近年の日本競馬を語るにあたって欠かせない存在となったセレクトセールについて、その歴史と変遷をご紹介していきたいともいます。

セレクトセールとは?

さて、早速本題に入っていきましょう。
セレクトセールとは、日本最大級のセリの名称ですが……より簡単に説明するならば「ディープインパクトとキングカメハメハを出したセリ」です。

第1回目が1998年と、比較的歴史の浅いセールではありますが、社台グループが中心となって年々成長を遂げてきたため、現在は世界中から注目を集めるセールとなっています。
実際に購入を検討している馬主さん以外でも、若駒に興味がある人にとっては絶対に無視できない存在ですね。
特に1歳馬のセールは成長が止まらず、売上高が27億(2009年)→32億(2010年)→47億(2011年)→55億(2012年)→62億(2013年)→71億(2015年)と、数億円単位の伸びを見せています。
そして2016年は、前年よりもさらに10億アップの81億円もの売り上げ。売却率も87.9%で最高タイ、平均価格も過去最高という非常にレベルの高い結果となりました。
ちなみに当歳も、平均価格は過去最高となっています。そうしたセールを、今一度振り返り、今後の参考としていきたいと思います。今回ピックアップするのは以下の3つの年度となります。
・1998年
・2007年
・2016年
初年度〜最新と、その中間となる年です。
ざっくりとではありますが、変遷を成長を感じていただけたらと思います。では、早速見ていきましょう!

圧倒的人気、サンデーサイレンス

まずは初年度。
1歳馬47頭、当歳馬183頭(合計230頭)が上場していました。
上場産駒の父は全部で67頭となります。その中にはセクレトやシンボリルドルフ、リアルシャダイ、ラムタラ、ノーザンテースト、トニービン、フォーティナイナー、ブライアンズタイムといった、競走馬生産で今もなお話題となる偉大な種牡馬たちが名を連ねています。
さらには現役時代に人気を集めたトウカイテイオーやナリタブライアン、メジロマックイーン、メジロライアン、サッカーボーイなどの名前も見られ、すでにメンバーの豪華さと多彩さが感じられる、といったところでしょうか。
もう一つ感慨深い点をあげるとすれば、既にフジキセキやダンスインザダーク、サクラバクシンオーも、父としてこのセールに参加していた事でしょうか。
種牡馬として、多くの大先輩たちと戦ってきたのだなと思います。そして、やはり人気の中心はサンデーサイレンス。初期におけるセレクトセールで、背骨ともいえる存在です。23頭を出して、主取3頭と欠場1頭を除けば3100万~1億9000万と非常に価格の水準が高く、平均額は約9157万円でした。全体の平均価格が3400万円ですので、圧倒的ともいえる価格です。
落札額上位TOP10を見ても、そのうちの9頭がサンデーサイレンス産駒という一人勝ち状態。
この年のセレクトセール上場馬で、のちにG1を勝利する馬は2頭いたのですが、やはりどちらも「父サンデーサイレンス」でした。その2頭とは、マンハッタンカフェ(菊花賞・有馬記念・天皇賞春)と、ビリーヴ(スプリンターズS・高松宮記念)。
長距離G1を3勝する産駒と短距離G1を2勝する産駒を同じ年にセールに出すという、サンデーサイレンス産駒の条件不問さがうかがえる結果に思えます。
ちなみにエリザベス女王杯2着のダイヤモンドビコー(父サンデーサイレンス)も同年度のセレクトセール出身となります。落札額TOP5は以下の通り。

1.父:サンデーサイレンス母:ファデッタ19,000万円 当歳(牡)
2.父:サンデーサイレンス母:トリプルワウ18,000万円 当歳(牡)
3.父:サンデーサイレンス母:ステラマドリッド17,500万円 当歳(牝)
4.父:ブライアンズタイム母:サクラハゴロモ14,500万円 当歳(牡)
5.父:サンデーサイレンス母:バレークイーン14,000万円 当歳(牡)

短距離チャンピオン・サクラバクシンオー半弟の当歳馬が、唯一、父サンデーサイレンス以外の血統でランクイン。さすがの良血ですね。
父もナリタブライアン等を輩出した人気種牡馬ブライアンズタイムでした。
逆に言えば、これほどのレベルの良血でないと、サンデーサイレンス産駒の並ぶ高額ランキングには食い込めなかった……とも考えられます。
しかしながらデビューしてからは中央で1勝のみに留まる最高額の馬は、母が米G1馬の半妹という事で人気を集めていたようです。また、2番手の母、トリプルワウも米G3の勝ち馬と、アメリカでの実績を持つ馬でした。
トリプルワウの仔はその後フサイチオーレと名付けられ、日本でオープン勝ちを収めたのちに、日本馬として初めてのオーストラリア遠征に参加。
さらにはそのままオーストラリアへ移籍して種牡馬となったという、ちょっとおもしろい経歴の馬です。

