[地方レース回顧]あなたの夢は、どこから?~2021年・帝王賞~

芝のグランプリ、宝塚記念が終わり、大井競馬場2000mで争われるダートのグランプリ、帝王賞がやってきました。中央と地方のトップクラスが集う夏のチャンピオン決定戦です。

フルゲートを割った宝塚記念に対して、今年の帝王賞の出走メンバーは近年でも屈指の好メンバーでした。

  • オメガパフューム:大井コース7連対、東京大賞典3連覇中の「大井の鬼」
  • チュウワウィザード:チャンピオンズカップ勝利、ドバイワールドカップ2着
  • クリンチャー:ダートG3を3勝、クラシックも凱旋門賞も経験
  • オーヴェルニュ:今年に入って東海ステークスと平安ステークスを勝利
  • マルシュロレーヌ:牝馬交流重賞で3勝、牡馬に負けじと参戦
  • テーオーケインズ:ほぼ連闘の東京大賞典0.2秒差6着の後、アンタレスステークス勝利
  • ダノンファラオ:ジャパンダートダービー、浦和記念、ダイオライト記念と南関コースで好走

JRAから参戦の7頭の実績を簡単にまとめましたが、どの馬も重賞戦線で主役級の馬たちです。
対する地方競馬のメンバーも実績馬が参戦しました。

  • カジノフォンテン:川崎記念、かしわ記念を連勝している南関の大将格
  • ノンコノユメ:中央在籍時にジャパンダートダービー、フェブラリーステークス勝利の古豪
  • ミューチャリー:羽田杯勝馬、前走の大井記念で復活の勝利
  • ヒカリオーソ:東京ダービー馬、鼻出血の持病持ちだが不屈の闘志で走る
  • フレアリングダイヤ:大井金杯2着、長距離での追込が武器
  • モンゲートラオ:重賞勝利は無いが羽田杯は5着善戦、大逆転を狙う

以上の13頭が、梅雨らしく雨がしみ込んだ重馬場の大井競馬場で大一番に臨みました。
抽選で選ばれたファンが見守る中ですんなりとゲートインが終わり、グランプリの幕開けです。

レース概況

スタートで若干出負けしたカジノフォンテンですが、張田騎手に促され、いつも通り先頭に立ちます。
2番手の内にテーオーケインズ、外にダノンファラオが並んで鈴をつけに行き、すぐ後ろにオーヴェルニュが続く展開に。外を回ってクリンチャーが5番手、内にチュウワウィザードが並び中段でレースを進めます。
差し競馬が武器のマルシュロレーヌ、ミューチャリー、ノンコノユメがその後ろに控えて、オメガパフュームは後方外寄りでじっくりと構えます。

ノンコノユメの後ろにヒカリオーソがついていき、モンゲートラオとフレアリングダイヤが離れた最後方でコーナーから向こう正面へ。

逃げるカジノフォンテンに離されまいと、川田騎手がダノンファラオを近づけてマークし、ダノンファラオの後ろでオーヴェルニュが先行します。テーオーケインズは空いていたインコースを進み、クリンチャーとチュウワウィザードがそれに続くポジションを確保。

コーナーに入る直前、向こう正面のカメラにはカジノフォンテンを捉えようと横に広がる各馬の姿が映し出されます。オメガパフュームが後方から捲り始め、この動きを見たクリンチャー、オーヴェルニュが追い出し始めます。ダノンファラオも4コーナーで川田騎手に追われていますが、逃げるカジノフォンテンはまだ手ごたえを残して直線へ。

残り400mを過ぎて最内から一気にテーオーケインズが抜け出して先頭に立つと、先行していた馬たちは追いつけずに後退します。スタミナ自慢のクリンチャーがしぶとく伸びていますが、内で末脚を溜めていたノンコノユメが進路を大外に切り替え、一気の末脚でクリンチャーの外から追い込んできます。

残り200mを過ぎてもテーオーケインズの勢いは止まらず、そのままゴールまで駆け抜けました。
文字通り大外から飛んできたノンコノユメがクリンチャーを差して2着、首差で差されたクリンチャーも最後までしぶとく伸びて3着でした。後方で差しに徹したミューチャリーが4着、オメガパフュームは先行勢こそ交わしたものの、いつもの勢いがなく5着まで。

各馬短評

1着 テーオーケインズ

年末に東京大賞典にほぼ連闘のスケジュールで挑戦してから早半年、4歳を迎えた今年は連勝でアンタレスステークスを勝った勢いに乗っての参戦でした。

ゲートがやや不安定な馬ですが、今回はしっかり出ると、早々にカジノフォンテンを見ながらインコースに進路を確保してロスなくレースを運びました。実は、アンタレスステークスもハイペースをインコースで追走してコーナーで最後の進路を見定めて、直線で一気に突き放すという同じようなレース運びをしていました。

今回はカジノフォンテンが人気を背負って逃げを打ち、ダノンファラオやオーヴェルニュが早めに動いてくれたので、最内に活路を見出して一気に抜け出すことができたのでしょう。

生産者のヤナガワ牧場の先輩には、コパノリッキー、サンライズノヴァ、サンライズバッカス、そしてキタサンブラックというG1ホースたちが並びます。
どの馬も3歳時に頭角を現しながら古馬戦線で本領発揮した馬たちですから、テーオーケインズも先輩たちに追いつけるよう息長く活躍してほしいところです。

