[重賞回顧]出遅れも難なく挽回し、圧巻のパフォーマンスを披露!得意の小回りで躍動したエヒトが復活の重賞2勝目~2023年・小倉記念~

最大10連休となるお盆休みを、台風7号が直撃するのではないかと心配されている日本列島。そんな中、札幌、新潟、小倉と3週間ぶりの3場開催となった8月12、13日の中央競馬は滞りなくおこなわれ、日曜昼の札幌で降雨はあったものの、おおかた天候には恵まれた。

その3場で唯一開幕週となった小倉競馬のメインは、サマー2000シリーズ第3戦の小倉記念。前年同様16頭が出走し、4頭が単勝10倍を切る混戦模様で、牡・牝混合の中距離重賞にしては珍しく、そのうち3頭を牝馬が占めた。

その中で1番人気に推されたのは、前年覇者マリアエレーナ。母テンダリーヴォイスが、ダービー馬ワグネリアンの全姉という良血の本馬。格上挑戦で臨んだ2021年の新潟牝馬Sを快勝しオープンに昇級すると、以後は2000m前後の重賞で活躍。中でも、2022年の当レースを5馬身差で制した内容は圧巻だった。その後は勝利から遠ざかっているものの、GⅠで牡馬と混じって接戦を演じており、実績では頭一つ抜けた存在。レース史上2頭目の連覇と、騎乗する松山弘平騎手は3連覇が懸かっていた。

これに続いたのがゴールドエクリプスで、こちらは2年連続で二冠牝馬を送り出したドゥラメンテの産駒。まだ条件馬の身ではあるものの、前走のマーメイドSは勝ち馬から0秒6差4着と見せ場を作った。小倉は過去2戦2勝と相性が良く、ハンデも据え置きの51kg。恵(軽)量を味方に、得意舞台で一気の重賞制覇が期待されていた。

3番人気となったのがエヒト。2022年の七夕賞で初重賞制覇を飾った本馬は、3走前のGⅡアメリカジョッキークラブCでも2着と好走するなど、実績上位の一頭。連覇が懸かった前走の七夕賞は、休み明けの影響もあったか8着と敗れるも、叩き2戦目の上積みが期待される今回、リーディング首位の川田将雅騎手とともに、2つ目のタイトル獲得を狙っていた。

そして、4番人気に推されたのがククナで、こちらも母が桜花賞2着、オークス3着のクルミナルという良血。ククナもまた両レースで6、7着と健闘するも、その後は3勝クラスをなかなか脱出できないでいた。それでも、3走前の早春Sを勝利すると、久々の重賞挑戦となった前走の七夕賞でも2着と好走。賞金加算に成功し、念願の重賞初制覇なるか注目を集めていた。

レース概況

ゲートが開くと、僅かにエヒトが出遅れ。ダッシュがつかなかったアップデートも、後方からの競馬を余儀なくされた。

一方、前はテーオーシリウスがハナを切り、2番手にレヴェッツァがつけて、2馬身差の3番手にマリアエレーナ。その後ろの中団には、早くも出遅れを挽回したエヒトを筆頭に7頭が固まり、ククナもこの中にいた。

さらに、そこから1馬身半離れた中団後ろにゴールドエクリプスなど3頭が横一線。以下、カテドラル、アップデートを挟み、カレンルシェルブルが最後方からレースを進めていた。

前半1000m通過は58秒7の平均ペース。前から後ろまではおよそ12馬身の差で、16頭立てのレースにしては、さほど縦長の隊列にはならなかった。

その後、3コーナーに差しかかると、軽快に逃げるテーオーシリウスに対し、レヴェッツァとマリアエレーナの手綱が早くも動き始める。さらに、続く4コーナーでエヒトもスパートし、後方にいたエニシノウタやカテドラルも外を回って差を詰める中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、再びテーオーシリウスが差を広げ、リードは1馬身半。追ってきたのはエヒトとマリアエレーナで、とりわけエヒトの末脚が際立ち、残り150mで先頭に躍り出ると徐々に差を広げ始める。

焦点は2着争いになると思われたが、ここからマリアエレーナは伸びを欠き、テーオーシリウスの2着も確定的に。さらに、マリアエレーナを捕らえたゴールドエクリプスが3番手に上がるも、そんな後続の争いを尻目に楽々とセーフティリードを築いていたエヒトが1着でゴールイン。逃げ粘ったテーオーシリウスが2馬身1/2差で2着を確保し、1馬身差でゴールドエクリプスが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分57秒8。出遅れをものともしなかったエヒトが復活の重賞2勝目をあげ、管理する森秀行調教師は区切りのJRA重賞50勝目となった。

各馬短評

1着 エヒト

僅かに出遅れるも、両隣のテーオーシリウスとマリアエレーナが先行。その進路をなぞるようにスムーズに挽回すると、1コーナーでは早くも4番手のインを確保した。

結果的にこれが勝負の分かれ目となったが、その後も淀みない流れで、持久力に秀でたルーラーシップ産駒お得意の展開。直線半ばで抜け出すと、最後は2着に2馬身1/2差をつける完勝だった。

