[重賞回顧]豪脚炸裂!世代最初の重賞金メダル~2022年・函館2歳S~

うだるような熱気に包まれながら、もう7月も中盤。北の大地では早くも2歳の重賞戦が開幕し、来年の戦国クラシックへ向けての戦いが幕を開けた。

毎年恒例、芝の6ハロン戦で行われる函館2歳Sは、まだデビューして間もない各馬が初めて格式高いグレードレースで鎬を削る1戦。勝ち馬のみならず、近年でいえばタイセイビジョンやカワキタレブリー、過去まで遡れば、三冠馬ナリタブライアンも出走していたりと、G1で好走、あるいは世代でトップクラスの実力を持つ馬が参戦することも多数ある。

今年早くにデビューした素質馬の中から1番人気に推されたのは、同舞台の新馬戦で逃げ切り快勝を収めたスプレモフレイバー。底力勝負に強いダイワメジャー産駒で内枠になったのも好材料の一つとみられたか、抜けた1番人気に推されていた。続いて第2週の新馬戦でワンツーフィニッシュを飾った2頭、ミシェラドラータとグリダームが2.3番人気に推される。特にクリダームにまたがる武豊騎手はこのレースで重賞通算350勝という前人未到の大記録にも手がかかっていた。4番人気はビッグアーサー産駒のブトンドールが支持され、この4頭までが一桁人気となっていた。

とはいえ、まだまだ若い2歳馬たちの競演。人気あるなしかかわらずどのような展開になるかは予想つかず、混戦模様の様相を呈していた。

レース概況

ややどんよりとした空模様の中ゲートが開き、オマツリオトコとロッソランパンテ2頭が少し出遅れる格好となった。

良いスタートを切ったニーナブランドと横山和生騎手が外から先頭を主張するが、意に介さぬように内から武豊騎手とクリダームが楽に並びかける。さらに前走と同様にスプレモフレイバーもついていき、先団は3頭が形成。しかしほどなくしてニーナブランドはやや遅れ始めたため、結果的に人気2頭がそのまま先頭集団となった。

それに追随する形で前走同じような位置から先行抜け出しを決めていたゴキゲンサン、東京から転戦してきたロッソランパンテが出遅れながらも巻き返し、その後ろに初芝となるニシノシークレットが続く。

中団以降はやや固まり、ブトンドール、オボロヅキヨ、ミスヨコハマと続く。ミシェラドラータと池添謙一騎手もこの位置。アスクドリームモアがややまくるように順位を上げ、そこから少し離れてこれがキャリア3戦目のシンゼンイズモが位置し、行き脚つかなかったオマツリオトコが離された最後方に落ち着いていた。

前半600mを早くも通過し、短い函館の直線へと4コーナーへ駆けていく12頭。前半ラップタイムは34.5とこの時期の2歳であること、馬場が渋り気味のであることを考えればハイペースと言える。この時点でニーナブランド、ロッソランパンテ、捲ってきたアスクドリームモアは早くも手ごたえをなくしたか先頭争いからは脱落。かわって最初の600mで脚を溜めてきた後続の各馬が入れ替わるように進出を開始した。

そして直線。ここまで競りかけてきたスプレモフレイバーも振り切り、先団でレースを進めたうちクリダームただ1頭が抜け出して函館の直線を駆け抜ける。後続各馬も追いすがるが、その差は詰まるどころか開く一方。天性のスピードが光るかのようにそのまま差を広げていく。200mを切ったところで、突き放した後続との差は2馬身近く。普通であれば、このままいっても全くおかしくない逃げ方だった。

──が、豪脚一閃、外からピンクの帽子が突っ込んでくる。

逃げ粘るクリダームに大外から襲い掛かってきたのは、父ビッグアーサーが乗り移ったかのような鹿毛の牝馬、ブトンドールただ1頭。


みるみるうちに差を詰めると、そのまま一気に粘るクリダームをとらえて先頭へ。最後は逆に1馬身と4分の1ほど突き放して、世代最初の重賞ホースの座を鮮烈に射止めた。

上位入線馬と注目馬短評

1着 ブトンドール

世代最初の重賞ウィナーに輝いた同馬。直線の切れ味は、世辞なく父ビッグアーサーそっくりの末脚だった。一瞬の切れ味は父譲りという評価に間違いないとみていいだろう。この後、距離が延びる2歳牝馬路線でどこまで成績を残せるか。

血統的にも母父にスウィフトカレントがいる珍しい血統構成。この切れ味がこの先の仁川、府中の舞台でも見られるか、期待したい。

2着 クリダーム

敗れはしたが、この渋った馬場と2歳戦でのハイペース、スタートしてからの先行争いで先手を勝ち取りながら最後の最後まで粘り切るかと思わせた持久力は大きく評価できる。他の先行勢が軒並み大敗していることから、この時期の2歳馬のなかでは高水準の持久力を持っていると見てよさそう。

3着 オマツリオトコ

出遅れて遅れた最後方からのレースとなったが、最後は渾身の末脚で追い込み、クリダームに肉薄する3着。ハイペースが災い転じて福と為した感は確かにあるが、それでも最後の末脚は目を見張るものがあった。

血統表にはプリエミネンスにスマートボーイと渋い顔、そしてガチガチのダート血統の種牡馬たちがずらりと顔を並べてはいるが、今日の走りなら芝でもやれそう。

8着 スプレモフレイバー

先行争いから始まり、最後は脚が上がって8着。前走と違いタフな馬場で、楽に先行できなかったというのが敗因だろうか。ただ、まだキャリア2戦目。ここからの馬であり、見限るには早すぎる。新馬戦のような走りができれば再度注目だろう。

総評

12.3 - 10.7 - 11.5と流れた前半ラップ。これは7年前同馬場状態で行われた函館2歳S(勝馬 ブランボヌール)12.2 - 10.6 - 11.3とほぼ同ラップタイムで、この年にこのペースを作ったメジェルダとドナルチアは早々に失速して7着、11着に終わっている。

頭数の違いもあるため単純比較はできないが、それでもこのペースの中最後まで「おっ」と思わせるような走りを見せたクリダームには、今後の活躍ん期待しないわけにはいかないだろう。

そしてそのクリダームをしっかり大外からとらえきったブトンドールと鮫島克駿騎手。単純に「展開がはまった」というだけでは決して語ることのできない、父譲りの見事な豪脚のように思える。これで2戦2勝、1200mも2戦2勝。偉大な父と祖父の連勝連対記録にどこまで並べるかと思うのは気が早すぎるだろうが、最後の末脚は圧巻の末脚だった。来年の仁川、府中の華舞台で、再びあの脚色を披露してほしいものだ。

函館も終わり、来週からは札幌開催も始まる。それは同時に、秋の息吹が徐々に聞こえ始めてくることを知らせる合図でもある。

2歳若馬たちの次なる重賞は、新潟と小倉。今年はどんな素質馬たちが来年のクラシック戦線を彩ってくれるのか、胸が躍る。

写真:hozhoz

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