初冬、名古屋の地で行われる中央ダート頂上決戦、チャンピオンズC。
そこに歩を進めるべく、この週は多くの有力馬がそのステップレース、あるいは地方頂上決戦に蹄音を刻んだ。

岩手で行われたJBC3レースに出走した有力各馬に続かんとする、仁川のダート1800mにその姿を見せた優駿16頭。若駒、古豪全て混じり合ったその中で1番人気に推されたのは、トップハンデ59キロを背負うオメガパフュームだった。

昨年、前人未到の東京大賞典3連覇を成し遂げた同馬は、このレースが帝王賞3着以来となる実戦。仁川の舞台は4戦して無敗、今年のアンタレスSでもトップハンデ59キロを背負いながら快勝と、ハンデが割引材料にならないくらいの十分すぎる実績を引っ提げていた。メンバー中唯一のG1馬ということ、ここまでの戦績が抜きん出ていることからも、押しも押されぬ1番人気に支持されていた。

続く2番人気はハギノアレグリアス。2年前、秘めたる潜在能力を見せつけて3連勝で条件戦を突破した同馬だったが、直後に屈腱炎を発症。1年8ヶ月の時を経て復活し、復帰戦のアハルテケSでいきなりの4着、休養を挟んだ太秦Sで復帰後勝利を挙げ、一気の重賞初挑戦。管理する四位洋文調教師にとっても重賞初制覇がかかる一戦。遅れてきた大器が冬の頂上決戦に名乗りを挙げられるか注目が集まる。

差のない3番人気に若駒ハピ。古馬と初対決となる前走のシリウスSで2着に食い込んだ末脚、そして中央全レースで馬券外がないことも大きく評価されてかハギノアレグリアスと全く差のない3番人気に推されていた。

以下、ダート転向後1度も連対を外していないウィリアムバローズ、ハピと同じく3歳馬でありレパードSで2着に食い込んだタイセイドレフォンと、単勝オッズ1桁台が続いた。

レース概況

最内のサクラアリュール、2枠のオメガパフュームがやや遅れ気味のスタートを切った以外はほぼ揃ったスタート。アイオライトがいつも通り好スタートから先頭に立とうとするが、隣で好発進を見せたウィリアムバローズが並びかけ、アイオライトからハナを奪う。その後ろ、同じ勝負服を纏ったメイショウフンジンとメイショウドヒョウも気合をつけて前へ行き、スタンド前で4頭が先頭争いに。その後ろ、ハギノアレグリアスを前に置いてブリッツファング、ハピ、タイセイドレフォンと新進気鋭の有力馬たちが軒並み先行集団に固まって先頭を見る形でレースが進んだ。

その後ろからレースを進めるのが、古豪たち。この夏に頭角を表してきたヴァンヤール、2年前の覇者クリンチャー、夏の小倉で波乱を演出したヒストリーメイカーとサクラアリュール。さらに、昨秋に一躍ダート戦線で名乗りを上げたサンライズホープ、これが初めてのダート戦となるタガノディアマンテ、今村聖奈騎手との初コンビでの参戦となるアメリカンフェイスが続く。そして、15頭全てを前に置いて、スタートで若干立ち遅れた王者オメガパフュームは最後方からレースを進めていた。

やや縦長になった馬群が向正面に入ったところで、後方勢が動き始める。ヒストリーメイカーと小沢大仁騎手がポジションを押し上げ、それに追随してタイセイドレフォンもじわりじわりと前へ進出。後ろに構えていたサンライズホープと幸英明騎手も外から動き、サクラアリュールも手綱が動く。プロキオンSで穴を開けた2頭の進出、末脚の怖いタイセイドレフォン、そしてこの日はいつもと違う後方からのレースとなったサンライズホープの仕掛けに不気味さも漂う中、依然マイペースで最後方にオメガパフューム。59キロのトップハンデを背負いながら、静かに前を見つめていた。

