エーシントップ~他を圧倒するスピードを持つ、隠れた"二刀流"馬~

一度あることは二度ある、二度あることは三度ある。

「中山のニュージーランドトロフィー勝ち馬は、NHKマイルカップを勝つことはできない」

そんなジンクスを打ち破ったのは、1番人気の支持に応えた無敗馬カレンブラックヒルであった。

その1年後、NHKマイルCで最も多くのファンを集めたのは、またもニュージーランドトロフィー勝ち馬、この時点で重賞3勝馬のエーシントップであった。

あれだけ、ファンが警戒していたニュージーランドトロフィー勝ち馬を、2年連続1番人気に押し上げるという、これまでにない「異常事態」であった。


阪神の新馬戦、中京2歳ステークスと1倍台、1番人気に応えて連勝。重賞初挑戦となった京王杯2歳ステークスでは、ラブリーデイを下してレコードタイムで制する。
スタート後すぐにハナもしくは好位につけて、押し切るという危なげないレース運び。
1400メートルでは、他と完成度という面で追随を許さない。520kgを超えるパワフルな馬体はターフを踊っていた。

距離を延長してマイルの距離に挑む大一番、朝日杯フューチュリティステークス。
重賞2連勝、無敗のコディーノが圧倒的1番人気。その対抗格として2番人気に支持される。
好位の内側で待機し、直線で抜け出しを図るも、そこで一杯となり馬群に沈む。
ロゴタイプとコディーノの競り合いには置いていかれて8着敗退、初めて土がついてしまった。

──マイルは長いのか。
そんな声も聞こえた。しかし、休みを挟まず、シンザン記念へ。
前走大敗したにもかかわらず、ファンは1番人気に支持した。それに応えるようにスムーズにハナを奪うと、好位から追うタマモベストプレイなどを振り切る。復活の勝利だった。

この時点で重賞2勝馬、積み上げた賞金でNHKマイルカップ、ダービーのゲートにだって収まることができる。
しかし、トライアル・ニュージーランドトロフィーを走ることとなる。

ニュージランドトロフィーでの快勝

その年のニュージランドトロフィーは、雨の中で行われた。
朝日杯FSで先着された、共同通信杯2着のゴットフリートに1番人気を譲り、2番人気に甘んじる。以下3番人気に、アーリントンカップ3着のレッドアリオン、4番人気にスプリングステークス3着のマイネルホウオウなどが顔を揃えた。

敗退した朝日杯と同じ舞台、中山外回り1600メートル。
前走逃げ、初めて勝利したマイルという距離。鞍上は浜中騎手から内田騎手に乗り替わっていた。

好スタートから、内田騎手が選んだのは控える競馬。先行の3、4番手につける。
最終コーナーにて、2番手につけていたストーミングスターとともに先頭に並びかける。
後方では、外を回したマイネルホウオウやゴットフリートなどが伸びあぐねていた。

ストーミングスターとの競り合いに、内からレッドアリオンが参入して3頭の叩き合い。
1,2着クビ差2,3着ハナ差の激戦は、エーシントップに軍配が上がった。

テン乗りの内田騎手でも良し、前回初めて負けた中山マイルの舞台でも良し、逃げでも好位でも良し。
最高の状態で本番を迎えるのだった。

大波乱が巻き起こった"本番"の一戦

3歳マイル王決定戦・NHKマイルカップ。
「マル外ダービー」は完全に死語となった。2001年クロフネ以来、外国産馬の優勝はない。
ニュージーランドトロフィー勝ち馬の勝利は、上述の通り、中山に移ってからはカレンブラックヒルだけだった。騎乗する内田博幸騎手は、前週の天皇賞(春)で単勝1.3倍と大本命のゴールドシップを5着にしてしまっていた。

──それでも、6戦5勝・重賞3勝馬を、ファンは1番人気に支持した。
しかし、今となってはこれが「嵐の前の静けさ」だったのかもしれない。

いいスタートを切って、スーッと好位につける。いつも通りの競馬。
逃げるコパノリチャード、番手のガイヤーズヴェルトを見る形、絶好の位置で最後の直線に入る。
後は、前の2頭をかわして、後続を振り切る王道の勝ち方──のように思われた。

後続が襲い掛かる。
内にフラムドグロワール、真ん中にインパルスヒーロー、大外にマイネルホウオウだった。

必死に抵抗するが、あっけなくかわされ、おまけに挟まれ進路が塞がれる不利もあって後退。
挽回する間もなく、ゴール板を通過した。
結果は7着。GIの壁は、高かった。

結局襲い掛かった3頭が上位を占め、マイネルホウオウがGI初勝利。10番人気→6番人気→8番人気での決着となる大波乱。柴田大知騎手の涙が印象的な、感動のレースとなった。


歴史は繰り返される。
その後、カレンブラックヒルのように、ニュージーランドトロフィーからNHKマイルカップを連勝する馬は現れていない(2021年4月現在)。近年のニュージーランドトロフィー勝ち馬のレベルが低いわけではないだろう。あくまで、中山と東京では問われる力が違うのではないだろうか。

エーシントップは、秋にダート短距離の霜月ステークスを制して、兵庫ゴールドトロフィーで1倍台の支持を集めるほど(5着敗退)の信頼を集める。古馬になっても、高松宮記念で4着に入る活躍を見せた。
その他勝ち馬には、2000メートル重賞を制したヤマカツエース、ダートGI馬のワイドファラオ、スワンステークスを勝ったカツジなど、いずれも芝マイルには縁がなく、別路線での活躍も目立つ。
このレースは、果たしてその若駒自身の適性、得意は何なのか。それらを探る、調教師、陣営らの奮闘も垣間見ることができる。


エーシントップの先行力、他を圧倒するスピード、競馬のうまさは2歳3歳前半では群を抜いていた。おまけにダートも走れる。
しかし、ダービーやその後の古馬王道路線を楽しむ競馬ファンには、「早熟」の烙印を押されるだろう。

彼は、引退後、北海道のイーストスタッドで数年種付けをこなしたのち、現在は、鹿児島県にいる。
逃げ、先行が有利な小倉競馬場で行われる、2歳夏のレース……。
仕上がりの早い馬が活躍する条件だ。

「九州産馬限定競走」にてエーシントップ産駒が活躍するところを、期待せずにはいられない。

写真:Mr.KQ

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