。

共同通信杯2着。

クラシックはまるで勝ち抜けトーナメント戦。敗退した馬は再度別のレースで賞金加算を迫られる。ドゥラメンテもまたしかり。クラシック出走のために新たなレースに出走しなければならない立場となった。だがここで陣営はドゥラメンテの気性を最大限に考慮、トライアルレースに出走せずに皐月賞出走という賭けに出た。賞金の多い馬が揃えば除外されてしまう状況だったが、ドゥラメンテは自身の強運によって閉ざされた道をこじ開けたのだ。

皐月賞登録馬はドゥラメンテを含め15頭──そう、36年ぶりにフルゲート割れを起こしていた。

幸運に恵まれた機会を、ドゥラメンテは逃さなかった。後方のインにいたドゥラメンテは初の右回りで持ち前の不器用なコーナリングを盛大に披露。自身の外側にできた馬群を斜めに突き破って抜け出し、共同通信杯で敗れたリアルスティールをとらえて一冠目を手中に収め、同時に母子4代GⅠ制覇を成し遂げた。

ドゥラメンテの競走生活を振り返るのであれば、この皐月賞が運命の一戦であっただろう。出られない可能性さえあった皐月賞を前に、燃えやすい気性と成長途上の馬体からトライアルレース出走を見送ったことで、その素質を開花させることができたのだ。
そして、そこには36年ぶりのフルゲート割れという信じられない幸運があった。

祖母から連綿と受け継がれた血の強さに、運を引き寄せる力まで加わった馬、それがドゥラメンテなのだ。

POGでも人気が高いダイナカール一族ではあるが、指名にあたって不安にさせるポイントが気性である。ドゥラメンテも競走生活の前半生でたどった数奇な運命のウラには気難しさを抱えていた。
一族はほかに出遅れの常習犯だったルーラーシップ、GⅠでスタート直後につまずき騎手を落としてしまったポルトフィーノ、抜け出すと走るのを止めてしまう癖があったサムライハートなど『手ごわい馬』がズラリと並ぶ。

ドゥラメンテが競馬場に送り出す子孫たちは父が一族から受け継いだ底知れぬ能力と、ときに制御不能な気難しさ……いったいどちらを内包しているのだろうか。それとも父と同じく、それらが同居しているのだろうか。
ダイナカール一族に魅了された我々の、ドゥラメンテ産駒に注ぐ眼差しは優しく、そして熱い。

写真・Horse Memorys

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