[重賞回顧]路線変更がついに結実~2021年・福島牝馬ステークス~

福島牝馬ステークスは、3週間後に行なわれるヴィクトリアマイルの前哨戦。1着馬に、ヴィクトリアマイルへの優先出走権が与えられる。

2021年は、3月に起きた地震の影響で10年ぶりに新潟競馬場での開催となった。福島での開催時と傾向が変わるかなど、多くの点で注目を集めた。

出走頭数は、クラヴァシュドールが取り消して15頭。最終的に、単勝オッズ10倍を切ったのは6頭と人気は割れたが、その中で、1番人気に推されたのはドナアトラエンテだった。

牝馬三冠をはじめ、GⅠ7勝のジェンティルドンナの全妹という超良血馬は、これが5歳ながらまだ11戦目。
2走前までは堅実に走っていたが、重賞初挑戦となった前走の中山牝馬ステークスでは、初めて4着以下となる9着に敗戦。ただ、ハイペースを先行したことや、馬場が悪くなりすぎたことが敗因とみられ、今回は巻き返しが期待された。

2番人気に続いたのはパラスアテナ。3勝クラスの身ながら、紫苑ステークス2着や、GⅠの秋華賞でも僅差の4着に入っている実力派。このメンバーでも、実績面では引けを取らない。格上挑戦ながら、一気の重賞制覇なるかと注目が集まった。

3番人気となったのはミスニューヨーク。形の上では、今回がオープン昇級初戦となるが、こちらも当時は格上挑戦ながら、秋華賞など重賞に3度挑戦し5着が2度。改めて、重賞初制覇の期待がかかっていた。

4番人気も、重賞初制覇の期待がかかるシゲルピンクダイヤ。過去、桜花賞で2着、秋華賞で3着など、重賞2着3回の実績は、やはり上位。気性面の難しさからか、成績面でムラがあるものの、念願の2勝目を重賞初制覇で飾るか注目を集めていた。

以下、人気順では、中山牝馬ステークス2着から臨むロザムール、格上挑戦ながら、GⅡのローズステークスで2着の実績があるムジカが続き、上位人気6頭は、いずれも重賞初制覇がかかる馬達だった。

レース概況

ゲートが開くと、ムジカが出遅れ、アバルラータとパラスアテナ、パッシングスルーの3頭が後方からの競馬となった。

一方、ハナを切ったのはディアンドルで、後続に2馬身のリード。その後ろに、ロザムール、カリオストロが続く。さらに4番手でサンクテュエール、フィリアプーラ、シゲルピンクダイヤの3頭が併走した。

ドナアトラエンテはその直後、ちょうど中団7番手にポジションを取り、パラスアテナが後ろから4番手、ミスニューヨークが後ろから3番手を追走。

1000mの通過は1分0秒6のスローで、先頭から最後方まではおよそ10馬身と、ほぼ一団となっていた。
さらに4コーナーを回っても、隊列に大きな変化はないまま、新潟名物の長い長い直線勝負を迎えた。

直線に入ると、逃げるディアンドルにロザムールが並びかけ、そこへサンクテュエールとフィリアプーラ、ムジカが参戦し、5頭がほぼ横並びに。残り300mを切ったところでロザムールが脱落し、変わってドナアトラエンテが4頭の争いに加わってきた。

さらに、残り200m地点で、最内のムジカの前が少し壁になってしまい、上位争いは4頭に絞られたが、粘るディアンドルがなかなか先頭を譲らない。

結局、ゴール寸前でもう一伸びしたディアンドルと、外から差してきたドナアトラエンテが馬体を併せたところがゴール。

写真判定の結果、先着していたのはディアンドル。ハナ差の2着にドナアトラエンテ、3着にサンクテュエールが入り、最終的には、8着までが0秒3差という大接戦だった。

良馬場の勝ちタイムは1分46秒9。
逃げ切ったディアンドルが、およそ2年ぶりの勝利を、それ以来の重賞2勝目で飾った。

各馬短評

1着 ディアンドル

デビューから9戦はすべて1200mに出走し、2年前の勝利までは5連勝を達成。さらに、次走の北九州記念2着まで、7連続連対を果たしていたほどの馬だった。

ところが、スプリンターズステークスで13着に敗れると一転してスランプに陥り、5戦連続で二桁着順を拾ってしまう。すると、4走前から1600m以上のレースに路線変更。前走の小倉大賞典3着からは対照的といえる、新潟外回りの芝1800mという条件でも結果を出し、路線変更が正しかったことを証明した。

ヴィクトリアマイルはメンバーレベルが上がるためどうかだが、高速馬場となった際、当初、短距離を走っていた経験が生きる可能性がある。

2着 ドナアトラエンテ

2走前の初富士ステークスでは、小回り・中山・道悪という、得意ではないと思われる条件を素質の違いで勝利。ただ、前走の重賞では、さすがに同じ条件といえども大敗してしまった。

しかし今回は、直線の長い平坦コースの良馬場で巻き返しに成功。上位入着馬は、スローな流れを生かした前残りがほとんどで、差して2着したこの馬の内容は価値がある。

賞金面でヴィクトリアマイルの出走は微妙だが、もし出走できれば、東京競馬場はおそらくベストの条件。相手も強いが、複勝圏内という意味ではチャンスがありそう。

3着 サンクテュエール

クラシック出走が含まれているとはいえ、この馬も、直近3戦連続で2桁着順とスランプ気味だった。しかし、今回は休養でリフレッシュしたか、得意とする直線の長い平坦コースで巻き返した。

ノーザンファーム生産のディープインパクト産駒で、ドナアトラエンテと得意条件は似ているはず。桜花賞では3番人気に推されたほどの逸材でもある。これがキャリア8戦目と大事に使われていて、引き続き活躍が期待される。

レース総評

前半の4ハロンが48秒2に対し、12秒4を挟んで、後半4ハロンが46秒3。後半のラップが2秒近くも早い後傾ラップとなったため、中団より後方に構えた馬には厳しい展開となった。また、上位人気6頭はすべて重賞未勝利馬だったものの、重賞を勝利した経験のある馬が1、3着となった。

勝ったディアンドルはルーラーシップ産駒で、母の父スペシャルウィーク、母母父エリシオと、血統表だけ見ればバリバリの中~長距離血統。母の父スペシャルウィークとの組み合わせは他に、今回出走していたパラスアテナや、2021年のフラワーカップを制したホウオウイクセルがいる。

また、ルーラーシップ産駒は、距離が延びるほど良く、1600mよりも1800m、2000mよりも2200mと、非根幹距離の方が強い傾向にある。

クイーンステークスや府中牝馬ステークス、そして距離がこなせるかどうかだが、エリザベス女王杯に出走すれば、面白い存在になるかもしれない。

写真:かずーみ

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