サンデーサイレンス亡き後の多彩な種牡馬市場

そこから9年の時を経て、2007年度には1歳馬150頭、当歳馬317頭(合計467頭)が上場。
82頭の種牡馬が産駒をセールへ送り出しています。
翌年にはディープインパクト産駒の当歳馬がセールに上場してくる、いわば「ディープインパクト前夜」ともいえるこのセール。鳴り物入りのルーキー種牡馬を迎え撃つべく、様々な血統の種牡馬が父として顔をそろえていました。
上場が多かった種牡馬はクロフネ(38頭)、キングカメハメハ(36頭)、アグネスタキオン(30頭)、シンボリクリスエス(27頭)、フジキセキ(26頭)。
サンデーサイレンスの時代に、並んでトニービンやブライアンズタイムという輸入種牡馬が人気だったという点と比べて、現役時代も日本で実績を残した種牡馬が人気を集めているのが印象的です。
基本的に高額な繁殖牝馬はサンデー系が多く、非サンデー系の種牡馬には大きなアドバンテージとなっていたと考えられます。輸入牝馬が人気だった頃よりも現役時代日本で活躍していた牝馬たちも目立ちます。逆に、サンデーサイレンスの入っていない牝馬の多くはサンデー系種牡馬と配合されていました。落札額TOP5は以下の通り。

1.父:クロフネ母:マイケイティーズ30,000万円 当歳(牡)
2.父:フレンチデピュティ母:マイケイティーズ25,000万円 一歳(牡)
3.父:ダンスインザダーク母:エアグルーヴ24,500万円 一歳(牡)
4.父:ジャングルポケット母:エヴリウィスパー17,000万円 一歳(牡)
5.父:キングカメハメハ母:マストビーラヴド15,500万円 当歳(牡)

上記した傾向は、落札額上位にも顕著に表れているかと思います。
落札額TOP10まで対象を広げても、サンデーサイレンスが入っていない馬は2頭のみでした。
そのうちの1頭である落札額第4位の馬は、のちに天皇賞秋を勝利するトーセンジョーダンであり、当時から話題となっている馬。上位2頭は半兄アドマイヤムーンの活躍によるところが大きいにせよ、非常にわかりやすい構図となっていたかと思います。

一強、ディープインパクト

そして過去最高売上を叩き出した昨年(2016年)の上場馬数は、1歳馬247頭・当歳馬243(合計490頭)となっています。
しかし、父を見てみると、55頭と2007年よりもかなり減少傾向にあるのが興味深いです。
やはり目立つのは35頭のディープインパクト産駒。主取となった2頭を除けば、最低落札価格でも4000万円という高額でした。16頭が1億円超え、しかもそのうち7頭は2億円超えという圧倒的な結果となっています。
平均価格は1億2600万を超えており、ディープ産駒だけでも41億円以上の売上を記録しているのは驚異としか言えないでしょう。ちなみに16頭の1億円超えホースたちは全て社台系牧場の生産馬であり、その盤石さがうかがえますね。

1.父:ディープインパクト母:イルーシヴウェーヴ28,000万円 当歳(牡)
2.父:ディープインパクト母:マルペンサ28,000万円 当歳(牡)
3.父:ディープインパクト母:オーサムフェザー26,000万円 一歳(牡)
4.父:ディープインパクト母:マンデラ24,000万円 当歳(牡)
5.父:ディープインパクト母:シャンパンドーロ23,500万円 一歳(牡)

最高落札価格となった二頭の産駒の母は、どちらも輸入牝馬です。
イルーシヴウェーヴは仏1000ギニーなどを勝利したG1馬で来日後は2年連続ディープを配合されています。マルペンサは今年のダービー2着馬サトノダイヤモンドの母としてもしられている、アルゼンチン出身のG1馬です。
3番手の落札額となった馬の母、オーサムフェザーも強豪馬。米で11戦10勝という戦績を残しています。
その後もマンデラ(独G1馬)、シャンパンドーロ(米G1馬)、カンビーナ(米G1馬)と、落札価格上位7頭までが輸入牝馬×ディープインパクトという配合。
サンデーサイレンス全盛期と似た、非常にわかりやすい構図となっているのではないでしょうか。
印象的なのは、10年前は海外G3を勝った馬でも繁殖としては最高クラスの扱いだったのに比べ、現在はディープ用に輸入した各国の名牝が当たり前のように集中しているという事でしょう。
これは、日本競馬界の成長によるところが大きいのではないかと思います。この牝馬たちの産駒はディープインパクトの種牡馬としての成績をあげるというだけでなく、引退後も繁殖牝馬として日本に根付き、日本競馬の全体的な血統レベルの向上へ貢献することでしょう。


さて、ここまで見てきたセレクトセールの歴史、いかがだったでしょうか。

セレクトセールの馬たちからも、なかなか日本競馬界の隆盛が見えてきますね。
これからのセレクトセール、そして日本競馬界はどう成長して、私たちを楽しませてくれるのでしょうか?

ディープ牝馬たちの産駒が高額となる、非ディープ種牡馬の戦国時代に突入するのか?
ディープの後継種牡馬たちが活躍してそのまま一大系統を築き上げるのか?
新たなビッグネームが現れて人気をほしいままにするのか?

楽しみは、つきません。

写真:ウマフリ写真班

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