秋のGIシリーズ開幕を告げるスプリンターズSは、外国馬が6年ぶりに参戦。それらも含め出走16頭中15頭が重賞勝ち馬で、そのうち4頭がGⅠウイナーと、開幕戦に相応しい好メンバーが顔を揃えた。
ただ、短距離路線は長らく王者不在の状態が続いており、2018年のファインニードルを最後に、春秋スプリントGⅠ制覇を成し遂げた馬は誕生していない。各馬の実力が拮抗しているのはいうまでもなく、枠順や道悪の巧拙が結果に大きく影響。GⅠがおこなわれる度に勝ち馬は変わり、混戦とみられた今回も5頭が単勝10倍を切る中、サトノレーヴがやや抜けた1番人気に推された。
1200mでは8戦7勝2着1回とほぼ完璧な成績を残しているサトノレーヴは、現在3連勝中。函館スプリントSとキーンランドCを制し、サマースプリントチャンピオンに輝いた。
前走に続いて騎乗するダミアン・レーン騎手は、実質この日のためだけに短期免許を取得して必勝態勢。4連勝で短距離界の頂点を極めるか、注目を集めていた。
これに続いたのがママコチャ。GⅠ3勝ソダシの半妹で前年覇者のママコチャは、それ以来、勝ち星から遠ざかっているものの、前走セントウルSで2着。牝馬にとっては過酷な57キロを背負っての好走で、GⅠ馬の意地を見せた。
今回は、再び川田将雅騎手とのコンビが復活。スプリンターズSがGⅠに昇格してからは4頭目。牝馬としては初の連覇が懸かっていた。
そして、3番人気となったのがマッドクール。1年前の当レースで2着に惜敗したマッドクールは、年末の香港スプリントこそ8着に敗れるも、今季初戦の高松宮記念を勝利。重賞初制覇をGⅠの大舞台で飾った。
再び香港に遠征した前走のチェアマンズスプリントは11着と崩れたものの、大外枠が響いた印象。これまで、大敗した次のレースは必ず連対しており、巻き返しと春秋スプリントGⅠ制覇が期待されていた。
以下、GⅠで2、3着が計4回とあと一歩のところまで迫り、悲願のビッグタイトル獲得が期待されるナムラクレア。セントウルSで4つ目の重賞タイトルを手にしたトウシンマカオの順で人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、最内のオオバンブルマイが出遅れ。エイシンスポッターもダッシュがつかず後方からの競馬となった。
一方、前はウイングレイテストと香港のビクターザウィナーが手綱を押していこうとするも、ピューロマジックが馬なりでこれらを交わし先頭。ウイングレイテスト、ルガル、ビクターザウィナーと続いて、そこから1馬身差の5番手をマッドクールとママコチャのGⅠ馬2頭が併走。トウシンマカオとヴェントヴォーチェを挟んだちょうど中団にサトノレーヴがつけ、ナムラクレアは後ろから5頭目に位置していた。
600m通過は32秒1と、かなりのハイペース。短距離戦にもかかわらず、先頭から最後方のオオバンブルマイまでは20馬身以上の差がつき縦長の隊列となった。
その後、4コーナーで中団以下の各馬が差を詰めようとするも、前との差はなかなか縮まらず、快調に逃げるピューロマジックは依然2番手に4馬身ほどの差をつけたまま、最後の直線勝負を迎えた。
直線に入ると、さすがにピューロマジックも苦しくなり、ウイングレイテストを交わして2番手に上がったルガルがジワジワと差を詰め、坂上で先頭に立った。
3番手以下は、内からトウシンマカオ。真ん中からビクターザウィナーとウインマーベル。外からママコチャとナムラクレアが末脚を伸ばし、とりわけ猛烈な勢いで追い込んできたトウシンマカオが残り50mで2番手に上がって先頭に迫るも、この追撃を凌いだルガルが1着でゴールイン。クビ差2着にトウシンマカオが入り、同じくクビ差でナムラクレアが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分7秒0。1番人気に推された高松宮記念で道悪とケガに泣き10着と敗れたルガルが、それ以来の実戦で見事復活。デビュー7年目の西村淳也騎手とともに、GⅠ初制覇を成し遂げた。
各馬短評
1着 ルガル
かつて課題だった発馬はすっかり安定し、この日も五分以上のスタートで好位3番手を確保。直線はジワジワと差を詰めて残り100mで先頭に立ち、そのまま押し切った。
