[連載・馬主は語る]岡田牧雄さんに訊く、サラブレッドオークションについて(シーズン1-12)

―雑誌「優駿」にて、岡田牧雄さんと吉田照哉さん、吉田勝己さんのビッグ3が対談されている記事を読み、その中で岡田さんがサラブレッドオークションを立ち上げられたことを知りました。これから馬を購入しようとしているひとりの馬主として、サラブレッドオークションは素晴らしい仕組みだと思います。サラブレッドの転売市場が大きくなるまでは苦労されたのではないかと想像しますが、サラブレッドオークションを設立されたきっかけや想いを教えてください。

岡田牧雄氏(以下岡田・敬称略)
サラブレッドオークションを立ち上げたのは、馬の取引を公明正大に、陽の当たる場所で堂々と行いましょうという意味合いが大きいです。たとえば、今までは中央競馬の厩舎に新馬が30頭入ってきたとすれば、上手く行ったとしても5頭~10頭しか勝ち上がることができず、それ以外の20頭~25頭に関してはほとんどがそのまま屠殺場に送られていたという実態がありました。そのような状況を変えたいという想いがありました。今までであれば屠殺場に送られていた馬たちを地方競馬で走らそうということです。地方競馬の調教師さんは優秀なので、その手にかかってオープンに返り咲くような馬もいるはずだと思いました。そのような道を作りたかったのです。ヨーロッパやアメリカでは5歳になってデビューするような競走馬もいるわけで、そこまで馬を突き詰めて育成・調教してから結論を出してもらいたいと願うのです。

軌道に乗るまでの最初の2、3年は大変でした。自分の馬を売っていましたよ(笑)。上手く行くわけがないとバカにされていました。それでも、吉田勝己さんや照哉さん、ビッグレッドファーム、クラブ法人などが馬を出して助けてくれました。今、地方競馬に活気が戻ってきたのは、サラブレッドオークションの影響も相当に大きいと思いますよ。どこの競馬場も一杯で馬が入らないぐらいです。その点に関しては、自分の中で自分を褒めてもいいかなと思っています。

―本当に素晴らしいです。正直に言うと、僕もサラブレッドオークションがスタートした当初は、ネットで馬が売れるわけがないと高をくくっていましたし、中央で走らなかった中古の馬を買うなんて人がいるのだろうかと思っていました。インターネットやスマートフォンの普及により高額商品もネットで買うようになった時代の流れも大きいのですが、あの頃から始められたのは、これでひと山当てようとか儲けようという発想よりも、馬を救いたいという岡田さんの純粋な思いがあったからこそだと思います。ただ、ここまで市場が大きくなるとは、さすがに想像していなかったのではないでしょうか?

岡田
いや、今はまだ私の思い描いている未来地図の10%~20%ぐらいですよ。世界中で行われていることを、日本でも常識としてやりたいという気持ちです。当歳で馬を買うと、屠殺場に送るまでオーナーが変わらないのが日本の競馬でしたが、そうした制度というかしきたりを取っ払って、走る能力のある馬にはチャンスを与えるべきです。

さらにプラスアルファとして、より高い舞台を目指す一流馬をトレードする道筋もつくりたいと思っています。たとえば、アメリカで田舎の競馬場から5戦5勝してケンタッキーダービーを目指す馬が出たとすると、億単位のすごい値段がついてトレードされていくわけです。そういう経済が上手く回るシステムがアメリカは構築されているのですよ。日本でもダービートライアルで2着に来た馬を大金持ちの誰かが買って、自分の馬としてダービーを走らせようとか、そういうことが当たり前になる時代を早く迎えるようにしたいですね。その道のりにおいて、今はまだ途上ということです。

―そこまで見据えていらっしゃるとは驚きです。サラブレッドの転売市場を大きくして、地方競馬を盛り上げたのみならず、そんな壮大なビジョンがあるのですね。

岡田
そういう時代にしていかないと、馬の値段は上がらないし、夢もふくらまないですからね。チャンスは多くの人にあるべきですし、まして大金を使う方はそれなりのチャンスを得るべきでしょう。そこまで持って行きたいです。

そうなると、生産者がオーナーブリーダーになって、自分の生産馬が新馬戦を勝ったら「ダービーを狙える馬です」とオークションに出し、転売することもできます。経済安定になる馬を持っていればいつでもお金になりますよという安心、安定感につながるはずです。そういう下地づくりをしたい気持ちもあります。

また、自分の生産した馬が評価されず、買い叩かれるのであれば、自分で使って価値をつけてから転売することもできるはずです。そのためには努力しなければならないはずですし、それが生産者だと私は思います。

―なるほど、岡田さんが常々おっしゃっている、生産者は自分で馬を走らせるべきという話にもつながってくるのですね。生産者ではありませんが、一口馬主が高じて自分で馬を1頭所有して走らせてみたいと考える人が増えている中で、サラブレッドオークションは大きな入口になっていると思います。

岡田
この前、地方競馬全国協会の会長さんと会談したとき、馬主資格の申請件数がものすごく多くて6か月待ちと言っていました。とても良い傾向だと思いますし、夢のある話です。実際にクラブの馬をサラブレッドオークションで200~300万円で購入し、地方で走らせて2、3勝して、再び中央に戻して活躍しているケースもかなりあります。クラブの馬をサラブレッドオークションで落とすのは、ほとんどが元会員さんですよ(笑)。思い入れが強いのですね。

―岡田さんは何と言うか、本当に目線が低くて、いろいろな人たちを見てくれていますね。おかげさまで競馬の業界は盛り上がっていますし、とても感謝しています。僕も地方競馬の馬主となりましたから、いつかサラブレッドオークションで馬を手に入れたいと考えていますので応援してください。本日は貴重な時間をいただき、ありがとうございます。

岡田
チャンスはあると思いますので、頑張ってください!

(次回へ続く→)

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