[重賞回顧]歴史的名牝への通過点に過ぎないのか。再び豪脚を披露したリバティアイランドが2歳女王へ!~2022年・阪神ジュベナイルフィリーズ~

2016年の凱旋門賞といえば、JRAが初めて海外競馬の馬券を発売したレースだが、欧米やドバイのレースを中心に馬券が発売されるのも、今や当たり前となった。

これらの地域は日本との時差が大きく、国内のレースと発走時刻が重なることはないが、日本との時差が1~2時間しかない香港やオーストラリアは、いささか話が違ってくる。とりわけ香港ヴァーズとスプリントは、日本のレースもほぼ同時刻に発走(2022年は、香港スプリントが10分遅れで発走)するため、馬券を楽しむファンにとっては、1年で最も忙しい日といっても過言ではない。

そんな多忙な一日の国内におけるメインレースが、2歳女王を決める阪神ジュベナイルフィリーズ。かつては、ウオッカやブエナビスタ、アパパネなどが、このレースをきっかけに歴史的名牝へと上り詰めている。

2022年も、世代最初のGI馬、そして2歳女王の座を狙わんとする18頭が集結し、人気を集めたのは名門ノーザンファームが生産した4頭。その中で、リバティアイランドがやや抜けた1番人気に推された。

7月新潟のデビュー戦で、直千競馬以外では史上最速の上がり3ハロン31秒4という、破壊的な末脚を繰り出して勝利した本馬。続くアルテミスSは、直線に向いてしばらく前が塞がってしまい、差し遅れた結果2着に惜敗した。ただ、その内容からも力を出し切れなかったことは明らか。2歳女王に、最も近い存在とみられていた。

2番人気に推されたのがモリアーナ。新馬戦を上がり3ハロン33秒0の強烈な末脚で完勝し、前走のコスモス賞は4コーナー先頭から押し切って快勝。デビューから2戦2勝とした。エピファネイア産駒は、前年の勝ち馬サークルオブライフや、桜花賞馬デアリングタクトなど阪神芝1600mが得意。また、武藤善則調教師と雅騎手が親子タッグで臨むこともあり、人馬とも初GI制覇なるか注目が集まっていた。

わずかの差でこれに続いたのがウンブライル。全兄に18年のマイルCSを制したステルヴィオがいる良血で、こちらも新馬とオープン特別を連勝中。その2戦ともにノーステッキで楽勝しており、大物感たっぷりといった感じの内容で、無敗の女王戴冠が期待されていた。

そして4番人気となったのが、こちらもデビューから2連勝中のラヴェル。前走のアルテミスSは、出遅れながらも直線で強烈な末脚を発揮し、リバティアイランドの猛追も押さえ重賞タイトルを手にした。半姉は、21年の当レースで1番人気に推されながら4着に敗れたナミュール。姉の雪辱を果たした上でGI制覇なるか、注目が集まっていた。

レース概況

ゲートが開くと、8枠3頭が揃って出遅れ。一方、最内枠のサンティーテソーロが前走に続いてロケットスタートを切り、そのまま先手を取った。

2馬身差の2番手に、イティネラートル、モリアーナ、アロマデローサ、キタウイングの4頭が並び、リバーラとムーンプローブをはさんで、リバティアイランドとシンリョクカが中団8番手を併走。対して、出遅れたウンブライル、ラヴェル、ドゥーラの3頭は、無理に挽回することなく、そのまま後方に控えていた。

前半600m通過は33秒7で、同800mは45秒2のハイペース。先頭から最後方までは、およそ15馬身ほどで、縦長の隊列となった。

その後、3~4コーナー中間で、快調に逃げるサンティーテソーロに対し、イティネラートル、リバーラ、ムーンプローブがプレッシャーをかけはじめる。さらに、続く4コーナーで、キタウイング、アロマデローサ、シンリョクカの内枠からスタートした3頭がコーナリングで前との差を詰める中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、サンティーテソーロが逃げ込みを図って再び後続を突き放し、リードは2馬身に広がった。それ以外の先行勢が失速する中、馬場の中央から豪快に突き抜けたのがリバティアイランド。坂下で一気に先頭に立つと、そこからじわじわとリードを広げ始める。

焦点は、早くも2着争いとなり、内を上手く立ち回ったシンリョクカと粘るアロマデローサに、後方から末脚を伸ばしたドゥアイズが迫るも先頭との差は縮まらず、リバティアイランドが1着でゴールイン。2馬身半差の2着にシンリョクカが入り、クビ差3着にドゥアイズが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分33秒1。前走は力を出し切れなかったリバティアイランドが、今回は実にスムーズな競馬で完勝。初重賞制覇をGIの舞台で飾り、同時に2歳女王の座を手にした。

