[インタビュー]母父キングヘイローが大ブレイク! 血統評論家・栗山求氏の考える「ブレイクの要因」とは。

競馬を語る上で外すことができない、重要な要素の一つが「血統」だ。GIで実績を残した馬や、良血馬のDNAが後世へと引き継がれていく血のドラマは、競馬の大きな魅力の一つでもある。

今回は、日本を代表する血統評論家の栗山求氏にインタビューを敢行。

にわかに母の父としてブレイクし始めたキングヘイローについて、お話を伺ってきた。

※本インタビューは、リモートにて実施いたしました。

日本だから実現できた究極の良血。
注目はその血統構成にあり!

いまブレイク中である、母の父にキングヘイローを持つ馬たち。

シンザン記念を勝ったピクシーナイトがCBC賞で2着に入ると、その数分後には、ヴァイスメテオールがラジオNIKKEI賞を勝利して勢いを加速。レパードステークスを勝ったメイショウムラクモや、セントライト記念を制覇したアサマノイタズラは全て現3歳馬の"母父キングヘイロー"たちだ。

さらには遠くフランスの地で、4歳馬のディープボンドがフォワ賞で逃げ切り勝ちを収めた。

芝・ダート、国内外かかわらず、あらゆる条件で大活躍を見せる「キングヘイロー」を、栗山氏はどのように見ているのだろうか。

「キングヘイローは、97年にデビューした頃から、私の周りでも話題で持ちきりの馬でした。何と言っても衝撃的な配合ですからね。同じような血統構成を持つ、ドローンとサーアイヴァー、そしてヘイローのトライアングルが近い世代にあり、これは『エグい』配合だな、と(笑) 現役時代はずっと注目していましたし、大好きな馬でした」

欧州の歴代最強馬の1頭ダンシングブレーヴが父で、米国のGIを7勝したグッバイヘイローが母。両親に超実績馬がいるという字面の良さが目を引く。実際、デビュー前から大いに話題を集めていた。

しかしビッグネームが並んでいること以上に注目すべきは、配合の凄さなのだと言う。その配合の良さが、母の父としてさらに全面に出てきたのだろうと、栗山氏は分析する。

「ダンシングブレーヴにグッバイヘイローなんて、日本でしか実現できない配合ですよね。そんなドリーム配合が、しっかりと実績を残したのは凄いことです。例えば、代表産駒のローレルゲレイロは村田牧場さんの生産馬ですが、村田牧場さんは、おそらくこの馬の真価をちゃんと分かっていて、それに合わせた配合をなさっています。同場で生産されたディープボンドもお父さんがキズナですから配合的にも凄いですし、これからもどんどん名馬を出してくるのではないでしょうか」

形を変えながらどんどんと広がりを見せる、ディープ系との"ニックス"

今でも語られることの多い98年牡馬クラシック。その三強の一角だったキングヘイローもまた、ファンの多い馬だ。現役時から応援していて、母父としてのブレイクを喜んでいるファンもきっと多いことだろう。

キングヘイローは父として、カワカミプリンセスやローレルゲレイロらを輩出。カワカミプリンセスは無敗で牝馬二冠を達成し、ローレルゲレイロは高松宮記念とスプリンターズSを勝利している。前者は2006年のJRA賞最優秀3歳牝馬と最優秀父内国産馬を、後者は2009年の最優秀短距離馬を受賞するなどの実績を残した。

種牡馬リーディングでも、カワカミプリンセスが活躍した2006年には同期のグラスワンダーらを上回り、中央の種牡馬リーディングで16位に食い込むなど、良血馬らしい活躍を見せた。

しかしそれらの活躍を踏まえても、今のブレイクには驚きを隠せない。

「大きなポイントは、ディープ系との相性の良さ。例えばディープボンドは、父側にディープインパクトがいますよね。実はキングヘイローの父ダンシングブレーヴは、ディープインパクトと非常に相性が良くニックスと言えます。他にも、8月の新馬戦を圧勝したイクイノックスも母父キングヘイローでしたが、父はキタサンブラックです。その父のブラックタイドは、ディープインパクトの全兄ですよね! ディープと似た血統を持つキタサンブラックとキングヘイロー(父ダンシングブレーヴ)ですから、これも形を変えたニックスと言えます」

