皐月賞の最終トライアル、スプリングS。弥生賞ディープインパクト記念と比べて頭数が揃うことが多いこのレースも、2000年以降では最少タイとなる10頭立てで争われることになった。
ただ、年末の2歳GⅠ好走馬や重賞ウイナーの出走はなく、10頭立てでも大混戦の様相。半数以上の7頭が単勝10倍を切る時間帯もあり、その中でシックスペンスが1番人気に推された。
リーディングを快走するキズナの産駒シックスペンスは、母フィンレイズラッキーチャームも米国のGⅠ馬という良血。デビューから2戦、いずれも中山のマイル戦に出走し連勝している。
とりわけ、前走のひいらぎ賞は2番手追走から早目に抜け出して押し切るセンス抜群の競馬。2着に1馬身半差をつける完勝だった。
今回は、新馬戦以来となるルメール騎手とのコンビが復活。管理するのはGⅠ9勝のアーモンドアイと同じ国枝栄調教師で、黄金タッグから再び名馬が誕生するのか。大きな注目を集めていた。
これに続いたのがウォーターリヒト。2走前のシンザン記念で単勝200倍を超える低評価を覆し3着に激走した本馬は、続くきさらぎ賞でもハナ差2着に好走。シンザン記念がフロックではなかったことを証明してみせた。
父ドレフォンは、2022年の皐月賞馬ジオグリフを輩出。3度目の正直で重賞制覇を成し遂げ、偉大な先輩に続いて大舞台に立つことができるか。こちらも大きな注目を集めていた。
わずかの差で3番人気となったのがジュンゴールド。8月小倉の新馬戦で素晴らしい末脚を繰り出し初陣を飾ったジュンゴールドは、続く紫菊賞では一転してレース途中から逃げ、またしても完勝。クラシック候補の仲間入りを果たしたかと思われた。
ところが、1番人気に推された前走の京成杯は、道中力むようなところがあり12着に大敗。再東上となる今回は、本番の出走権獲得はもちろん、雪辱を期す一戦でもあった。
以下、ルカランフィースト、ペッレグリーニ、チャンネルトンネルの順で、最終的にこれら6頭が単勝10倍を切った。
レース概況
ゲートが開くと、スティンガーグラスが出遅れ。ジュンゴールドとウォーターリヒトもダッシュがつかず、後方からの競馬を余儀なくされた。
一方、前は押してアレグロブリランテが先手を切り、1馬身差でコスモブッドレアが追走。2馬身半差の3番手にシックスペンスが続き、さらにそこから2馬身差の4番手にチャンネルトンネルとルカランフィーストがつけていた。
これら5頭に対して、ペッレグリーニとログラールが6番手を併走。後方はスティンガーグラス、ウォーターリヒトと続いて、ジュンゴールドが最後方を追走していた。
向かい風の影響か、800m通過は50秒2、1000m通過も1分3秒1と非常に遅く、先頭から最後方までは12、3馬身の差。その後、ウォーターリヒトがポジションを1つ上げた以外、隊列に大きな変化はなかったものの、4コーナーでコスモブッドレアとシックスペンスが先頭に並びかけ、前が3頭横一線となる中、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入ると、すぐにシックスペンスがスパート。坂下で単独先頭に立つと後続に1馬身のリードを取り、さらにそこから独走態勢を築きはじめた。
焦点は2着争いとなり、ルカランフィーストとチャンネルトンネルが2番手の2頭に襲いかかって4頭の争いとなるも、前をいくシックスペンスの末脚はまったく衰えず、最終的には3馬身1/2差をつけ1着でゴールイン。
逃げ粘ったアレグロブリランテが2着となり、超のつく接戦となった3着争いはルカランフィーストが僅かに制して、これら3頭が皐月賞の優先出走権を獲得した。
良馬場の勝ちタイムは1分49秒4。素晴らしい瞬発力を繰り出して混戦を断ったシックスペンスが、デビューから無傷の3連勝。堂々、クラシックの主役候補に名乗りを上げた。
各馬短評
1着 シックスペンス
押して先頭に立ったアレグロブリランテとは対照的に馬なりで先団に取り付き、好位を確保。4コーナーで先頭に並びかけると、素晴らしい瞬発力を繰り出し後続を一気に突き放した。
センス抜群の取り口で、これだけペースが遅くても、引っ掛かるようなところはまるでなかった。それでいて素晴らしい瞬発力を繰り出すことができ、共同通信杯を制したジャスティンミラノと同じく、キズナ産駒の牡馬のイメージを一新する馬。
