競馬にはクラシック競走という伝統的な競走がある。日本ダービーやオークスなどのこれらのレースは3歳馬しか出られないため、各レースとも挑戦権は1回のみ。だからこそ、クラシック競走の勝ち馬はクラシックホースとして多くの人々の記憶に残ってゆく。

しかし2012年にクラシック競走を駆け抜けた馬の中には、1度も勝てなかったにもかかわらず多くの人々の心を奪った馬がいる。

その馬の名はヴィルシーナ。

日米の野球界で活躍した佐々木主浩氏がオーナーということでも有名な馬である。

なぜこの馬が多くの人々に記憶に残ったのか?

その理由は、この馬の戦績にある。

3歳を迎えたヴィルシーナはクイーンカップを勝って牝馬三冠競走に臨んだ。

重賞を勝っていることもあって、実力は折り紙付きである。G1制覇も夢ではないと思われていたが、なんと全ての牝馬三冠競走で2着という結果を残したのだ。
実はこの年は、ジェンティルドンナが三冠牝馬に輝いた年。ヴィルシーナは、全てのレースでジェンティルドンナの2着となったのであった。

秋華賞でハナ差の2着など、着差がわずかなレースもあっただけに、もしジェンティルドンナがいなければ……と思ってしまう馬であった。秋華賞の次のエリザベス女王杯も2着となり、いつしかシルバーコレクターという称号を付ける人も出てきた。

ヴィルシーナにとって、そして陣営にとってG1制覇は悲願となった。

4歳となったヴィルシーナの大目標は、もちろんG1制覇。始動となった大阪杯でオルフェーヴルなど牡馬と初対戦をした後、早速最大のチャンスが巡り込んできた。

第8回ヴィクトリアマイルである。
この年のヴィクトリアマイルは大混戦の様相を呈していた。
そんな中で、ヴィルシーナは三冠牝馬ジェンティルドンナと張り合った実績が評価され、1番人気での出走となった。

鞍上の内田騎手も、なんと3戦連続となる1番人気でのG1出走であり、陣営としても何としても獲りたいレースであっただろう。

15時40分、ゲートが開いた。

好スタートを切ったヴィルシーナはアイムユアーズを行かせて2番手をキープ。
続いてマイネイサベルなどが続き、それほど厳しいペースとはならなかった。

直線に向くと、レースを引っ張った先行勢が粘り込みを図っていた。
アイムユアーズに、ジワジワとマイネイサベルとヴィルシーナが迫る。

後方勢の伸び脚は厳しく、残り200mでマイネイサベルとヴィルシーナが揃って先頭に立っていた。
2頭の争いかと誰もが思った直後──外から1頭の芦毛馬が飛び込んできた。

昨年の覇者・ホエールキャプチャだ。
マイネイサベルを競り落としたヴィルシーナにホエールキャプチャが迫った所でゴール。体制は完全に同体。

「また2着か?」という考えが、多くの人の頭をよぎった事だろう。

長い写真判定の末、ようやく着順掲示板に数字が点った。

1着は、11番。
ヴィルシーナであった。

その瞬間、地下馬道では内田騎手や陣営の方々が抱き合い喜んでいた。悲願のG1制覇が叶った瞬間であった。
前年2着に負け続けた事実に、オーナーを含めたヴィルシーナサイドには少なからずショックがあった事だろう。

それでもオーナーは、内田騎手を信じてこの馬に乗せ続けた。陣営もヴィルシーナに寄り添い、多くの工夫をしていた。内田騎手は、これらの思いに応えようとするかのように、直線、必死に追っていた。そしてヴィルシーナも、内田騎手のアクションに応えるように粘り続けた。

この勝利は、多くの人の思いや努力が実った結果だろう。

人を信じる力……馬を信じる力が、夢を現実に変えてくれたレースであった。

写真:Horse Memorys、もん

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