確かに、過去を振り返ってもディープインパクト×ダンシングブレーヴという血統の活躍馬は多い。特に、母エリモピクシーの産駒、具体的にはサトノルパンが京阪杯を勝利し、その妹のレッドアヴァンセとレッドオルガもともに重賞で2着。獲得賞金は、いずれも1億円を突破した。

他にも、父ディープインパクトに母の父ホワイトマズルという配合は母の父の父にダンシングブレーヴを持つことになるが、この組み合わせでは、重賞4勝のスマートレイアーや、ともに重賞を制したミッキーグローリーとカツジの兄弟などが活躍している。

「ディープインパクト系種牡馬の産駒やキタサンブラックの産駒は、これからどんどん増えていきます。そういう形でニックスが継続されれば、この先もいい馬がどんどん出てくるでしょう。もちろん、ピクシーナイトやヴァイスメテオールなど、ディープインパクト系以外の種牡馬からも良い馬はたくさん出ています。キングヘイローは、生産界で今後ホットな存在になると思います!」

ディープインパクトと、キングヘイローの父ダンシングブレーヴの相性の良さが、ブレイクの一因になったとみている栗山氏。この相性の良さを分析していくと、とある名種牡馬の存在が浮上する。同氏はディープインパクトが登場する以前からも、この配合に注目していたという。

「ダンシングブレーヴと、ディープインパクトの母の父であるアルザオ。この2頭はほとんど似たような血統構成なんですよ。なので、これがニックスということです。ちなみにダンシングブレーヴとアルザオの関係性については、ディープインパクトが出てくる前、とある雑誌に書いていました。後出しジャンケンになってしまいますが、目の付け所は良かったな、と(笑)」

アルザオとダンシングブレーヴは、ともに父がリファール。

さらに母の父を遡るとサーゲイロードがいる血統で、多くの共通点がある。

アルザオの産駒といえば、1998年の英オークスを制したシャトゥーシュや、英チャンピオンステークスを連覇したアルボラーダがいる。日本では、ディープインパクトの母父というイメージが強いが、その他にも、2004年のジャパンカップダートを勝ったタイムパラドックスや、重賞4勝のスマートオーディンも母父アルザオ。最近でも、2019年の目黒記念を勝ったルックトゥワイスを輩出している。

父に続くブレイクが期待される、キングヘイローの後継種牡馬たち。

引退から20年の時を経てついにブレイクを果たしたキングヘイローも、残念ながら2019年にこの世を去ってしまった。

名スプリンターのローレルゲレイロが、その後継種牡馬として優駿スタリオンステーションで繋養されている。2019年の全日本2歳優駿で2着に好走したアイオライトなどを輩出しているが、ローレルゲレイロに父のブレイクは恩恵をもたらすだろうか。

「ディープ繁殖との配合はおもしろいと思います。特に、モガミヒメがお父さん方に入るのは良さそうですね。ただ、テンビーも入るので、気性がどうか……という懸念もありますが。ただ、創意工夫によりリーズナブルな種牡馬からうまく一流馬を出すというのを試みている生産者さんにとっては面白いかと思います! 他にも、キングヘイローの後継種牡馬で、優駿スタリオンにはキタサンミカヅキもいますね。こちらはキングヘイローに母の父サクラバクシンオーだから、ポテンシャルが高そうです」

最後に、後継種牡馬としてキタサンミカヅキの名前を挙げた栗山氏。ローレルゲレイロとともに、その産駒には父仔三代GI制覇の期待がかかる。

スプリンターズステークスや凱旋門賞はもちろんのこと、今秋の大レースに続々と出走が予想される母父キングヘイローの持つ馬たち。

その動向から、今後も目が離せない。

写真:かずーみ、shin 1、s.taka、かず、tosh

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