[重賞回顧]完璧なエスコートに誘われ、圧巻の内容で一冠奪取~2021年・皐月賞~

牡馬クラシック第一弾の皐月賞は、コントレイルという絶対的な中心馬がいた2020年とは対照的に、今年は大混戦の様相を呈していた。

出走頭数は、3年ぶりにフルゲートを割り16頭。
その中で単勝オッズ10倍を切ったのは3頭だったが、とりわけ2頭に人気が集まった。

1番人気に推されたのはダノンザキッド。
昨年、デビューから3連勝でホープフルステークスを制し、最優秀2歳牡馬のタイトルを獲得したものの、前走の弥生賞で3着に敗れ初黒星。ただ、今回は休み明け2戦目ということもあり、なによりメンバー唯一のGⅠ馬という実績面のリードもある。再度、この馬を支持する声は多かった。

2番人気に続いたのは、同じ4枠に入ったエフフォーリア。
前走の共同通信杯で初めて重賞を制し、ここまで3戦3勝。今回は、それ以来2ヶ月ぶりのレースとなるものの、そのときに2馬身半引き離したヴィクティファルスとシャフリヤールが次走で重賞を制覇。
メンバーレベルが高いと思われる一戦を勝利してきたことが、間接的にこの馬の評価をあげた。

3番人気に続いたのは、アドマイヤハダル。
こちらは、西のトライアル・若葉ステークスを3馬身差で完勝し、ここに駒を進めてきた。前走コンビを組んだ松山騎手が騎乗停止になってしまったものの、代打で起用されたのはルメール騎手。“西の秘密兵器”として注目を集めていた。

以下、ヴィクティファルス、ラーゴムの順で人気は続き、オッズ20倍を切る馬が出走馬の半数以上である10頭という混戦だった。

レース概況

出遅れのないきれいなスタートから、タイトルホルダーがわずかに好スタート。そのまま先手を奪おうとするも、すぐ内のワールドリバイバルもハナを主張、さらに人気の4枠2頭が直後につけ1コーナーへと進入した。

結局、先頭に立ったのはワールドリバイバル。その後ろにタイトルホルダーが続く。
ダノンザキッドとエフフォーリアの外を、やや掛かり気味にレッドベルオーブとアサマノイタズラが交わしていった。さらにその後ろには、ラーゴム、アドマイヤハダル、グラティアス、ヴィクティファルスが続き、人気上位馬は中団より前でレースを進める。

1000mの通過は、1分0秒3の平均ペース。

先頭から最後方のイルーシヴパンサーまではおよそ12馬身と、さほど縦長ではない隊列となった。

ここで、再び前に目を向けると、レッドベルオーブが先頭2頭に並びかけようとポジションを上げたため、結果的に、この1000m~1200mのラップタイムが、最も早くなる。

迎えた、勝負どころの3~4コーナー中間。
先行集団は、6頭がひとかたまりとなり、その中でも、タイトルホルダー、レッドベルオーブ、エフフォーリアの手応えが良い。そこへ後続の各馬が殺到し、中山競馬場のレースらしく、ほぼ全馬が一団となって、4コーナーを回った。

直線に入ると、それまで内でじっと我慢していたエフフォーリアが、ワールドリバイバルとタイトルホルダーの間を割り、早くも先頭に。あっという間に2馬身のリードを取った。
単独2番手となったタイトルホルダーは、道中に激しい先行争いを演じていたため、巻き返す末脚は残されていなかった。しかしさらに2馬身離れた3番手以下の各馬も、悪い馬場に脚をとられているせいか、末脚を発揮できない。

坂を上りきってから、エフフォーリアのリードはさらに広がり独走状態に。
焦点は2着争いに絞られ、粘るタイトルホルダーに、ようやくステラヴェローチェとアドマイヤハダルが迫るも、結局2番手へ上がるまでには至らず。

