[インタビュー]馬ふん堆肥でマッシュルームを栽培し、引退馬支援。ジオファーム八幡平・船橋代表の語る、その必然性とは?

岩手・八幡平で、馬と人との共生を目指して活動しているジオファーム八幡平。最近では『引退馬の馬ふん堆肥でマッシュルームを栽培している団体』といえばピンとくる人も多いのではないだろうか。
今回は、ジオファーム八幡平の代表・船橋慶延(ふなはし・よしのぶ)さんにお話を伺っていく。

たまたまマッシュルームが選ばれたわけではなく、そこには必然性があった。

「2012年に岩手に移り住んできた時には、馬とマッシュルームをメインとした事業をすることになるとは想像もしていませんでした。それまでも馬ふんを使用した堆肥は牧草を作る際などに使っていたので、その有用性は気になっていたんですが。これも縁ですね」

船橋さんは、現在の引退馬支援・マッシュルーム栽培の事業について、そう振り返る。

大阪出身の船橋さんは、栃木や北海道で競走馬に携わる仕事をしたのち、岩手に移住。オーストラリア出身の方が営むクラリー牧場クラリーファームで働き、その知識を養った。そこで得た知見の一つが、オーストラリアでも人気で、その消費量は世界一位というマッシュルームの栽培だった。

「私たちの取り組みをはじめて知った方には『何故、わざわざ馬ふん堆肥でマッシュルームを?』『馬ふん堆肥を使う必然性はないのでは?』とご質問いただくことがあります。マッシュルームについて特別な知識がなければ当然の疑問かもしれませんが、実は我々のマッシュルーム栽培は、17世紀のフランスから続く伝統的な栽培方法に近いんです」

マッシュルームの栽培方法が確立されたのは17世紀のこと。当時は馬房の敷き藁を使って栽培していたそうで、海外ではポピュラーな栽培方法だという。日本では純粋な敷わらではなくおがくずやチップなどを敷料として使うことが増えているが、ジオファーム八幡平ではこの伝統的な栽培方法に沿うように、敷料は麦わらや稲藁を確保し、馬房は年間を通して敷き藁で管理ができるよう体制を整えている。

「海外の大手マッシュルーム栽培企業のWEBサイトなどでも、馬ふん堆肥を使っているというページを用意しているところは多いです。それだけでも、いかに海外でマッシュルームと馬との繋がりが知られているかがわかります。日本でも使っている企業は少なくないのですが、あえて宣伝しているところは少ないようで、なかなかイメージが浸透していないようです」

2014年に独立開業し、ジオファーム八幡平の代表となった船橋さん。自らの取り組みを知ってもらうため、競馬場でイベントに参加するなど、精力的に広報活動も続けている。

「なんとなくマッシュルームを選んだわけではなく、あえてマッシュルームを選んだということを、より多くの人に知っていただきたいですね。馬ふん堆肥は非常に清潔ですし、現代社会の在り方に適合した栽培方法だと思います!」

競馬ファンとしての情熱、競走馬の育成経験をもとに始めた、新たなる挑戦。

2020年には、引退馬支援とマッシュルーム栽培をするジオファーム八幡平に加えて、別会社のグレイトフルホースファームを開業した船橋さん。

場所はジオファーム八幡平と同じく岩手県八幡平市だが、こちらでは引退馬ではなく現役の競走馬を預かり、リフレッシュさせる事業を展開している。そこには船橋さん自身が歩んできたキャリアも大きく関係しているという。

「祖父の影響もあって、子供の頃から競馬が大好きでした。週末の勝ち馬は全部言えるほど。1番熱心にみていたのは、シルクジャスティスやマヤノトップガンあたりが活躍していた頃ですね。週刊Gallopと週刊競馬ブック、両方買っていました(笑) 阪神競馬場や京都競馬場まで通っていたのが懐かしいです。乗るのも好きで、中学生の頃は騎手を志していたのですが、身長が伸びたのでその道は諦めました」

船橋さんが初めて乗馬を体験したのは、小学生の頃。家族が乗馬クラブに通う際についていったのがきっかけだ。競馬だけではなく馬術競技に没頭するようになったのは、高校生になってから。なんと、大阪からはるばる栃木の那須トレーニングファームに通っていたという。