各馬短評

1着 リバティアイランド

道中はハイペースで飛ばす先行勢を前に見て、そこからおよそ7馬身差の中団に位置。前走とは対照的なスムーズな競馬で、直線難なく抜け出し完勝してみせた。

過去5年、当レースを制した馬のうち3頭は桜花賞でも連対。ただ、近年の桜花賞を勝利しているのは、3月のトライアルに出走しなかった馬たち。そのため、リバティアイランドも本番に直行すれば、好勝負はほぼ間違いないだろう。

2着 シンリョクカ

道中はリバティアイランドとともに中団に構え、勝負所で木幡初也騎手が内枠を活かしたスパート。直線も、内を上手く立ち回る最高の騎乗で2着を確保した。

当レースでキャリア1戦の馬が連対したのは、ジョワドヴィーヴル(1着)以来11年ぶり。母レイカーラは、14年のマイルCSを制したダノンシャークの半妹で、自身もオープンで行なわれていた頃のターコイズSを勝利している。

一方、父は新種牡馬のサトノダイヤモンド。キズナやミッキーアイルなど、ディープインパクトの後継種牡馬は、マイル以下で牝馬が度々激走している。

キャリア1戦だけに賞金加算できたことは非常に大きく、伸びしろも十分。こちらも本番に直行してきた際は、再び激走してもなんら不思議はない。

3着 ドゥアイズ

この馬も8枠3頭に次いでスタートが良くなく、道中は中団やや後方を追走。最後は、ハイペースに乗じて末脚を伸ばし3着に食い込んだ。

ルーラーシップ産駒らしく持久力に秀でたタイプ。今回は、初のマイル戦で好走したが、狙ってみたいのはオークス。スローの瞬発力勝負にならなければ、好走も十分可能ではないだろうか。

レース総評

前半800mが45秒2で、同後半は47秒9とかなりの前傾ラップ。この前半800m45秒2はレース史上最速のペースで、データが残っている86年以降の2歳GIに範囲を広げても、これを上回るのは、45秒1が計時された89、99年の朝日杯3歳S(現・朝日杯フューチュリティS)のみ。ただ、そんなハイペースであっても、先行勢はもちろんのこと後方待機組にも厳しく、中団から差してきた馬がほぼ上位を独占した。

ちなみに、勝ちタイムの1分33秒1はレース史上2位タイで、06年ウオッカ、20年ソダシと同じ。デビュー戦でその兆しはあったが、リバティアイランドが歴史に名を残す名牝に上り詰めても、なんらおかしくない。

一方、2、3着馬、特にシンリョクカは素晴らしいレースを見せたが、先行勢で唯一掲示板を確保したアロマデローサも上位の評価が必要。前走のファンタジーSは、直線で2度不利を受け競馬にならなかったが、この日はハイペースを先行集団で追走し、2着争いから遅れをとるも、僅差の4着と大いに見せ場を作った。

また、出遅れながら最後ものすごい末脚で6着に追込んだドゥーラも、次走の巻き返しに期待したい1頭。リバティアイランドと同じドゥラメンテ産駒で、母父キングヘイローは、昨年からGI馬や重賞ウイナーを続々と送り出している。

前走の札幌2歳Sも、今回3着のドゥアイズや牡馬相手に完勝。スタートを五分に出さえすれば、大舞台で好走できる実力は十分に兼ね備えている。

リバティアイランドに話を戻すと、類い希なる瞬発力は父ドゥラメンテから受け継いだものと思われるが、本馬はトライマイベストとエルグランセニョールの全兄弟クロス5×4を持っている。

一方、近年の歴史的名牝といえばアーモンドアイ。同馬も2代父がキングカメハメハで、トライマイベストとロッタレースの異父兄妹クロスを持つ。つまり、リバティアイランドとアーモンドアイの血統構成には共通点があり、そういった意味でも、同馬が歴史的名牝へと上り詰める可能性は十分にある。

またドゥラメンテ産駒は、ダートグレード競走を合わせると、今年これがGI6勝目となった。気の早い話にはなってしまうが、2022年のJRA賞は最優秀2歳牝馬をリバティアイランドが受賞することはほぼ確実で、最優秀3歳牝馬もスターズオンアースでほぼ間違いないところ。さらに、最優秀4歳牡馬もタイトルホルダーが最有力と、ドゥラメンテ産駒が多数タイトルを獲得しそうな状況にある。

産駒が大レースを勝つ度に、早逝が惜しまれる種牡馬ドゥラメンテ。2022年生まれがラストクロップで、初年度から数えてわずか5世代しかいないのは本当に残念だが、近い将来ディープインパクトをリーディングサイアーの座から引きずり下ろすのは、もしかするとドゥラメンテなのかもしれない。

写真:だしまき

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