前走はやや崩れたものの、小回りや内回りコースはやはり得意。6歳とベテランの域に入っているが、福島記念や中山金杯など、小回り2000mの重賞ではまだまだ出番がありそう。

父ルーラーシップ×母父ディープインパクトは成功パターンで、エヒト以外にも、キセキとビッグリボン兄妹。朝日杯フューチュリティSを制したドルチェモア。2021年の青葉賞を勝ったワンダフルタウンなど、重賞ウイナーを多数輩出している。

2着 テーオーシリウス

前走の函館記念は14番人気16着だったにも関わらず、コース相性が評価されたか、5番人気に推されたことは驚きだった。しかし、その評価どおり巻き返して楽々と2着を確保。好枠を引いたことも大きく、振り幅が大きいのはいかにも逃げ馬らしいが、前走を除けば、3、4、1着と近走は安定している。

この馬もまたローカル小回り向きで、逃げたときは実にしぶとい。今後も内枠を引くか、逃げ・先行馬が少ないメンバー構成であれば、再びの好走があってもなんら不思議ではない。

3着 ゴールドエクリプス

4コーナーを5番手以内で回った馬が上位を占める中、本馬と5着カレンルシェルブルが、後方から差を詰め好走。3、4コーナーもスムーズに回ってきたが、やはり道中の位置取りの差が大きく影響した。

あと僅かのところで賞金加算は叶わず、いまだ条件馬の身。それでも前走からまた一つ着順を上げ、牡馬に混じっても重賞で好勝負できることを証明した。

トータルでは、牡・せん馬が牝馬の成績を上回っているドゥラメンテ産駒。ただ、芝の重賞に限れば3着内率は圧倒的に牝馬のほうが高く、2023年8月6日時点で、牡・せん馬20.2%に対して、牝馬は38.2%と素晴らしい成績。現1歳がラストクロップで、産駒が段々と減っていくのは本当に惜しいが、むこう何年か繁殖牝馬は増加するため、母父ドゥラメンテが日本競馬を席巻する日はそう遠くないのかもしれない。

レース総評

前半1000mが58秒7で、同後半が59秒1のイーブンペース=勝ちタイムは1分57秒8。2ハロン目の10秒7が最速で、あとは、最初の1ハロン目を除けば、11秒台から最も遅かった4、5ハロン目でも12秒1。小回りのローカル重賞らしく淀みなく流れ、持久力勝負となった。

1着エヒトは、これが重賞2勝目。違うコースでおこなわれた異なるレースのため、単なる偶然に過ぎないかもしれないが、前回勝利した2022年の七夕賞は、1000m通過が58秒5-同後半59秒3と似たようなペースで、勝ちタイムは今回と同じ1分57秒8。さらに、2着につけた2馬身1/2差も同じだった。

一方、前走の七夕賞はデキも今ひとつだったよう。さらに、前半1000m通過が1分0秒7と遅く、持ち味を発揮できず敗れたが、今回のような淀みない流れになれば、出遅れをものともしないほどの強さを発揮する。

一方、管理する森秀行調教師は、これが区切りのJRA重賞50勝目。今回、騎乗した川田騎手も、2008年の皐月賞で同師が管理したキャプテントゥーレに騎乗し、GⅠ初制覇を成し遂げている。

その勝利をはじめ、過去にはジャパンCを制したレガシーワールドや、二冠牡馬エアシャカールなどを管理し、中距離GⅠを複数勝利した森調教師。近年は、短距離戦で勝ち星を量産しており、得意コースを着別度数で並べると、上位の大半は1400m以下のレースである。

また、森調教師といえば、日本調教馬として36年ぶりの海外重賞制覇となったフジヤマケンザンの香港国際Cを皮切りに、シーキングザパールで日本調教馬史上初めて海外のGⅠを勝利。近年でも、サウジダービーをフルフラットとピンクカメハメハで連覇するなど、使えるレースがあれば、積極的に管理馬を出走させるのが特徴。海外や地方交流競走はもとより、JRAで少頭数のレースがあれば、格上挑戦であっても果敢に出走させている。

そんな中で、筆者の記憶に残っているのが2020年のチャレンジC。このレースを勝ったのは、次走のGⅠ大阪杯を圧勝するレイパパレだが、森調教師は、11頭立てのこのレースに条件馬を2頭出走させた。そのうちの1頭こそが、当時3歳でまだ1勝馬だったエヒトである(もう1頭は、当時4歳で2勝馬のセントウル。結果は7着)。

結果だけ見れば9着と敗れたものの、後のGI馬や重賞ウイナーに揉まれたことが浮上のきっかけとなったか、1勝クラスでも苦戦していたエヒトは、ここから僅か1年でオープンに昇級。今や重賞を2勝するまでに成長し、サマー2000シリーズのチャンピオンに手の届くところまでやってきている。

とにかく馬主が楽しめ、1円でも多く賞金を獲得する。そんなレース選択をおこなうイメージのある森調教師は、定年まで7年弱。大台のJRA通算1000勝まであと214勝という数字は決して低くないが、チャレンジ精神旺盛な森調教師であれば、この大偉業も成し遂げるのではないだろうか。

写真:@ryo_photo0215

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