[重賞回顧]兄の背中を追って。6歳春、ついに本格化の時~2022年・目黒記念~

伝統のハンデ重賞・目黒記念が、ダービーデイの最終レースになって16年(2011年除く)。2021年は3連単の配当が99万円を超えるなど、高配当の決着も多く、目黒記念こそがダービーデイのメインレースというコアなファンも少なくない。

2022年もフルゲートの18頭が出走。同時に5頭の除外馬が出て、1番人気でも単勝オッズは4倍を超える大混戦。その1番人気に推されたのは、ダービーで2着に惜敗したイクイノックスと同じ枠順、オーナー、騎手、調教師のパラダイスリーフだった。

屈腱炎を発症して2年以上の休養を挟んだため、6歳ながらまだキャリア7戦の本馬。ここまですべて3着内を確保する安定した走りで前走のサンシャインSを勝利し、ついにオープンまで上り詰めた。全兄に、重賞2勝のゼーヴィントがいる良血で使い減りも少なく、満を持しての重賞初挑戦。そして、初制覇が期待されていた。

僅差の2番人気となったのがボッケリーニ。全兄にGIを2勝し、現在は種牡馬のラブリーデイがいる良血で、勝ちきれない反面、これまでの最低着順は6着と常に好走している。2020年の中日新聞杯以降、勝利からは遠ざかっているものの、前走の日経賞では、後に天皇賞・春を圧勝するタイトルホルダーとクビ差の接戦。久々の勝利が期待されていた。

これに続いたのが、4歳馬のバジオウ。3歳時にはプリンシパルSを勝ち、その後のダービーでも0秒8差の9着に健闘している。前走の府中S他、全3勝を東京競馬場で挙げているコース巧者。パラダイスリーフと同様、勢いに乗っての重賞初制覇が期待されていた。

そして、4番人気に推されたマカオンドールは、叔父に凱旋門賞馬で、種牡馬としてもクロノジェネシスを輩出したバゴがいる良血。ホープフルSや前走の天皇賞・春など、GIでは大敗しているものの、それ以外では安定した走りをみせている。目黒記念で活躍するステイゴールドの系統から、新たな勝ち馬が誕生するか。大きな注目を集めていた。

レース概況

ゲートが開くと、全馬ほぼ揃ったスタート。その中から、二の脚が速いバジオウが内から先手を伺いつつも、連覇を目指すウインキートスが、その動きを牽制しながら逃げの手に出た。

バジオウから1馬身半離れた3番手にフライライクバードとボッケリーニがつけ、以下、ベスビアナイト、モズナガレボシ、プリマヴィスタ、ラストドラフトの順に、10頭ほどが半馬身~1馬身間隔の隊列。この中に、パラダイスリーフとマカオンドールも含まれ、中団やや後ろの12、13番手を追走していた。

1000m通過は1分2秒5のスローペースで、先頭から最後方までは、およそ17~18馬身の差。とはいえ、アサマノイタズラだけが離れた最後方を追走していたため、それ以外の17頭は、ほぼ一団に近い形で3コーナーへと差し掛かった。

すると、ここで中団に構えていたマイネルウィルトスがじんわりと上昇を開始。3番手まで進出し、2番手のバジオウにプレッシャーをかけた。一方、この動きを警戒したのがボッケリーニで、すぐさまマイネルウィルトスを内からかわし3番手に。長距離戦らしい駆け引きが見られる中、18頭は一団となり、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、まだまだ手応えが楽なウインキートスがコーナーワークで少し差を広げ、リードは1馬身半。これを、坂の途中からバジオウとボッケリーニが追うも、バジオウは坂上で失速。ボッケリーニが単独2番手に上がり、残り200mを過ぎたところでウインキートスに並びかけた。

その後ろ、3番手集団で伸び脚が目立つのは、マイネルウィルトスと、大外から一気に追い込んできたディアマンミノルで、上位争いはこれら4頭。しかし、ゴール前50mで抜け出したボッケリーニがそのまま押し切り、1着でゴールイン。3頭横並びで、大接戦となった2着争いはマイネルウィルトスが僅かに制し、逃げたウインキートスが同じくハナ差で3着を死守した。