3歳時は勝ちきれないレースが続くも、今季初戦のシルクロードSを3馬身差で圧勝。新星誕生と思われたが、1番人気に推された高松宮記念は道悪に泣いたか10着と大敗。しかも、レース後に骨折が判明し、それ以来、今回は半年ぶりの実戦だった。
外枠に入った馬では唯一掲示板を確保し、そのうえ勝ち切ったことに意義がある。骨折した前走をノーカウントとすれば芝で5着以下がなく、発馬さえ決まれば常に安定した取り口。短距離界の真の王者になれるか、今後が期待される。
2着 トウシンマカオ
道中は内ラチ沿いを追走し、枠を最大限に活かした競馬。直線、坂を上りきったところから鋭く伸びたが、あと一歩届かなかった。
これまであまり結果が出ていなかった左回りを前走で克服し、今回もGⅠで初めて連対と本格化なった印象。なんとかビッグタイトルを獲得し、サクラユタカオー、サクラバクシンオー、ビッグアーサーと続く父系をなんとか存続して欲しい。
3着 ナムラクレア
スタートしてすぐ中団につけるも、3コーナー進入時に両側から挟まれる不利。後ろから5頭目まで下がってしまい、直線でも大外に持ち出さざるを得ず、またしてもあと一歩届かなかった。
GⅠ毎に上位入着馬が入れ替わるスプリント路線において、常に好走しているのはこの馬だけ。牡馬に混じって毎レース好走を繰り返しているだけに、トウシンマカオ同様、なんとかビッグタイトルを獲得して欲しいと願わずにはいられない存在。
レース総評
初コンビの横山典弘騎手が気分良くいかせたことで、逃げるピューロマジックが2ハロン目に計時したラップは、なんと9秒9。前半600m32秒1は、当レースがGⅠに昇格して以降の最速だった。
また、中山芝1200m全体をみても、データが残っている1986年以降では、ショウナンカンプが逃げ切った2002年オーシャンSの32秒0に次ぐハイペース(同馬は次走の高松宮記念でGⅠ制覇)。依然、速いタイムが出る馬場コンディションとはいえ驚愕のペースだったが、いくら速いといってもよほど実力が抜けた馬でない限り、一線級同士の戦いで後方一気は決まりづらい。3番手を追走していたルガルは、前半600mを32秒7くらいで通過しており、これが勝つための最適なポジションだった。
そのルガルは、二冠馬ドゥラメンテの産駒。一方、母父ニューアプローチは英国のダービー馬で純粋な短距離血統とはいえないものの、両者から受け継いだスタミナが坂を上ってからの辛抱に繋がった。
前述したとおり、レース中に骨折していた前走をノーカウントとすれば、芝ではまだ底を見せていないルガル。スタートさえ決まればスッと好位を確保できる点も魅力で、脚質的にも不利を受けにくく安定して力を発揮できるタイプ。今回、不利な外枠を克服して勝ち切った点も評価できるポイントで、まだ4歳であることを考えれば、長年、王者不在の短距離界の頂点に君臨し続ける可能性は十分にある。
また、新潟記念を制したシンリョクカや神戸新聞杯を逃げ切ったメイショウタバルなど、ここ1ヶ月は、春アクシデントにあった馬が結果を残しているが、メイショウタバルと同じくルガルを生産したのも名門・三嶋牧場である。
三嶋牧場は近年、2021年の安田記念を制したダノンキングリーを皮切りに、メイショウハリオ、ファストフォース、テーオーロイヤル、そしてルガルと毎年のようにGⅠウイナーを輩出。今年はテーオーロイヤルが天皇賞(春)を制しており、同一年の最長距離と最短距離のGⅠ馬を送り出したことになる。
一方、鞍上の西村淳也騎手はデビュー7年目でGⅠ初制覇。2018年にデビューしたこの期は卒業生が3名と近年で最も少なく、今も現役で活躍しているのは西村淳騎手だけである。
今回は、前走時の悔しさを思い出してか、ゴール通過直後から涙を流すような仕草を見せ、勝利騎手インタビューでは「ほとんど覚えていません」を繰り返していたものの、成績は右肩上がり。2年目以降は毎年50以上の勝ち星をあげ、この先もケガによる離脱などが無ければ、自己最高だった2023年の76勝を超えることはほぼ確実。この日、決定した第2・3回中京競馬のリーディングを獲得したのも同騎手で、年間100勝も夢ではなく、ルガルとともにさらなる飛躍が期待される。
写真:shin 1