フリオーソと川崎記念〜5度の挑戦〜

働き方改革が叫ばれる昨今、年末年始は10日以上の連休の方もいらっしゃったとか。
そんなご時世にあってなお、競馬にお正月休みはありません!なんと元日から、地方競馬(帯広・川崎・名古屋・高知)は開催されています。
2018年は「競馬が、濃い。地方競馬」というキャッチコピーでした。その言葉そのままに、多くの熱戦が繰り広げられていました。

おせちもいいけどモツ煮込みもね!
三社参りもいいけど鉄火場参りもね!

軽いノリのエンジョイ勢もいれば、今年の運試しに大枚を賭ける猛者もいたでしょう。
そんな様々な境遇のファンを、真冬の極寒の空の下、勤勉なお馬さん達が出迎えました。冬はダート競馬が非常に盛んなシーズンです。地方競馬場の未勝利レースから、大観衆の歓声が鳴り響く重賞レースまで、とても多くのレースが開催されます。
白い息をはき、はつらつと駆けていく競走馬を見て、寒さに肩を竦めたファンは勇気づけられるのです。


1月31日、2018年最初のG1級競走・川崎記念が開催される川崎競馬場も、前述のとおり元日からファンを楽しませてくれた競馬場のひとつ。

公式ゆるキャラ「カツマルくん」のTwitter・facebookに目を通せば、川崎記念の前日には中央・地方のリーディングジョッキー14名が腕を競う「第16回佐々木竹見カップジョッキーズグランプリ」の告知がされていたりと、新年から川崎競馬も「濃い」熱戦を魅せてくれそうです。
前日の佐々木竹見カップを経て、翌日の川崎記念へ……ファンのボルテージもきっとうなぎ登りになるでしょう。

こういった主催者の力の入れようからも、川崎記念がいかに全国的にも注目を集めるレースかが分かりますね。そうした盛り上がるレースである川崎記念を1年の始動と定め、快進撃の狼煙を上げた実力馬も数多いのです。

今回は5年連続で川崎記念に出走し、ここでの好走を土台に飛躍を重ねた馬・フリオーソを取り上げたいと思います。


フリオーソは2004年、父のブライアンズタイム、母で米国産のファーザとの間に生まれました。

ブライアンズタイムと言えば、自身も米国G1で2勝し、種牡馬としてもナリタブライアンやファレノプシス、タイムパラドックスなど芝ダート共に多くのG1勝ち馬を輩出した名種牡馬です。
また母は不出走ながら、フランスの重賞で活躍した祖母の血を引き、フリオーソがかなりの良血馬であったことは多くのファンの知るところです。

その後船橋競馬場に所属した同馬は、2006年7月にデビュー戦を勝利します。
鞍上に名手石崎隆之を配したことからも周囲の期待の高さが伺え、フリオーソはそれに応えるように9月のナドアルシバRCでも他を圧勝を飾りました。続く平和賞では圧倒的な1番人気ながら惜しくも2着に敗れましたが、着差もハナ差で悲観するほどではなく、案の定、年末のG1全日本2歳優駿では5番人気の評価を覆す勝利を挙げたのです。

翌年、3歳の始動は芝の共同通信杯に決定。
クラシックの登竜門を始動に選んだのは、川島調教師の希望からでした。
血統的背景から芝レースの挑戦に期待が集まりましたが、結果は7着と奮いませんでした。フサイチホウオーなどの実力馬と競うものの、力及ばず、続くスプリングSでも11着と大敗。
やはりフリオーソはダートでこそ、と周囲も認識をします。
だからこそ南関東三冠競走では勝利を……と挑んだ羽田盃・東京ダービーでしたが、1番人気に推されながらここでも惜敗してしまいます。
3歳になってからというもの、未だ勝利は無し。
もどかしいレースが続くなか、フリオーソはジャパンダートダービーに出走し、上半期の3歳ダートチャンピオン決定戦を見事優勝。フリオーソの名は歴代の優勝馬、ゴールドアリュールやカネヒキリと並び、競馬史に記録されました。