2着 ノンコノユメ

7歳の帝王賞から大井競馬に移籍し、気づけば9歳の夏を迎える古豪。
有力どころがカジノフォンテンを捕まえに行って共倒れするという展開の恩恵があったとはいえ、馬群の大外から伸びてくる末脚に衰えはありませんでした。

直線に向いた際に、真島騎手が右鞭を入れながら外側へノンコノユメを誘導する手綱捌きがお見事でした。
鞭を入れることでアクセルをふかしつつ、クリンチャーの外まで出すことで安全に前に進めたのが功を奏したのでしょう。
最内を突っ込めれば着差は更に縮まったかもしれませんが、進路選択は前にいたダノンファラオとカジノフォンテンが手ごたえをなくして止まってしまったが故の結果なので、こればかりは勝負の運というより仕方ありません。

残念ながら先日引退したサウンドトゥルーのように、大きなケガが無ければまだまだ南関で輝ける馬です。
私が競馬場でレースを見るようになったころから走り続けている数少ない現役馬なので、最後まで無事に走り切ってほしいですし、願わくばG1、S1級競争を勝つところが見たいです。

3着 クリンチャー

クラシックでは大雨の菊花賞をスタミナを武器に2着、4歳春の阪神大賞典と天皇賞(春)で3着に好走した経験もあります。4歳の秋には凱旋門賞に挑み、昨年からはダート戦へと戦いの場を移してきました。

切れる脚が無い代わりに無尽蔵のスタミナがあり、ダート転戦後は後方のまま何もできなかったチャンピオンズカップを除けば、先行位置からスタミナ任せに押切りを狙うレーススタイルを続けています。今回も先行していた馬たちの中で唯一、掲示板に数字が入ったのは持ち前のスタミナをフルに発揮した結果でしょう。

3歳デビューから年間5レース以上は毎年走り続けていて、身体の丈夫さで日本でも海外でも走れるのはこの路線では大きな強みです。ケガさえなければダートの重賞路線に挑み続けて、今年はJBCクラシックや東京大賞典が目標になるでしょう。この路線はまだまだ上の世代の馬たちも走っているので、負けずに日本中を駆け回ってほしいですね。

4着 ミューチャリー

南関生え抜きのミューチャリー、デビューから今まで一貫して御神本騎手が乗り続けている馬です。
羽田杯1着、東京ダービー2着、ジャパンダートダービーもクリソベリルの0.6秒差3着で駆け抜け、5歳世代上位の実力を持っています。
大崩れしない安定感が武器ですが、交流重賞ではあと一歩届かず、前走の大井記念で久々の勝利。南関の馬同士であればやはり強い姿を見せてくれます。

いつも決めて上位の末脚を繰り出して着を上げていて、今回も上がり4位の37.7秒で差してきましたが、先に抜け出していたテーオーケインズや唸る末脚のノンコノユメを捉えることは出来ませんでした。

実力があるだけになんとも歯がゆい結果が続きますが、ハイペースで先行馬が厳しくなる今回のような流れは末脚を溜めることができますし、前走ではコーナーワークで一気に捲り上げて押し切っているので、南関東勢の中では引き続き上位評価で良いでしょう。

5着 オメガパフューム

小柄な馬体でダート馬には見えないと評されながら、このコースとの相性は抜群です。
東京大賞典3連覇をはじめ、大井2000mでは7戦7連対の成績から、最終的に今年の1番人気に推されていました。

今年は例年と異なり、川崎記念でカジノフォンテンと対戦してから前哨戦を挟まずに帝王賞へ直行しています。
今年は平安ステークスが中京競馬場での開催だったので、不得手な左回りで連戦するのを嫌ったという今年ならではの事情もあったのでしょう。

今年のレースタイムが過去10年でスマートファルコンに次ぐ高速決着だったので、馬場も向かなかったのかもしれません。とはいえ、上位の馬たちはクリンチャーを除いてインコースで脚を溜めていて、ロスの無い競馬をしていましたので、外を回し続けての5着であれば評価を落とす必要はありません。

今年はJBCクラシックが右回りの金沢競馬場なので、おそらくJBCに向かってから東京大賞典4連覇に向かうローテーションと思われます。天気のいい力の要る馬場で改めて強いところが見たいですね。

レース総評

皆様が夢を託した馬たちの結果はいかがでしょうか。
私はカジノフォンテンに夢を託しましたが、コーナーを抜けるまで夢を見ることが出来ましたし、先行馬をつぶすペースを生み出す走りによって最後の脚力が残っている馬たちの強さも引き立たせてくれました。

夏の大一番が終わり、秋のJBCクラシックや冬のチャンピオンズカップ、東京大賞典を見据えて夏に向かいます。
ゆっくり休むもの、実践を積んで経験値を稼ぐもの、様々なローテーションを組むことでしょう。
これだけのメンバーが揃っているダート競馬のレースは、馬券を抜きにしても盛り上がりますから、全人馬が無事に夏を超えて、秋に再び相まみえる機会があることに期待したいですね!

写真:s.taka

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