[重賞回顧]鮮やかな追込みを決めたニシノエージェントが、クラシック戦線に堂々と名乗り!~2025年・京成杯~

過去2年で3頭のクラシックホースを送り出し、俄然、注目を集めるレースとなった京成杯。近年はクラシックのトライアルに出走しない、いわゆる「直行ローテ」が一般的になっているが、これら3頭も京成杯から皐月賞へ直行した。

そのうち、ソールオリエンスはこの2レースを連勝。史上初の快挙を成し遂げ、2024年の覇者ダノンデサイルも、スタート直前にアクシデントを発症した皐月賞こそ除外となったものの、仕切り直しで臨んだダービーを制し世代の頂点に輝いた。

直行ローテが一般的になったのは、同じコースでおこなわれるGⅠホープフルSから皐月賞へ直行する馬が増加したからだが、前述した3頭の活躍により、今後は京成杯→皐月賞という臨戦過程を歩む馬も増えていくのではないだろうか。

そんな注目のレースに集結したスター候補は14頭。単勝オッズでは三つ巴の様相となり、僅かの差でキングノジョーが1番人気に推された。

セレクトセールにおいて税込3億4100万円の高値で落札されたキングノジョーは、天皇賞馬ジャスティンパレスや、米国のクラシック勝ち馬で人気種牡馬のパレスマリスを兄に持つ超良血。デビュー前の調教ではダート最強馬レモンポップを煽るなど目立つ動きを見せ、そのとおり新馬戦を完勝した。

今回もクリストフ・ルメール騎手を鞍上に配し必勝態勢。デビュー2連勝での重賞制覇が懸かっていた。

これに続いたのがパーティハーン。欧州の人気種牡馬で、2024年の英・愛2歳リーディングサイアーに輝いたウートンバセット産駒の持ち込み馬パーティハーンもまた、セレクトセールにおいて税込2億9700万円で落札された高馬。初戦こそ2着に惜敗したものの、2戦目は逃げて上がり最速をマークし、2着に5馬身差をつける圧勝で初勝利を手にした。

管理するのは、圧倒的な成績で2024年の最多賞金獲得調教師となった友道康夫調教師。西の名門からスター候補誕生なるか、注目を集めていた。

そして、3番人気となったのがゲルチュタール。今回と同じ中山芝2000mの葉牡丹賞で、レコード決着のハナ差2着に惜敗したゲルチュタールは、母の半弟キラーアビリティも2021年のホープフルSを制覇。前走内容はもちろん、血統面からもコース適性の高さが証明されている。

管理するのは、毎年のようにリーディング上位に名を連ね、先日も管理馬が中山の重賞を制した杉山晴紀調教師。トップステーブルからまた一頭クラシック候補が誕生するか、こちらも大きな注目を集めていた。

以下、GⅠ馬アエロリットの半弟ガルダイア。京成杯連覇が懸かる横山典弘騎手と、競馬学校時代の同期だった松永幹夫調教師が管理するマテンロウムーブの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、全馬ほぼ揃ったスタートを切るも、ミニトランザットが内に寄れたガルダイアの影響を受け、後方からのレースを余儀なくされた。

一方、前はタイセイリコルド、インターポーザー、ガルダイアの3頭が横並びとなって1コーナーに進入。最内枠のタイセイリコルドが、コーナリングで主導権を握った。その後ろの3番手に早くもキングノジョーがつけ、控えたインターポーザーと併走。3馬身差の5番手をセンツブラッドとコスモストームが追走し、鞍上の三浦皇成騎手にやや促されていたゲルチュタールがさらに3馬身差の中団を追走。ドラゴンブーストを挟んだ9番手にパーティハーンが位置していた。

1000m通過は58秒3と速く、先頭から最後方のミニトランザットまでは20馬身近い差。かなり縦長の隊列となったものの、そこから徐々にペースが落ち、4コーナー手前では10馬身ほどの一団に。すると、ここでキングノジョーが早くも先頭に立って、再びペースアップ。それでも馬群はさらに凝縮する中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、キングノジョーがスパートしてリードは2馬身。しぶとい脚を使って追ってきたのはドラゴンブーストで、ついに残り100m地点でキングノジョーを捕えると、そこからは一転して粘り込みを図った。

ところが、坂の途中で3番手に上がっていたニシノエージェントが、坂上でもう一段加速。前2頭との差を一気に詰めると、ゴール寸前でこれら2頭をまとめて交わしさり1着でゴールイン。ドラゴンブーストがクビ差2着となり、最後方から追い込んだミニトランザットが1/2馬身差3着に入った。