「毎週末、夜行バスや夜行電車に乗って栃木まで向かっていましたね。当時は、シドニー五輪で日本代表にも選ばれた広田龍馬さんが世界選手権にチャレンジしていたころでした。広田さんは僕にとって、師匠のような存在です。そこでは競走馬の育成部門もあったので、多くの経験が積めました」

いわゆる新卒で入社したのは、馬関連の企業ではなく運送会社。そこには「将来に馬運車を運転できるように大型免許を取り運転の経験を積みたい」という意図があった。1年間の就業を経て、那須トレーニングファームに就職した船橋さん。障害競馬のトレーニングや一歳馬の世話をする機会に恵まれた。

「那須で数年働いてから、もっとしっかり馬のことをやるなら……と、北海道へ移住しました。まずはジョーカプチーノなどを輩出したハッピーネモファーム、続いて加藤ステーブルへ。特に加藤ステーブルでは現役バリバリの馬にも乗せてもらえたので、そこで培った経験や人脈が現在のグレイトフルホースファームの事業に繋がったのだと思います」

グレイトフルホースファームでは自身でも馬に乗っている船橋さん。自身では「なんでも屋なので」と笑うが、その多忙ぶり・充実ぶりは想像に難くない。「あっという間に1日、1ヶ月が過ぎていきますね」のだとか。しかしグレイトフルホースファームでの取り組みはジオファームとも深く関係しているため、どちらも同時に盛り上げていく必要がある。

「最近は、岩手競馬だけでなく南関競馬に所属する馬や、中央でデビュー予定の1歳馬などもお預かる機会にも恵まれています。そうして馬が増えることで、得られる馬ふん堆肥も増え、ジオファームでの事業にも良い影響が出ています。現在は上の放牧地に引退馬、下の放牧地に現役馬と大まかな区分けをしていますが、現役馬にとっても落ち着ける良い環境になっているようです。カリカリしたところのある現役バリバリの馬だけでなく、のんびりした引退馬の群れが近くにいることで、リラックスできるみたいですね」

馬事文化の根強く岩手の地から、全国へ。

「岩手には、馬に対する理解のある人が多い印象があります。僕の出身地でもある大阪では、50代60代の方に馬の話をしてもなかなか身近に感じてもらえることはありません。しかし岩手では、50代60代の方と話すと『昔、馬を飼っていたよ』『父が若い頃、馬と暮らしていたらしい』といったように、馬と関わった経験をもっている人が多いんです」

古くから馬産地としても知られる岩手。南部曲がり家と言われる、馬と暮らすための伝統的な間取りも伝わっている。現在でも盛岡・水沢と2つの競馬場を残す土地として、競馬ファンからの認知も高いだろう。そうした環境で育ってきた人々に、馬への理解の深い方が多いのは自然なことかもしれない。

「馬が身近な方が多いというのは心強いです。マッシュルームの栽培にあたっても、市役所など行政のお力添えをいただく必要があるタイミングが出てくるのですが、そこでも『以前、馬を飼っていたよ』と話してくれる方がいます。だからといって何か直接的な融通をきいてくれるわけではないのですが、説明はしやすいですし、こちらの気持ちの上で大きな違いがありますね」

2020年には「八幡平マッシュルーム®」が、地域団体商標に登録された。これはいわゆる「地域ブランド」として売り出していく認定を得たということであり、一定以上の周知を得ている証明にもなる。

「起業からこんなに短期間で認定されるとは驚きでした。この認定には、地元の方々の理解、後押しが大きかったはずです。本当に有り難いです」

今では沖縄から北海道まで、全国にマッシュルームを出荷しているジオファーム八幡平。特に首都圏への出荷は多く、岩手からの物流コストは少なからず発生する。そうしたことからも他拠点への展開はメリットがあるが、一方で「岩手で地盤をかためていきたい」というこだわりもある。やはり馬文化の根付いた地域は魅力だろう。

「最近はイベントなどでも『知っているよ!』と声をかけていただく機会が増えました。少しずつ競馬ファンを中心に認知されてきている手応えもあります。あとは、もっと馬とマッシュルームの繋がりや、この活動の必然性について広く知っていただければと思います。みなさんの意識を変えていきたいですね! そしてお気軽に『ウマ〜い!』とマッシュルームを食べてもらえたら嬉しいです!」

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