現役最強馬決定戦に相応しい舞台として、天皇賞・秋を挙げる人は少なくない。GIが数多く開催される1600m、2000m、2400mの、ちょうど中間の距離で行われ、日本を代表する東京競馬場に、各距離帯のスペシャリストが集結して覇を競うレースである。
2021年の天皇賞・秋には、まさにその道のスペシャリストたちが名を連ねたが、それでも人気は3頭に集中。その中で僅差の1番人気に推されたのは、中距離のスペシャリスト・コントレイルだった。
昨年、父ディープインパクトに続き、史上3頭目となる無敗の牡馬クラシック三冠を達成。続くジャパンCでも、アーモンドアイの2着に好走した。今シーズンは、大阪杯から始動して3着に敗れたものの、道悪が敗因だったことは明らか。それ以来7ヶ月ぶりの実戦となるものの、次走のジャパンCで引退が決まっており、泣いても笑ってもあと2戦で仕上げは万全。大きな期待と注目を集めていた。
2番人気に続いたのは、短距離のスペシャリスト・グランアレグリア。最強馬アーモンドアイを破った2020年の安田記念など、1600mのGIを4勝し、他に1200mのスプリンターズSも勝利。こちらも、今期初戦となった大阪杯でGI・3階級制覇に挑み4着に敗れたものの、敗因はやはり道悪。コントレイルと2度目の対決で、今度こそ3階級制覇を成し遂げるべく出走してきた。
3番人気は、3歳馬のエフフォーリア。4月に無敗で皐月賞を制し、二冠を目指したダービーは惜しくもハナ差の2着に敗れ、涙を飲んだ。今回は、それ以来5ヶ月ぶりの実戦。特にレベルが高いと言われる今年の3歳世代を代表し、最強の牡・牝馬を破って史上4頭目となる3歳の天皇賞馬になれるか、大きな期待が集まっていた。
レース概況
ゲートが開くと、カデナ、ワールドプレミア、ペルシアンナイトの3頭がやや立ち後れ、後方からの競馬を余儀なくされた。
先手を切ったのは横山典弘騎手騎乗のカイザーミノルで、横山和生騎手騎乗のトーセンスーリヤが続こうとするところ、2コーナーでグランアレグリアが2番手に上がった。それをマークするようにカレンブーケドールとポタジェが追走し、エフフォーリアは6番手。4連勝中のヒシイグアスを挟んで、コントレイルはちょうど中団8番手からレースを進める。
最初の600mは35秒2で入ったものの、そこからペースは落ち、1000m通過は1分0秒5のスロー。後方4頭が間隔を開けて追走したため、先頭から最後方まではおよそ15馬身。やや縦長の隊列となった。
その後も、目立った馬順の並びかわりはないものの、残り800m地点で、グランアレグリアがカイザーミノルに体半分差まで迫り、4コーナーでは先頭に並びかけ、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に入ると、坂を駆け上がる途中でグランアレグリアが抜け出し先頭。エフフォーリアがこれを追い、コントレイルがその1馬身後ろまで迫る。一方、4番手はサンレイポケットとポタジェの争いとなるも、前3頭とは2馬身ほど離されてしまった。
そこからは、事前に予想されたような三強のデッドヒート。残り150mでエフフォーリアが先頭に立つと、グランアレグリアに差し返す余力はなく、コントレイルが2番手に上がって前を追うも、最後までその差が詰まることはなかった。
結局1馬身の差をつけ、エフフォーリアが堂々先頭でゴールイン。コントレイルが2着、さらにクビ差の3着にグランアレグリアが入った。
良馬場の勝ちタイムは、1分57秒9。エフフォーリアが父の父シンボリクリスエス以来、19年ぶり史上4頭目となる3歳の天皇賞馬に。そして、騎乗した横山武史騎手も、父典弘騎手、祖父富雄騎手に続き、史上初となる親子三代での天皇賞制覇を達成した。
各馬短評
1着 エフフォーリア
スタート、道中の位置取り、仕掛けのタイミングなど。横山武史騎手の完璧なエスコートで、快挙を達成した。
淀みないペースで流れたほうがこの馬の得意パターンと思われるが、それでも、スローからの上がり勝負が得意なディープインパクト産駒の最強馬2頭に完勝。名実ともに最強馬の座についた。
テンションが上がりやすいエピファネイア産駒のため、次走がジャパンCだと少し間隔が短いかもしれない。それでも、コントレイルやシャフリヤールとの再戦。さらに、他の有力馬との対決を見たいという気持ちは、競馬ファンなら誰しもが抱く思いだろう。
2着 コントレイル
レース直前、ゲート内に設置されたカメラに、駐立が悪いところが映っていた。結果的には好スタートを切ったものの、本当はもう一列前。エフフォーリアの位置につけたかったはずで、最後にその差が出て、残り100mでは内にもたれるような仕草も見せた。
次走のジャパンCがラストラン。この馬も、おそらく休み明けに強さを発揮するタイプで、今回の敗戦は非常に痛いが、まずは無事に、そしてなんとか悔いのないレースを見せて、有終の美を飾ってほしい。
3着 グランアレグリア
距離は問題ないと思っていたが、スローになるといきたがり、その分が最後に響いてしまった。一流のマイラーであっても、この展開なら大敗してもおかしくなく、それでいて3着に好走したのは、やはり超一流馬の証し。
まだ発表はされていないものの、クラブの規定で来春には引退となるため、この馬もおそらく残りは数戦。年末の香港マイルと香港カップに登録があり、どちらかのレースがラストランとなる可能性もある。
レース総評
前半1000mが1分0秒5、後半の1000mが57秒4だった今年の天皇賞・秋。昨年とやや異なる馬場だったと思われるが、それでも、昨年の前半1分0秒5、後半57秒3とほぼ同じタイムだった。
ちなみに、2019年は59秒0-57秒2で、18年が59秒4-57秒4というペース。序盤はスローで入るものの、後半1000mは、終始全力に近いペースで走り抜かねばならない天皇賞は、やはり最強馬決定戦に相応しいレースといって間違いない。
勝ったエフフォーリアの強みは、どんな展開でもこなしてしまう点ではないだろうか。
例えば同じ2000mでも、今回の天皇賞・秋と2走前の皐月賞は、競馬場やメンバーはもちろんのこと、レースの性質はまるで異なる。今回がまだ6戦目で、そう断言してしまうのは早いかもしれないが、一定の間隔を開けて出走すれば、おそらくどんな条件でも安定して力を発揮できるだろう。
思えば、父のエピファネイア、父の父シンボリクリスエスが初めてGIを制したのは、ダービー2着を経て本格化した後の3歳秋。特に、シンボリクリスエスは、中山と東京という、異なる競馬場、異なる条件の天皇賞・秋を連覇した名馬中の名馬だった。
また、3歳で天皇賞・秋を制した馬はエフフォーリアで4頭目だが、その年のクラシックを勝った馬の天皇賞制覇はこれが初。父や父の父と同様、ようやく今、本格化を迎えたとするなら、果たしてどこまで強くなるのかという期待も出てくる。しかも、勝利した相手が相手だけに、その期待はいっそう高まり、次走以降も本当に楽しみになってきた。
一方、ウイニングランで涙を流した横山武史騎手。鹿戸調教師のレース後のコメントにもあったように、ダービーの惜敗は、本当に悔しかったそうだ。その悔しさを糧に最高の結果を導き、流した最高にして人生最初の涙。
先週の菊花賞でもドラマチックな勝利を演出した主人公は、エフフォーリアとともに、間違いなく日本の競馬界を代表する存在になるだろう。
写真:俺ん家゛