最終的には3馬身差をつける完勝で、エフフォーリアが1着でゴールイン。
2着にタイトルホルダー、3着にはクビ差でステラヴェローチェが入った。

稍重の勝ちタイムは、2分0秒6。

デビューからの連勝を「4」に伸ばしたエフフォーリアが、二冠制覇に王手をかける完勝。騎乗した横山武史騎手は、デビュー5年目でGⅠ初制覇となり、皐月賞史上3組目となる、父・典弘騎手との親子制覇も達成した。

各馬短評

1着 エフフォーリア

前3頭が度々入れ替わる展開の中、内の4番手でじっと我慢し、直線は早め先頭から押し切った。馬場に苦しむ馬がいたとはいえ、横山武史騎手の完璧なエスコートで、予想を上回る圧勝だった。

二冠制覇に大きく近づき、ダービーでは圧倒的な人気を集める可能性が高い。
懸念材料としては、ダービー当日がパンパンの良馬場となり、これまで経験していない高速決着になることではないだろうか。

2着 タイトルホルダー

直線でしぶとさを発揮し、2着に粘りこんだ。馬場が味方した部分もあるが、出入りの激しい先行争いのまっただ中にいたことからも、展開面では最も厳しかった1頭である。それだけに、この2着には価値がある。

ダービーでは、エフフォーリア同様、高速馬場になると分が悪いだろう。ただし内枠を引いてスムーズに先行できれば、再度、見せ場を作る可能性も出てくる。

また、秋以降、中山競馬場のレースに出走してきた際は、常に警戒が必要な存在となる。

3着 ステラヴェローチェ

スローの上がり勝負となった前走から一転、道悪の小回りコースで巻き返したところが、いかにもバゴ産駒らしい。ダービーでも、共同通信杯と同様スローのヨーイドンになると分が悪いが、再び道悪となって時計がかかる展開になった際は、好走も十分にあり得るだろう。

レース総評

大混戦といわれた今年の皐月賞だったが、終わってみれば、2頭しかいなかった無敗馬の中の1頭による圧勝劇。また、無敗馬による皐月賞制覇は、これで三年連続となった。

内容としては、前後半とも1000mが1分0秒3のイーブンペース。前述のように、1000m~1200mの区間のラップタイムが、このレースの中で最も早くなるという特殊なケースで、続く1200m~1400mも、レース全体では3位タイのラップタイムだった。結果、そこで動いたレッドベルオーブや、特にダノンザキッドにとっては厳しい結果となってしまった。

今回の結果を受けて、エフフォーリアが、断然のダービー最有力候補へ浮上したことに間違いはない。ただ、ダービー当日がいわゆるパンパンの高速馬場となり、それでもエフフォーリアが断然の1番人気に推された際は、少しばかり疑ってかかる必要もあるだろう。

逆に今回、馬場によって末脚をそがれた馬達や、そもそも皐月賞に出走してこなかった馬達。とりわけ、ディープインパクト産駒が逆転する可能性も十分あり得る。
数が多くなってしまうが、具体的な馬名を挙げれば、今回のメンバーでは、ヨーホーレイクとレッドベルオーブ、ディープモンスター。皐月賞をパスした馬の中では、毎日杯の1、2着馬、シャフリヤールとグレートマジシャンあたりだろうか。

また、道悪馬場だったことや、ヨーロッパ色の強い種牡馬の産駒が上位を独占したことなど、内容面では、2018年の皐月賞と非常に似たレースでもあった。その年のダービーを勝利したのは、ディープインパクト産駒のワグネリアンで、2着は、エフフォーリアと同じく、皐月賞で4番手から抜け出し完勝したエポカドーロだった。

また、エフフォーリアの父エピファネイアは、系統でいえば、ロベルト系に属する種牡馬。
同じロベルト系種牡馬の中で、かつて、クラシックやGⅠなど大一番に強く、とりわけ皐月賞にめっぽう強かった、ブライアンズタイムを思い出す。

種牡馬エピファネイアは、今後もポスト・ブライアンズタイムとして、有力馬を続々とクラシックに送り込んでくれることだろう。

写真:natsumi

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