![[重賞回顧]今度は決めたマクリ一閃! ファウストラーゼン&杉原誠人騎手が、王者に再び挑戦状を突きつける勝利〜2025年・弥生賞ディープインパクト記念~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/03/IMG_9412.jpeg)
近年の出走動向の変化を踏まえ、GⅠの前哨戦が1、2週間前倒しでおこなわれる中、例年どおりの日程で開催された弥生賞ディープインパクト記念。3着までに皐月賞の優先出走権が付与される点は変わらないものの、混戦の牝馬クラシック路線とは対照的に、牡馬はホープフルSを勝ったクロワデュノールにライバルたちがどれだけ迫れるかが焦点となっている。
実際、クロワデュノールに敗れたサトノシャイニングやマスカレードボールが、後に重賞を制覇。皐月賞で再戦を予定しており、このレースにも、ホープフルSでクロワデュノールに敗れた馬が4頭出走した。
さらに、重賞ウイナーの参戦こそなかったものの、朝日杯フューチュリティS好走馬やデビューから無敗の馬など好素材が複数出走。ただ、裏を返せば主役不在の混戦で、5頭が単勝オッズ10倍を切る中、最終的にミュージアムマイルが1番人気に推された。
デビュー戦こそ3着に敗れるも、未勝利戦と黄菊賞を連勝したミュージアムマイルは、続く朝日杯フューチュリティSで出遅れを挽回し2着に好走。ビッグタイトル獲得はならなかったものの、賞金加算に成功した。
賞金面で皐月賞出走はほぼ確実な状況とはいえ、今回は重賞初制覇が懸かる一戦。同時に、1ヶ月後の大舞台へ弾みをつけたいレースでもあった。
これに続いたのがヴィンセンシオ。
8月の新馬戦で初陣を飾ったヴィンセンシオは、3ヶ月の休養をはさんで出走した葉牡丹賞をレコード勝ち。デビュー2連勝とした。
この葉牡丹賞は、ウイニングチケットやレイデオロらダービー馬をはじめ、後のGⅠ馬を複数送り出してきたレース。それ以来3ヶ月半ぶりの実戦となる今回はクリストフ・ルメール騎手とのコンビ再結成が叶い、なんとしても優先出走権を獲得したい一戦だった。
そして、3番人気に推されたのがナグルファルだった。
10月の新馬戦を快勝したナグルファルは、2ヶ月後のエリカ賞を連勝。このエリカ賞もまた、後のダービー馬が4頭、それ以外にもGⅠ馬が複数勝利した出世レースで、2着に4馬身差をつける完勝だった。
3ヶ月ぶりの実戦となる今回は、ヴィンセンシオと同じく、是が非でも優先出走権を獲得したい一戦。杉山晴紀厩舎からまた一頭クラシック候補が誕生するか、大きな注目を集めていた。
以下、こちらも出世レースの若駒Sを勝利したジュタ。前走、同じコースでおこなわれた1勝クラスで2着に惜敗したアロヒアリイの順に人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートからヴィンセンシオが押し出されるように先頭。ベストシーンがこれに続き、3番手以下もナグルファルやジュタなどが一団となって、計7頭が先行集団を形成した。
一方、中団はアスクシュタイン、ミュージアムマイル、マイネルゼウスが半馬身間隔で追走する中、1000mのハロン棒を通過(1000m通過は1分0秒9のミドルペース)する直前、またしてもマクリを敢行したファウストラーゼンが最後方から一気に先頭へ。ヴィンセンシオに対して2馬身のリードを取った。
その後、一度はやや縦長となった隊列も、4コーナー手前で再び凝縮。後方に位置していたミュージアムマイルとアロヒアリイが馬群の大外からポジションを上げ、2番手のヴィンセンシオに並びかけようとする中、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入ると、ヴィンセンシオがファウストラーゼンを交わし先頭。体半分前に出たものの、坂の途中で差し返したファウストラーゼンが再び1馬身のリードを取った。一方、3番手からはミュージアムマイルとアロヒアリイが末脚を伸ばし、この争いを制したアロヒアリイが残り50mでさらに加速してヴィンセンシオとともに前に迫るも、これらの追撃を凌ぎ切ったファウストラーゼンが1着でゴールイン。クビ差2着はヴィンセンシオで、同じくクビ差3着にアロヒアリイが続き、これら3頭が皐月賞の優先出走権を獲得した。
稍重馬場の勝ち時計は2分1秒3。ホープフルSと同様、向正面でマクったファウストラーゼンと杉原誠人騎手の作戦が今度は実を結び、重賞初制覇。前走敗れたクロワデュノールに再び挑戦状を突きつけた。

