[重賞回顧]実りの秋を予感させる完勝劇 並み居る強豪を圧倒したプログノーシスが、驚愕の重賞2勝目~2023年・札幌記念~

毎年のように豪華メンバーが集結する「真夏の大一番」札幌記念。出走したGⅠウイナーの数だけでいえば2022年の5頭に及ばないものの、ダービー馬や国際GⅠ優勝馬。さらには、この距離のスペシャリストで、2走前に待望のGⅠ勝利を成し遂げた前年覇者が一堂に会し、最大で10連休となったお盆休みのフィナーレを飾るに相応しい一戦となった。

そんな豪華メンバーの中で、単勝オッズ10倍を切ったのは5頭。その中で、ジャックドールがやや抜けた1番人気に推された。

2000mのレースにデビューから14戦連続出走したこの距離のスペシャリストで、前年の覇者でもある本馬。続く天皇賞(秋)と香港Cは4、7着に敗れるも、今季初戦の大阪杯で念願のGⅠ制覇を成し遂げた。前走の安田記念は、生涯初のマイル戦で5着と敗戦。ただ、東京のGⅠらしく瞬発力勝負となり、持ち味を発揮できない展開での5着は大健闘といえる内容。今回は得意の2000mで、レース史上4頭目の連覇なるか注目を集めていた。

これに続いたのがプログノーシスで、この馬が注目されるきっかけとなったのは、デビュー2戦目の毎日杯。後にダービーも勝利するシャフリヤールや、同4着のグレートマジシャンと僅か0秒3差3着の接戦を演じてからだった。その後は度々休養を挟みながらも、2走前の金鯱賞で重賞初制覇。さらに、前走の香港・クイーンエリザベス2世Cでも2着と好走しており、過去5戦5勝と相性の良い川田将雅騎手に手綱が戻る今回、2つ目のタイトル獲得が期待されていた。

僅かの差で3番人気となったのがダノンベルーガ。勝利から1年半見放されているものの、度々GⅠで好走しており、天皇賞(秋)3着や、ドバイターフ2着の実績がある。GⅠタイトルを手にしていないとはいえ実績上位の存在であることは間違いなく、モレイラ騎手を鞍上に迎えた今回は必勝態勢。久々の重賞2勝目と、秋への飛躍を誓う一戦だった。

以下、2戦2勝と得意舞台で復活を期すソーヴァリアント。2021年のダービー馬シャフリヤールの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートから飛び出したのは、二の脚が早かったジャックドール。しかし、大外枠からユニコーンライオンが強引にハナを奪うと、これを追うようにアフリカンゴールドが2番手。さらに、ウインマリリンが3番手につけ、1コーナーへと進入した。

そこから4馬身差でジャックドールが続き、5番手は内からトップナイフ、シャフリヤール、ヤマニンサルバムと3頭が横一線。そこへプログノーシスが加わってさらにポジションを上げ、中団後ろにはソーヴァリアントなど5頭が一団。そして、序盤いきっぷりが良くなかったダノンベルーガは、鞍上が手綱を押してこの集団に加わり、ラーグルフ、ヒシイグアスをはさんで、イズジョーノキセキが最後方に控えていた。

前半1000mは1分0秒4の平均ペース。先頭から最後方まではおよそ20馬身とかなり縦長の隊列になり、レースは勝負所の3、4コーナー中間へ突入。

ここで早くもユニコーンライオンとアフリカンゴールドが苦しくなり、内ラチ沿いぴったりを回ったトップナイフが先頭に躍り出る。2番手には、さらに楽な手応えでプログノーシスが上がり、その後ろでは、ウインマリリンを挟んでダノンベルーガ、ソーヴァリアント、ジャックドールの4頭が横並びとなって前との差を懸命に詰めようとする中、最後の直線勝負を迎えた。

直線に向くと、馬場の内目にこだわって逃げ込みを図るトップナイフに対し、真ん中を通ったプログノーシスが末脚を伸ばして、残り200mで先頭。そこから徐々にリードを広げ始める。

一方、トップナイフと後続との差も3馬身ほどあったため3着争いが焦点となり、プログノーシスと同じく馬場の中央を通ったソーヴァリアントが3番手に上がるも、その遙か前でリードを大きく広げていたプログノーシスが1着でゴールイン。4馬身差2着にトップナイフが続き、さらにそこから3馬身差の3着にソーヴァリアントが入った。

稍重馬場の勝ちタイムは2分1秒5。並み居る強豪相手に完勝したプログノーシスが2つ目のタイトルを獲得。GⅠ初制覇をくっきりと視界に捉える驚愕のパフォーマンスで、実りの秋に向けこれ以上ない勝利を飾った。

