毎年、勝ち馬や好走馬の多くがクラシック路線や重賞で活躍することの多い朝日杯フューチュリティステークス。今年は阪神競馬場の改修工事により史上初めて京都競馬場での開催となり、過去のデータなどから予想するのが難しいことも手伝って、やや人気は混戦模様となっていた。
そのなかで1番人気に推されたのはアルテヴェローチェ。前走、サウジアラビアロイヤルCでは、4コーナー最後方から直線だけで全馬をごぼう抜き。前残りの中差し切り勝ちを見せた末脚が評価されていた。
さらに馬主は先週、アルマヴェローチェでG1初制覇を成し遂げた大野照旺氏。個人馬主による2週連続のG1制覇という記録もかかっていた。
これに続いたのが3戦2勝のミュージアムマイル。メンバー中唯一の2000mでの勝利があることに加え、京都では無敗という素質馬。2歳馬にとって課題となる折り合いもついており、3連勝でのG1制覇が期待されていた。
3番人気に、新潟2歳S馬トータルクラリティ。当レースの勝ちタイムは過去10年で4位だが、その上の1位タイにはアスコリピチェーノ、セリフォス、ロードクエストと名馬が並んでいる。跨る北村友一騎手もその素質を高く評価しており、ここを勝って翌年の大舞台に主役として駒を進めたいところ。
以下、京王杯2歳Sの勝ち馬パンジャタワー、同舞台の未勝利を勝ってここへ臨むアドマイヤズームまでがひと桁台のオッズとなっていた。
レース概況
エルムラントがやや立ち上がり、ミュージアムマイルも出負けして、ややバラっとしたスタートが切られる。真ん中からクラスペディアがいいダッシュを見せるが、内からダイシンラー、アドマイヤズームが並びかけて先頭集団を形成。
やや離れてトータルクラリティとコスモストームが続き、出遅れたミュージアムマイルが早めに内から巻き返して2頭の後ろまで上がり、アルテヴェローチェの右前へ進出していく。
この動きによってアルテヴェローチェは前にいたランスオブカオス、パンジャタワーが壁になり、横のテイクイットオール、背後のエイシンワンドも重なって、進出するにはいったん後退せざるを得なくなる厳しい位置取りとなってしまった。
マークされ、きつい形となった1番人気馬を横目にタイセイカレント、ドラゴンブーストが坂の上りでじわじわと動き始め、アルレッキーノ、ニタモノドウシがそれに続く。1頭離れて、出負けしたエルムラントが最後方を追走していた。
800m通過は48秒と、前週の阪神JFよりも遅いペースで通過していく。
ペースを落として逃げるダイシンラーに、坂の下りで勢いをつけたアドマイヤズームが並びかけ、それを追うように各馬も加速。外回りの4コーナーで馬群は横いっぱいに広がって勝負所を迎えた。
直線、4角先頭に持ち込もうとするアドマイヤズームだが、内でダイシンラーも粘る。直後からミュージアムマイルも迫ってきており、3頭のたたき合いになるかと思われた。
だが、内回りとの合流点でアドマイヤズームが真ん中からまっすぐに抜け出すと、そのまま後続をグングン突き放して独走態勢に持ち込む。2番手からミュージアムマイルが追うが、差は開く一方で追いつけない。3番手以下は大きく離れ、200m地点で大勢は決した。
そんな中、後方からただ1頭G1初騎乗の吉村誠之助騎手が跨るランスオブカオスが馬群を抜け出し、単独で3番手に上がったが、アドマイヤズームはその時、既に栄光のゴール版を駆け抜け1着。
混戦の下馬評を覆すかのような圧勝劇で『アドマイヤ』の新星が2歳マイル王者に輝き、デビューから僅かひと月で、来春の主役候補に躍り出た。
有力馬短評
1着 アドマイヤズーム
ニュースター誕生。同じ京都1600mで初勝利をあげた1か月後、一気に2歳マイル王者の座を手にした。
スタートしてすぐに先団に取り付き、スローペースでも道中、かかるような面も見せずに勝負所まで脚を温存し、勝負所で爆発させた。
ただ、川田騎手が勝利騎手インタビューで「とても難しいタイプの馬」と語っていたように、好走には鞍上との相性が必要になりそうで、折り合いは今後もカギになるだろう。
一方で、道中気分よく走ることが出来さえすれば、我慢した分の末脚を発揮できる馬。すでにマイル路線に向かうことが発表されており、脚を溜めれば溜めるだけ弾ける直線の長い府中はより合いそうだ。
2着 ミュージアムマイル
ゲートの出が良くなかったがすぐさま立て直し、直線は良く伸びたものの2着。上り3Fは勝ち馬と0.2秒しか差がなく、出負けした分の位置取りで負けた感もある。
鞍上のC.デムーロ騎手が「マイルは得意ではなかったがよく頑張った」と語っていたように、やはり本質は2000m以降の適性。距離が延びての逆転もありそうで、クラシックでの走りが楽しみだ。
3着 ランスオブカオス
G1初騎乗だったルーキー・吉村誠之助騎手が大健闘の3着。
新馬戦でもメンバー中唯一、33秒台の上り3Fを繰り出していただけに、やはり末脚は切れるタイプ。懸念されていたゲートも今回は上手に出ており、たった中1週での出走とはいえ、前走より成長が見て取れた。
早めから活躍する傾向が強いシルバーステート産駒だが、G1での馬券圏内入線は2022年・桜花賞のウォーターナビレラ以来。
今後の成長次第では、2年目のルーキーと共にクラシックの舞台で活躍する姿を見られるかもしれない。
総評
走破時計は1.34.1で、これは前週の阪神JFと比較しても0.7遅いタイム。
とはいえ、阪神JFは最後の3Fが12.0-11.5-11.4だったのに対し、朝日杯FSは11.8-10.9-11.0と一気にピッチが上がっており、スローからの瞬発力勝負という点では、先週より今週の出走メンバーの方が上回っていそうだ。特にこのペースで後方から追い込んできたランスオブカオスは、来年ダークホースとなるかもしれない。
勝利したアドマイヤズームの父はモーリスで、これが産駒の2歳G1初勝利となる。
どちらかというと3歳秋以降で徐々に完成へと向かっていく子供達が多い印象だったが、アドマイヤズームはこの時点でも完成度が高そう。また母の父にはハーツクライがおり、こちらも古馬以降で覚醒することの多い血脈。これまでの傾向とはどこか違う印象で、先行きが非常に楽しみだ。
当レースでの1枠2番、未勝利1着からの勝利は、2020年のグレナディアガーズ以来。
彼にも跨っていた鞍上川田将雅騎手は、昨年のジャンタルマンタルに続く連覇で当レース4勝目となった。両馬ともに制覇後は短距離~マイルの重賞戦線で活躍しており、アドマイヤズームもこの路線の主役にしっかり乗せた印象だ。
また、管理する友道康夫調教師は、これで朝日杯が関西開催に代わって以降、【3-0-1-2】とかなりの好相性で、優勝は2021年のドウデュース以来。来週、ラストランを控える同厩舎のエースに、最高の形でバトンを繋ぐ形となった。
そして、『アドマイヤ』の先代オーナーだった近藤利一氏の死後、最初にG1を勝ったのが、アドマイヤマーズの香港マイルで、今回はそれ以来のG1制覇。管理調教師は、どちらも友道調教師である。
あれから5年。縁深い相棒の下に、再び『アドマイヤ』から、マイルの頂点を狙える贈り物が届いた──。
写真:Sarcoma