上半期を最高の形で締めくくり、意気揚々と下半期を迎えたフリオーソは、JBCクラシックに出走し、初の古馬との戦いながらも2着入線。
優勝馬が当時無類の強さを誇ったヴァーリミアンですし、3歳馬ながら良く粘った大健闘と言える内容でした。実際、陣営も手ごたえを感じていたのでしょう。
次戦も一線級の古馬が揃う、ジャパンカップダートに決まりました。しかし中央競馬場でのレースはスプリングS以来、しかもダートは初めてのこと。結果、10着に敗れ、再度ヴァーミリアンの強さを目の当たりにします。

しかしフリオーソ陣営は怯みませんでした。年末の大一番、東京大賞典に出走したフリオーソはやはりヴァーミリアンには4馬身差をつけられますが、着順こそ2着と纏め、手堅く2007年を締めくくったのでした。

年が明け2008年。フリオーソも古馬となり、いよいよ競走馬として脂の乗る時期を迎えます。そこで陣営が初戦に定めたのは川崎記念でした。
ここからフリオーソと川崎記念の並々ならぬ縁が結ばれたのです。

以降5年もの間、フリオーソにとって川崎記念は1年を占う重要なレースとなりました。

2008年  川崎記念  2着

1月30日開催。
馬場は稍重。
2番人気に推されたフリオーソはスタートを決めるとそのままハナに立ちレースを引っ張ります。
そして早いうちから、東京ダービーやジャパンダートダービーでしのぎを削った地方馬の宿敵・アンパサンドがぴったりマークする展開に。まさにライバル同士で意識しあったレース展開に。
ですが、本当の敵はその後ろでじっとしていたフィールドルージュでした。
3コーナーでフリオーソの外に並びかけたフィールドルージュは、粘るフリオーソを残り200mで交わし、そのまま差を広げ初のJpn1競走優勝を果たしたのです。


最後は離された2着となりましたが、終始馬体を併せるようにマークされながらもレースを引っ張り粘り残ったあたり、フリオーソの底力が光ったレースでした。
そして、その底力が生かされたのが次走以降のダイオライト記念や帝王賞です。なかでも帝王賞では、川崎記念同様好スタートから先頭に立つと、前走からコンビを組むようになった戸崎圭太騎手を背に1着でゴールイン。
ボンネビルレコードらを抑えG1級競走での3勝目を上げたのです。

下半期もこのまま上昇曲線を描くかと思われましたが、秋緒戦の日本TV盃は戸崎騎手の怪我というアクシデントにも見舞われ(2着)、その後も、JBCクラシック(4着)、ジャパンカップダート(7着)、東京大賞典(5着)と力を十分に発揮できないまま2008年の幕を閉じました。

2009年  川崎記念  2着

1月28日開催。
馬場は稍重。
3番人気となったフリオーソはスタートも良くハナに立ちますが、カネヒキリ・サクセスブロッケンのJRA勢からすぐにマークされ、レースは有力馬が前に固まる展開に。
フリオーソがやはり楽に逃がして貰えるはずもなく、カネヒキリが早めに動きます。

ところが良く折り合ったフリオーソは鞍上ともども落ち着いてレースを進めており、手ごたえも抜群。戸崎騎手は手綱を持ったまま4コーナーを回ります。直線は2頭のマッチレースと化し、フリオーソはカネヒキリを相手に良く粘りますがゴール前で交わされ2着入線。

