8年ぶりに函館開催となった、2021年のクイーンステークス。過去には、このレースを勝利したトゥザヴィクトリーやアヴェンチュラが後にGⅠウイナーとなり、ヘヴンリーロマンスは、このレース2着から連闘で札幌記念を勝利。さらに、展覧競馬となった天皇賞秋で大金星を挙げている。
一方、アエロリットやディアドラのように、既にGⅠタイトルを手にしていた馬達もここを勝利。次なるステージへと飛躍していった。今年のメンバーは12頭。GⅠ馬こそいないものの、ここをステップに大舞台へと飛躍を期す馬が複数出走していた。
人気は、関東所属のディープインパクト産駒3頭に集中。その中で、1番人気に推されたのはマジックキャッスル。2020年の秋華賞で、デアリングタクトの2着に惜敗して以降、成績は安定。現在、4戦連続で複勝圏内に好走しており、前走はヴィクトリアマイルで3着。GⅠの好走実績は上位で、多くの支持を集めた。
2番人気はドナアトラエンテ。国内外でGⅠを7勝し、顕彰馬にも選出されたジェンティルドンナの全妹という超良血。重賞勝ちこそないものの、キャリア11戦すべて1800mに出走し、4着以下は1度のみというこの距離のスペシャリスト。念願の重賞初制覇を目指しての出走だった。
3番人気に続いたのはテルツェット。2走前に、4連勝でダービー卿チャレンジトロフィーを制し重賞初勝利。前走のヴィクトリアマイルは14着に敗れたものの、今回のメンバーで重賞ウイナーは4頭しかいないため、実績は上位。ルメール騎手が騎乗する点でも、期待を集めた。
レース概況
発走直前、急激に雨脚が強まる中ゲートが開くと、クラヴァシュドールがやや立ち遅れ。テルツェットも、いつもどおりダッシュがつかず、後方からの競馬となった。外からシャムロックヒルが出ようとするところ、出鞭を入れて先手を切ったのがローザノワール。ドナアトラエンテがこれに続き、コーナリングで2番手に上がる。
第2集団は、1番人気のマジックキャッスルと、シゲルピンクダイヤ、フェアリーポルカの3頭が併走。さらにその後ろも3頭、最後方も3頭が横一列になり、3番人気のテルツェットは、最後列の真ん中でレースを進めた。
良馬場発表とはいえ、レース前から降り出した大雨で、おそらくは稍重から重の間くらいにまで悪化していた。そのため、1000m通過59秒9は、平均よりほんの少し遅いくらいのペース。先頭から最後方までは、およそ10馬身の圏内だった。
勝負所の3~4コーナー中間。ローザノワールがやや後続との差を開き、その後ろでは、フェアリーポルカがドナアトラエンテに並びかける。そのドナアトラエンテは、川田騎手が懸命に手綱を押すも手応えは今ひとつ。そこへ、マジックキャッスルと内からイカット。さらには、大外から捲るようにウインマイティーが上がっていったところで、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に入り、ローザノワールのリードは2馬身。懸命に逃げ込みを図ろうとするも、残り150mで、今度はフェアリーポルカが先頭に立つ。その2頭の間を突こうとしたイカットの前が塞がる隙に、外からマジックキャッスルが差を詰めてフェアリーポルカに並びかけ、上位は、この2頭で決着すると思われた。
しかし、残り50mを切ったところで、後続から急激に末脚を伸ばしたのが、テルツェットとサトノセシルの2頭。マジックキャッスルがフェアリーポルカを競り落としたのも束の間。テルツェットが、一瞬で2頭を交わし1着でゴールイン。2着は、クビ差でマジックキャッスル。3着も、同じくクビ差でサトノセシルが入った。
勝ちタイムは、1分47秒8。2つ目のタイトルを手にしたテルツェットが、秋のGⅠ戦線へ名乗りを挙げる勝利を飾った。
各馬短評
1着 テルツェット
前走GⅠで大敗を喫したものの、それを除けば、今回も含め7戦6勝3着1回とほぼ完璧な成績。新潟の外回りや東京といった大箱で勝利している一方、今回のように、函館や中山でも重賞を勝利している。ルメール騎手の好騎乗だったことは間違いないが、どんなコースでも走れるほど高い能力を持っているのかもしれない。
母のラッドルチェンドは、3代母に名牝ミエスク(キングカメハメハの父の母)を持ち、リアルスティールやラヴズオンリーユーの半姉にあたる。つまり、テルツェット自身はその兄妹と4分の3同血。本馬のように、父ディープインパクト×母父がヨーロッパ系種牡馬の血統構成を持つ牝馬は、マリアライトやサラキアのように、古馬になって活躍する傾向にある。
秋にどういった路線を歩むか注目されるが、エリザベス女王杯もマイルチャンピオンシップも、関西への遠征が伴う。小柄な馬のため、馬体の成長や体重の維持が課題になりそうだ。
2着 マジックキャッスル
これで5戦連続の馬券圏内となり、安定感は抜群。ただ、言い換えると、まだ2勝しかしていないように、やや勝ち味に遅いのも事実だろう。この馬もまた、ディープインパクト×母父ヨーロッパ系種牡馬の組み合わせ。秋にどの路線を歩むか注目されるが、よほどのことがない限り、特に牝馬限定戦での大崩れは考えにくい。
3着 サトノセシル
前走2勝クラス1着からの格上挑戦が実り、3着に好走。欧州最強馬のフランケルを父に持つだけに、湿った馬場が味方したのかもしれない。賞金を上積みできなかったのは痛いが、今回がまだキャリア10戦目の5歳馬。やや特殊なレースとなったため、次走3勝クラスに出てきても確勝とレベルはいえないが、大事に使われている分、伸びしろは多いにありそうだ。
レース総評
レース前の急な大雨で、やや特殊な馬場状態となった今年のクイーンステークス。
常に12秒前後のラップが刻まれ、前半の800mが47秒8。12秒1のラップを挟んで、後半の800mも47秒9とほぼイーブン。ペースは速くないものの、息を入れるところがなかったせいか、先行馬有利のレースにもならなかった。
──ところで、先日の7月30日はディープインパクトの命日。史上最強クラスのサラブレッドがこの世を去って、早2年が経過した。
そのディープインパクトの産駒は、1800mに関しては、函館よりも札幌の方が成績は良い。しかし、8年ぶりに函館開催となった今年のクイーンステークスでは、能力が適性を上回り、結果的にワンツー決着となった。
同馬の産駒は、2014年と19年に当レースを制しているが、過去10年の他の勝ち馬の父は、いかにも非根幹距離で強い種牡馬。そのため、ディープインパクトと種牡馬リーディングを競っているキングカメハメハやハーツクライの産駒から、このレースの勝ち馬は出ていない。
ディープインパクト産駒の牡馬は、春のクラシック路線で活躍すると古馬になって伸び悩むことも多いが、牝馬は古馬になっても活躍する馬が多い。今回勝利したテルツェットは三冠レースに未出走。マジックキャッスルも、春のクラシックは今ひとつの成績だったが、秋華賞以降は非常に安定している。
勝ちタイムこそ平凡だったが、上位2頭は、秋のGⅠ戦線でも期待できるのではないだろうか。