各馬短評

1着 プログノーシス

中間点付近から徐々にポジションを上げ、直線入口では2番手まで進出。その後、直線半ばで先頭に立つと徐々にリードを広げ、終わってみれば4馬身差の圧勝だった。

ライバルが軒並み悪化した馬場に苦しむ中、中間点までは内目を徐々に進出。4コーナーで外を回った点は異なるものの、先団に取り付く様は、2012年の皐月賞を勝利したゴールドシップと少し重なる部分があった。

GⅠ未勝利とはいえ、2000mでは現役トップクラスの実力があることを証明。今回の着差をそのまま鵜呑みにはできないが、一戦一戦、大事に使われてきたことが確実に実を結んでいる。また、対戦する機会があるのかは分からないが、世界王者イクイノックスとの対決も楽しみになった。

2着 トップナイフ

前走のダービーは大敗を喫したものの、上がりのかかる持久力勝負、パワー勝負で能力全開。4コーナーを回ったところではあわやの場面もあり、勝ち馬には決定的な差をつけられたが、自身も3着を3馬身引き離し、楽々と2着を確保した。

出走馬中、札幌芝2000mで勝利実績があったのは、本馬とソーヴァリアント、ジャックドールの3頭のみ。今後も、ローカルや小回りの2000m前後のレースで、度々好走する機会があるのではないだろうか。

3着 ソーヴァリアント

近2走は大きな着順を拾っていたものの、復調を感じさせる走り。当コースは過去2戦2勝と得意舞台で、上位2頭には差をつけられてしまったが、ダノンベルーガやヒシイグアス、ジャックドールなどの実力馬には先着してみせた。

過去の内容を見ても、一級品の能力を持っていることは明らか。ただ、これまで度々アクシデントに見舞われており、とにかく無事レースに臨めるかが課題となる。

レース総評

前半1000m通過は1分0秒4。同後半1分1秒1とほぼイーブンペースで、勝ちタイムは2分1秒5。稍重発表の馬場は見た目よりも悪そうで、実際は重に近い状態だったのではないだろうか。

そんな中、大半のジョッキーは馬場の外目を通ることを選択したが、1、2着馬は、1コーナーから向正面に到達するまで内目を通った。とりわけ、トップナイフに騎乗した横山和生騎手は、終始、内ラチ沿いを進んで体力を温存。重い馬場も苦にすることなく余力を持って直線に向き、勝ち馬には差をつけられたものの、自身も3着以下を大きく引き離した。

一方、勝ったプログノーシスが最初に注目を集めたのは、デビュー2戦目の毎日杯だろう。この時の勝ち時計1分43秒9は日本レコードタイという驚愕のタイムで、この後ダービーも連勝するシャフリヤールにキレ負けしたものの、0秒3差3着と好走。残念ながら、クラシック出走は叶わなかったが、2年ぶりの再戦となった今回は大きく先着。見事に雪辱を果たした。

血統を見ると、父はディープインパクトであるのに対して、母父オブザーヴァトリーはあまり耳にしない種牡馬。しかし、母父オブザーヴァトリーで、JRAのレースに出走実績がある馬は5頭おり、そのうち4頭はプログノーシスを含む母ヴェルダの産駒。残り1頭は、重賞で度々好走したサトノセシル(父フランケル)である。

また、プログノーシスの半弟オルドヴァイ(父オルフェーヴル)が現2歳でデビューを控えている他、キングマン産駒の外国産馬アウェイキングもスタンバイ。過去5頭と少ない中でも、そのうち2頭が重賞で連対しており、母父としてのオブザーヴァトリーが日本競馬にマッチしているのは間違いなく、これら2頭の活躍にも期待したい。

プログノーシスに話を戻すと、今回はゲートがいつも以上にうるさかったとのこと。レース後、川田騎手の口ぶりから他にも課題はありそうだが、これがキャリア10戦目のプログノーシスに実りの秋が訪れそうな予感は十分。

明確に発表されていないものの、もし次走が天皇賞(秋)だとすれば、ドウデュースやスターズオンアースらも既に参戦を表明しており、素晴らしいメンバー構成になりそう。それでも、現在のプログノーシスであればもちろん好勝負は可能で、社台ファーム復活のさらなる象徴としても注目していきたい。

一方、敗れた組は軒並み悪化した馬場に苦しんだ格好。中でも、1番人気ジャックドールは、馬場に加え、4番手に控える形が良い方向に出なかったようにみえた。ただ、目標とする天皇賞(秋)は瞬発力勝負になりやすく、この馬にはあまり合わない印象。そう考えると、2022年のレースではスタートが決まらず7着に敗れたものの、12月の香港Cこそが真の実力を発揮できそうな舞台に思える。

また、11着と生涯初の大敗を喫したシャフリヤールも馬場に泣かされた印象だが、レース後の検査で喉頭蓋エントラップメントが判明。手術を受ける予定とのことで、無事、戦列に復帰してくれることを願いたい。

写真:@gomashiophoto

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