カネヒキリは昨年から引き続いてG1級競走で3連続勝利となりました。


結果こそ敗れましたが、ジャパンカップダートと東京大賞典を制したカネヒキリと互角に渡り合ったことから、フリオーソの実力がさらについていることは確かでした。

実際、次走に選ばれたダイオライト記念を連覇し、かしわ記念は5着だっあものの、6月の帝王賞ではヴァーリミアンの2着と堅実な走りをみせます。

2009年後半は脚部不安もありレースをたびたび回避しましたが、今思えばこの頃に無理をしなかったことが、翌年の躍進に繋がったのかもしれません。

2010年  川崎記念  2着

1月27日開催。
馬場は良。
フリオーソは昨年と同じ3番人気に推されました。ゲートをポンと飛び出したフリオーソは、予想通り先頭に立ちますが、同じく好スタートを決めたヴァーミリアンに1馬身後ろに付かれ、虎視眈々と狙われる苦しい展開に。4コーナー手前で、絶好の手応えのヴァーミリアンに並びかけられます。
一方、フリオーソは鞍上が盛んにおっつける具合で、手応えは決して良く見えません。

このままでは直線でヴァーミリアンに交わされ、そのまま突き放されてしまうのではないか……不安がファンの胸を過りましたが、まったくの杞憂でした。

フリオーソはさっきまでの動きが嘘のように、直線で驚異の粘り腰を見せたのです。
火花を散らす併せ馬で競馬場を沸かせ、あわや帝王賞の雪辱なるかと思われましたが、ゴール僅か手前でヴァーミリアンが先頭に立ち優勝。さすがの実力馬がしっかりと強さを見せ、その戦歴に栄誉をまた一つ加えたのでした。


この年のフリオーソは何といっても「しぶとい」。
その一言に尽きました。最後まで目の離せないレースぶりは、この馬の充実具合の証かと思います。
次走のダイオライト記念は残念ながら3連覇とならず、かしわ記念はエスポワールシチーの2着に終わります。

しかし、2010年のフリオーソの真骨頂は、帝王賞にこそありました。
道中は先行し、直線に入ると先頭に躍り出ます。そしてそのまま、ヴァーミリアン・カネヒキリ・スマートファルコンといったそうそうたるメンバーを突き放し快勝。
着順が堅実である反面、じれったい敗けも見てきたファンには胸のすく、最高の瞬間でした。

さらに、これまでは調子を崩すことの多かった下半期も好調に走り続け、終わってみれば日本TV盃(1着)・JBCクラシック(2着)・東京大賞典(2着)と安定した強さを発揮したのです。

2011年  川崎記念  1着

1月26日開催。
馬場は良。
1.0倍の圧倒的1番人気。この年の川崎記念はスマートファルコンなどのJRA勢の回避、またテスタマッタの出走取消が決まり、実力・実績ともに抜きんでたフリオーソが注目を集めることになりました。
スタートが切られると、さっそく出走各馬を引き連れ先頭に立ったフリオーソは、2番手を2馬身ほど離しつつレースを進めます。今まで多くの強豪馬たちにマークされ続けてきたことと比べると、ずいぶん楽な展開に。
馬にも余裕があるのか、鞍上の手綱もがっちり握られています。
レースに大きな動きがあったのは3コーナー付近から。グイグイと後方から押し上げてきたボランタスがフリオーソのすぐ後ろに迫ります。

ところが残り400mに差し掛かり戸崎騎手が満を持して追い出すと、4コーナーを回り直線に入るころには後続を突き放し始めます。実況の「らくらくゴールイン!」の声と共に力の違いを見せつける圧勝を飾ったのです。


苦節4年目、ついにフリオーソは川崎記念を制し、G1級競走での5勝目を上げました。
確かに今までと比べれば相手は楽ではありましたが、それでも、きっちり力を示して5馬身差の圧勝とは恐れ入ります。
7歳馬らしからぬ若々しさと歴戦で鍛えれられた貫禄と、相反する要素がバランス良くフリオーソに内包され、2011年も輪をかけて円熟したレースが見れるものと期待が高まりました。