縦長の馬群が一気に詰まり、4コーナーの勝負どころ。アイオライトは行き脚を無くし後退を始める。ここまで先頭を引っ張ってきたウィリアムバローズがコーナーワークの利でやや引き離すが、離されまいと後続が殺到。メイショウフンジンが食らいつくように再び脚を伸ばし、捲ってきたヒストリーメイカーもしぶとく伸びる。間から僅かな隙間を突いてハピも伸び、ここまで先団を進んできたハギノアレグリアスも突っ込んで、叩き合いは横いっぱいに広がり激化した。

しかしその集団の一番外、後方待機に徹して上がってきたオレンジの帽子、サンライズホープただ一頭の脚色が違う。ヒストリーメイカーを競り落として加速すると、仁川の上り坂手前で一気に前を飲み込むかに見えた。ライバルも、簡単には譲らない。完全復活を見せつけるべくハギノアレグリアスが喰らい付き、進路が開いたハピもこれまでのレース同様、懸命にその切れ味を活かして伸びる。

そして大外、最後の直線一本勝負に賭けたオメガパフュームがただ1頭、猛然と前の馬群を追い詰める。

残り100m、抜け出したサンライズホープに最内からハピ、真ん中を突いてハギノアレグリアス、大外オメガパフュームが忍び寄る。しかしオメガパフュームは流石にやや厳しく、内のハピも捉え切るにはやや脚色が物足りない。真ん中、ハギノアレグリアスだけがじわじわと、確実にその差を詰めていく。

残り50、30、20。交わすか、粘るか。

サンライズホープが、粘り通した。

昨秋のシリウスS以来となる重賞2勝目は、11番人気の低評価を吹き飛ばす、これまでとは全く違う競馬を見せての価値ある2勝目となった。

上位入線馬と注目馬短評

1着 サンライズホープ

昨秋のシリウスS制覇時、幸英明騎手に「ホッコータルマエ級の素質がある」と評価を受けていた同馬。
スタートの時に脚を滑らせ後方からの競馬となったが、結果的にこれが吉と出た。

「いつかはこの競馬をしてみたかった」と語る幸騎手。控えたことで闘争心が戻ったということは、寧ろまだまだ未知数な面が多いとも見て取れる。この後に控える大一番でも、今日のような競馬ができるなら台風の目になってくることは間違いないのではないだろうか。

2着 ハギノアレグリアス

屈腱炎を乗り越えて重賞初挑戦の同馬が堂々の2着。

福永騎手曰く「3コーナーの進路取りを間違えたのが痛かった」とのこと。勝馬との着差は僅かで、実力差はほぼないと言っていいだろう。

大きな怪我を乗り越えた同馬が、勲章を手にする日は近いか。

3着 オメガパフューム

ハンデ、実績、人気のどれもがトップだった同馬は3着。

最後方から大外を回したロスもありながらしっかり伸び、3着に食い込んだその実力はやはり疑いようなくダート界トップレベル。チャンピオンズCを選ぶか、不滅になるであろう東京大賞典4連覇を目指すのか…負けたとはいえ、次走がより一層楽しみになるレースだった。

総評

勝利したサンライズホープは、これまでほとんど前目でのレースを展開してきた馬。今回はスタートで脚を滑らせたことが逆に吉と出、これまでレースをやめていたとも言われていた同馬の闘争心にも火がついたと言うことだろう。優先出走権を得たチャンピオンズCに2度目の挑戦はあるかどうか。今回のように歯車が噛み合えば、一気のダート界制圧も見えてくる──そんな予兆が感じられるかのような雰囲気を醸し出していた。

敗れたオメガパフュームも、改めて実力を証明。
重賞で4コーナー最後方集団から一気に突っ込んで来られるのは、老いてますます盛んなところを見せてくれたことに違いない。年末の大一番でも期待せずにはいられないだろう。

かつて、同じ勝負服を纏ったサンライズバッカスがフェブラリーSを制してからはや15年…鞍上から自身が手綱を取った名馬と同等の評価を下されていた素質馬が、15年来の「サンライズ軍団」中央G1制覇に向けて確かな光を灯した──そんなみやこSだった。

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