良馬場の勝ちタイムは2分32秒1。2014年の当レースで1番人気ながら5着に敗れた全兄ラブリーデイの雪辱を果たしたボッケリーニが、1年半ぶりの勝利を手にし、重賞2勝目をマークした。

各馬短評

1着 ボッケリーニ

さすが、天皇賞・春を圧勝する馬と接戦を演じた実力は、この中では一枚抜けていた。枠に恵まれたとはいえ、スムーズなレース運びで着差以上に強い競馬。トップハンデも問題にしなかった。

キレる脚がない点は宝塚記念にぴったりだが、使い込めないタイプとのことで、秋に向けて放牧に出されるそう。有馬記念の伏兵として、出走してきた際には必ず相手に組み入れたい存在。また、全兄のラブリーデイを管理していた池江厩舎に所属している点も大きい。

2着 マイネルウィルトス

マイネルウィルトス自身や、父スクリーンヒーロー。さらに、その産駒のゴールドアクターやフライライクバードは、同じ舞台で行われるアルゼンチン共和国杯で結果を残してきたが、目黒記念では出走頭数が少なく、初めての好走例となった。

3コーナーでバジオウの直後に進出し、デムーロ騎手がプレッシャーをかけたシーンは、2017年の宝塚記念で断然人気のキタサンブラックに、勝負所でサトノクラウンがプレッシャーをかけにいった場面と酷似していた。

これが33戦目とタフな馬で、安定感があるとは言えないまでも、3着内はなんと20回目。持久力、底力が求められる2200m以上のレースでは、ノーマークにできない。

3着 ウインキートス

連覇まであと少しだったが、最後に捕まってしまった。恵まれた展開になったものの、積極的に逃げたからこその好結果。その価値が下がることはない。

非根幹距離でリピーターが強い典型的な例とはいえ、牝馬ながら2年連続の好走は立派。しっかりとしたデータが残っている1986年以降、芝2500m以上の平地重賞で、2回以上3着内に好走した牝馬は6頭のみ。一つ上のステージでは、やはり枠順や展開の助けは必要となるものの、オールカマーやエリザベス女王杯。有馬記念などで、一発があってもおかしくない。

レース総評

ラスト3ハロンだけの勝負となった昨年ほどではなかったものの、前半はスローな流れ。ただ、およその中間点1300mから、ゴールの1ハロン手前、つまりスタートから2300mの地点までは加速し続けるラップだった。

上位3頭は、4コーナーで3番手以内に位置していた先行馬。一方、同じ先行した馬の中でも、3勝クラスから勝ち上がってきたバジオウやプリマヴィスタ。ベスビアナイトは、古馬混合の中距離重賞特有の底力勝負に屈し、直線失速してしまった。

また、目黒記念は、近年のダービーよりもはるかに内枠有利のレース。外枠に入った馬や、差し・追込みに徹した馬は、今年も厳しい展開だった。

そのダービーとわずか100mしか違わないものの、坂を2度上るため、傾向が大きく異なる目黒記念。血統面でいえば、父サンデーサイレンス系の種牡馬、特にディープインパクト産駒×母父アメリカ血統が強いダービーに対し、目黒記念は、いかにもステイヤーというヨーロッパ系の血が強い。

2021年に続き、今年も、3着内にキングカメハメハとゴールドシップの産駒が1頭ずつ入ったが、ゴールドシップやオルフェーヴルなど、ステイゴールドの系統は、どちらかといえばヨーロッパ色が強いサンデーサイレンスの系統。海外の重賞に強いことから、同じサンデーサイレンス系でも、ディープインパクト産駒とは明らかに異なる。

勝ったボッケリーニに話を戻すと、全兄のラブリーデイは5歳時に出走した中山金杯から快進撃を見せ、この年10戦6勝。うち、GI2勝とブレイクした。そのため、ボッケリーニが4歳12月に中日新聞杯を勝ったときは、ここから一気にブレイクするかと注目されていたものの、昨シーズンは5戦して2着2回。イマイチな成績に終わってしまった。

しかし、今年はアメリカジョッキークラブC3着から、日経賞2着。そして今回1着と着順を上げ、いよいよ本格化なったとみて間違いなさそう。偉大な兄を上回り、6歳にして今度こそ花開くか。今後の活躍を、楽しみに見守りたい。

写真:かぼす

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