そして翌月、フェブラリーステークスで、さっそくフリオーソは魅せてくれました。しかもこれまで苦手の感があった東京競馬場で、後方からの直線一気というレースぶりでの2着。
メンバーであがり最速の鋭い差し脚に、驚いたファンも多かったのではないでしょうか。
次走かしわ記念も快勝し、フリオーソはアジュディミツオーの記録を超えてG1級競走の6勝目を上げます。

このまま快進撃といきたいところでしたが、その後脚部不安から帝王賞を回避し、また体調不良もあって2011年は以降不出走となりました。

2012年  川崎記念  3着

1月25日開催。
馬場は不良。
フリオーソは2番人気でした。かつて戦ったヴァーミリアンやカネヒキリも引退し、その頃のダート界の主役はスマートファルコンやエスポワールシチーといった面々へ代替わりしていました。

そんな中、フリオーソの復帰戦をファンは待ち望み、また注視していました。レースは逃げるスマートファルコン、2番手追走にフリオーソ、という展開に。
やはり休養明けで動きがいつもと異なっていたのか、向こう正面ですでに戸崎騎手の手が動きます。
なんとかスマートファルコンに詰め寄ろうと追いかけますが、追い付くかと思うとまた離される、その繰り返しでした。

一方、スマートファルコンは素晴らしい加速で後続を突き放し、2着のランフォルセに4馬身差をつけ圧勝。G1級競走6勝を含むダート重賞10連勝という快挙を成し遂げ、新王者の貫禄を示したのです。


復帰戦であることや8歳という年齢もあり、仕方のない要素は多くありましたが、それでもこれまでと比べて精彩の欠くレースだったことは否めません。
4コーナーの時点で後ろから来たランフォルセにも交わされ、着順こそ3着と纏めましたが、スマートファルコンからは8馬身の大差をつけられる完敗でした。
長い休養から調子を戻すのは大変なことです。
常に最前線で戦ってきたフリオーソにも引退が近づいてきたことを感じずにはいられない……そんな一戦でした。

川崎記念後、フリオーソはお馴染みのローテーションを2012年も歩みます。ダイオライト記念は5着、かしわ記念では好スタートから先頭に立ちますが、直線でエスポワールシチーに交わされ2着という結果に。
しかし持ち味の粘りで2着を確保するあたり、健在ぶりをアピールしてくれました。

その後半年以上の長期休養を挟み、フリオーソは東京大賞典に出走。逃げの戦法でフリオーソらしさを見せましたが、結果は6着に終わり、このレースをもって引退となったのでした。


通算成績は39戦11勝。
獲得賞金8億4500万円はアブクマポーロを抜いて地方所属馬1位。
さらにG1級競走における連対数17回、2着11回は日本記録という、素晴らしい成績でした。

振り返れば、長い間現役を続けファンを楽しませてくれた点、また数々の記録が示す実績の点からも、フリオーソがいかに地方競馬を支えた名馬であったかは歴然です。それはNARでの度重なるから表彰(NARグランプリ年度代表馬4回・NARグランプリ7年連続表彰)が示す通りです。

これだけの馬でもなかなか勝てなかった川崎記念。
名馬が何度も挑むだけの価値がある、大変重みのあるレースです。
長い歴史のなかで変遷を経て、多くの名勝負を世に送り出してきました。

現在は年末の東京大賞典と並ぶ年始のチャンピオンレースであるとともに、JRAのフェブラリーステークス同様、ドバイワールドカップの出走馬選定レースとして位置づけられています。
そのため、各馬十分に仕上げて参戦することが多く、1番人気がしっかり力を出し馬券圏内に入着する、非常に固いレースとしても有名です。いよいよ間近に迫った川崎記念。
実力馬が多数出走する川崎記念は厳しいレースです。ここで幾度も脚を鍛えられたフリオーソは、この名物レースに育てられた名馬の1頭、と言えるでしょう。

しんしんと冷え込むこの時期、コタツに入りながらの馬券検討もおつなものです。寒さを忘れる熱戦を期待しつつ、レースを楽しみに予想に励みたいと思います。

写真:がんぐろちゃん

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