そのジャスティンミラノやレガレイラ、ジャンタルマンタルは確かに強力だが、展開面の恩恵があったとはいえ、それら3頭に肩を並べるくらいの強烈なパフォーマンスだった。
2着 アレグロブリランテ
スタート後すぐに鞍上の横山和生騎手が促してハナを切るも、逃げ争いが決着した後は一気にペースを落とし、3コーナー過ぎから再びスパート。早目にシックスペンスとコスモブッドレアに並びかけられ勝ち馬には完敗を喫するも、序盤の貯金がものをいい2着を確保した。
モズベッロやセダブリランテスと同じく、非根幹距離の小回りで好走するあたりがいかにもディープブリランテ産駒。皐月賞はペースが流れやすく今度は展開不利となる可能性もあるが、仮にそこで好走できなくても、福島のラジオNIKKEI賞やセントライト記念で再びの好走があるかもしれない。
3着 ルカランフィースト
道中は勝ち馬の直後に位置。しかし、直線で一気に突き放され、前走先着したアレグロブリランテにも先着を許したが、なんとか3着争いを制し出走権を獲得した。
こちらは、皐月賞馬イスラボニータの産駒。一方、母の父はマンハッタンカフェで、2023年のダービーを制し、皐月賞でも2着したタスティエーラと同じ。
2走前の京都2歳Sで大敗を喫したものの、2000mはこなせるはずで、今回、上位入着馬で展開面の恩恵が最も少なかったのはこの馬。それでも本番は人気にならないはずで、今のところ傑出した存在がいない世代だけに、勝つとはいわないまでも波乱を演出する可能性はある。
レース総評
800m通過50秒2。12秒9をはさんで、同後半が46秒3=1分49秒4。向正面は向かい風、逆に最後の直線は追い風で超のつく後傾ラップとなり、レースの上がり3ハロンは33秒7だった。
記録が残っている1986年以降、中山芝1800mで上がり3ハロン33秒7は最速。また、距離に関係なく、中山芝の重賞で上がり3ハロンが34秒を切ったのは、これが5例目。他に33秒7がマークされたレースは、レッドファルクスが制した17年のスプリンターズSだけだった。
ただ、今回は向かい風と追い風の影響もあっての上がり33秒7で、そこに価値があるかといえば、そうとはいえない。しかも、皐月賞はよどみないペースで流れることが多く、同じような展開になる可能性は低いだろう。
それでも、シックスペンスが繰り出した素晴らしい瞬発力や、共同通信杯を制した際にジャスティンミラノが繰り出したそれは、これまでキズナ産駒の牡馬に抱いていた「キレない」イメージを覆すものだった。
そのキズナは、3月14日時点でJRAのリーディング首位を快走中。前週の中山牝馬Sもコンクシェルが逃げ切っており、中山芝1800mの重賞を2週連続で勝利したことになる。
共同通信杯の回顧でも触れたとおり、この世代はノーザンファームがキズナの種付け頭数(生産頭数)を大幅に増やした世代。これまで以上の活躍が見込まれ、牡馬はジャスティンミラノとシックスペンス、牝馬ではクイーンズウォークが、2024年に入ってから重賞を制している。
一方、母フィンレイズラッキーチャームは米国のGⅠ馬で、その父はトワーリングキャンディ。同馬の4代父はファピアノで、現3歳世代でキズナ×母父ファピアノ系種牡馬の組み合わせは他に、前述したクイーンズウォーク、3月9日のゆきやなぎ賞を勝ったショウナンラプンタ、きさらぎ賞5着のジャスティンアースらがいる。
キズナ産駒でも同じ傾向になるかは分からないものの、キズナ自身がそうであったように、ディープインパクト産駒でダービーを制した馬の多くは、母方がアメリカ血統。直線のトップスピードを競うダービーでは完成度と瞬発力が非常に重要で、今回シックスペンスが繰り出した瞬発力は、まだ走ったことがない府中の長い直線でこそ真価を発揮するのかもしれない。
対して、2番人気ウォーターリヒトと3番人気ジュンゴールドの関西馬2頭は、それぞれ9、10着と大敗。重賞2着の実績があるウォーターリヒトはまだ可能性を残しているが、ジュンゴールドの皐月賞出走は極めて厳しい状況となった。
これら2頭はスタートでダッシュがつかず、道中も9、10番手を追走。極限ともいえるレース上がり33秒7の瞬発力勝負でこの位置取りは厳しく、2頭に限らず中団、後方待機組にはノーチャンスの展開だった。
ただ、皐月賞は例年ペースが流れやすいレース。さらにそこへ雨が降るなどして馬場が渋ればたちまち底力勝負となり、もしウォーターリヒトの出走が叶えば、三度波乱を演出する可能性は十分にあるだろう。
写真:だいゆい