良馬場の勝ちタイムは1分59秒9。後方から鮮やかな追込みを決めたニシノエージェントが、未勝利戦からの連勝で重賞初制覇。クラシック戦線に名乗りを上げた。

各馬短評

1着 ニシノエージェント

ややアオり気味のスタートで後方10番手からの競馬となるも、津村明秀騎手が馬のリズムを重視し、序盤はそこで待機。その後、3コーナー過ぎから徐々に前との差を詰めると、4コーナーで僅かの間、進路をなくす場面があったものの、ここで脚を溜められたことが最後のさらなる伸びに繋がった。

レース後、津村騎手が「すべてが上手くいった」とコメントしたとおり、展開の助けがあったとはいえ、力がなければ出来ない追込み。スローの瞬発力勝負だと分が悪そうだが、今回のような持久力勝負、我慢比べの展開になれば、今後も出番があるのではないだろうか。

2着 ドラゴンブースト

スクリーンヒーロー産駒らしく、長く良い脚を使って勝利寸前までいったものの、最後の最後で勝ち馬に捕まってしまった。

勝ち馬が4コーナーで僅かに進路をなくした際に前を走っていたのがドラゴンブーストで、勝負所ではむしろ、こちらのほうが上手くいっていた。そのせいか、最後の最後で同馬に差されてしまったが、スパートのタイミングを責めることは出来ず、むしろ丹内祐次騎手の騎乗はほぼ完璧といっていい内容GⅠに向けて、再び賞金加算できたことも非常に大きい。

3着 ミニトランザット

スタート直後に不利を受け、最後方からのレースとなるも、しぶとく追い込んで3着を確保。ただ、2着馬とは対照的に、賞金加算できなかったのは痛恨だった。

惜しまれるのはスタート直後の不利と、直線で徐々に外へ膨れてしまった点。真っ直ぐ走れていれば、2着争いを制することができていたかもしれない。

半姉に2024年のフェアリーSを制したイフェイオン。母の半妹に、同年の福島牝馬Sを勝利したコスタボニータがいる血統。この馬もまた、小回りの持久力勝負で度々出番があるのではないだろうか。

レース総評

前半1000m通過が58秒3で、同後半が61秒6とかなりの前傾ラップ。先頭が5度入れ替わる乱戦となり、差し、追込み馬が上位を独占した。

その中で、0秒2差の4着に粘ったキングノジョーは道中3番手に位置。人気を背負う立場でもあり、早目先頭から勝ちにいくなど負けて強しの内容で、この先、大レースを勝利してもなんらおかしくない逸材といえる。

ちなみに、京成杯が2000mでおこなわれるようになった1999年以降、前半1000mが今回より速かったのは2004年だけ(前半1000m通過58秒0)で、勝ち時計が2分を切ったのも2004年と今回だけ。このとき3着に敗れたのが後のダービー馬キングカメハメハで、同馬にとっては生涯唯一の敗戦。また、4着スズカマンボも翌年の天皇賞(春)を制するなど、後から振り返ってみれば非常にレベルの高い一戦だった。

馬場差などがあるため、20年以上前のレースと単純比較することはできないが、キングノジョーはもちろん、今回上位を独占した差し、追込み馬も、展開の助けがあったからといって安易に軽視すべきではないだろう。

勝ったニシノエージェントはイスラボニータの産駒で、同産駒は、初年度の現6歳世代から4頭のJRA重賞勝ち馬が出ているものの、今のところ4、5歳世代は重賞未勝利。ただ、5歳世代にはオープン馬が複数おり、今後も重賞ウイナーが複数出てくるだろう。

また、京成杯に出走したイスラボニータ産駒は、2023年の2着馬オメガリッチマンに次いで2頭目。同馬も単勝118倍の評価を覆しての激走だった。

さらに、イスラボニータと同様に京成杯で強さを発揮しているのがロベルト系種牡馬の産駒。今回はエピファネイア産駒3頭、スクリーンヒーロー産駒1頭の計4頭が出走し、2頭が2、3着に好走した。来年以降の京成杯でも、出馬表にイスラボニータとロベルト系種牡馬の名前がないか忘れずにチェックしたい。

一方、ニシノエージェントの母系に目を向けると三代母が名牝マルバイユで、同馬の代表産駒といえば、2011年の桜花賞馬マルセリーナである(他、重賞3勝のグランデッツァ)。結果論になってしまうが、マルセリーナの初仔ラストドラフトは2019年の京成杯勝ち馬で、ノヴェリストの産駒。一方、ニシノエージェントの母ビクトリアスマイルも父がノヴェリストで、これら2頭は非常に似た血統といえる。

さらに、マルバイユの8番仔で、現5歳のオープン馬マルディランダはイスラボニータの産駒。こちらはニシノエージェントと似た血統で、キャリア14戦中13戦でマイル以下のレースに出走してきた同馬が、今後、中山の芝1800mや2000mのレースに出走することがあれば、こちらも忘れずにチェックしたい。

写真:s1nihs

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