各馬短評
1着 ファウストラーゼン
スタート後、内にヨレて後方からの競馬を余儀なくされるも、流れが遅いとみるや一気にスパート。ヴィンセンシオに並びかけることなく逆に2馬身のリードを取り、再度息を入れられたことが直線での差し返し、二枚腰に繋がった。
馬場が渋っていたことも味方したとはいえ、自身のスタイルを貫いて勝ち切った点は本当に立派。皐月賞はスローペースになることが少なく持久力勝負になりやすいため、マクる場面こそないかもしれないが流れは向くはずで、みたび好勝負を演じてもなんら不思議ではない。

2着 ヴィンセンシオ
誰もいきたがらない展開の中、押し出されるように先頭へ。その後、ファウストラーゼンにマクりきられても戦意喪失することなく直線で再びファイト。坂下で先頭に立ったあと差し返されるも、もう一度差し返しクビ差まで迫った。また、前走比プラス10kgでも太くは見えず、成長があった中で内容が伴った点も大きかった。
血統を見ると、2代母は名牝シーザリオで、このレースにも産駒を送り出した種牡馬エピファネイア、リオンディーズ、サートゥルナーリアの3兄弟は、本馬からみるとおじ(母のきょうだい)にあたるという超名門の出身。そのうち、サートゥルナーリアは2019年の皐月賞馬で、一族2頭目の同レース制覇が懸かる。
3着 アロヒアリイ
一旦は最後方まで位置を下げるも、3、4コーナー中間から馬群の大外を回ってミュージアムマイルとともにスパート。それが響いたか、直線で決定的な末脚を繰り出すことはできなかったが、最速の上がりでジリジリと差を詰め、僅かのところまで迫った。
前走、中山芝2000mの1勝クラス2着から好走するパターンは、2024年の当レース覇者コスモキュランダと同じ。一方、血統を見ると、父がドゥラメンテ、母父はオルフェーヴルで、これは2022年のホープフルS勝ち馬ドゥラエレーデと同じ組み合わせ。さらに、ダービー馬フサイチコンコルドと皐月賞馬アンライバルドの兄弟や、皐月賞馬ヴィクトリーなどと同じ一族で、この馬もまた超名門の出身である。
父ドゥラメンテの皐月賞を彷彿とさせるコーナリングなど粗削りな面が目立つも、潜在能力はトップクラス。伸びしろも大きそうで、今回のメンバーで将来が最も楽しみなのはこの馬だろう。

レース総評
1000m通過は1分0秒9のミドルペースも、ファウストラーゼンがまくった6ハロン目、続く7ハロン目が11秒5-11秒7と速かった。逆に、ラスト3ハロンは37秒2を要する我慢比べで、降雪の影響で馬場が渋ったことも相まって、若駒にとっては厳しいレースとなった。そのため、上位3頭に関しては、いかに早く疲れを取るかが本番好走へのカギになるだろう。ただ、見ている側としては動きのある面白いレースだった。
勝ったファウストラーゼンは、この世代が初年度となる新種牡馬モズアスコットの産駒。2024年に産駒がデビューした新種牡馬によるJRA重賞制覇は、京王杯2歳Sの覇者パンジャタワーの父タワーオブロンドン、クイーンCを制したエンブロイダリーの父アドマイヤマーズに続いて3頭目だった。
ただ、現役時のモズアスコットが2000mのレースに出走したのは4着に敗れたデビュー戦だけ。さらに、1800mも3戦すべて4着以下で、そんな同馬の産駒重賞初制覇が2000mだったというのは、血統の面白いところであり摩訶不思議なところともいえる。
一方、母父はスペシャルウィークで、1998年の当レースを制するなど現役時に重賞を9勝。そのうち8勝が2000m以上で、ファウストラーゼンがこの距離をこなせるのは、同馬の特性を受け継いだからではないだろうか。

そのスペシャルウィークは、父として牡馬のGⅠウイナーも複数送り出した。しかし、それ以上に強調すべき実績は、史上唯一、日米オークスを制したシーザリオと、GⅠ6勝のブエナビスタという歴史的名牝を2頭輩出したこと。そのため、これら2頭に限らず牝馬の産駒は繁殖に上がっても大変優秀で、前述したシーザリオの産駒3頭を筆頭に、NHKマイルカップ勝ちのクラリティスカイ。秋華賞と英国のナッソーSを制したディアドラ。チャンピオンズC覇者のジュンライトボルト。そして、JBCスプリントを勝ったタガノビューティーはいずれも母父がスペシャルウィークで、様々なカテゴリーのビッグレースを勝利している。
ファウストラーゼンに話を戻すと、初戦は父が得意としたマイル戦で9番人気10着と大敗するも、続く2000mの未勝利戦でチークピーシーズを装着し一変。単勝22倍の評価を覆して初勝利を手にすると、馬具をブリンカーに変え、杉原騎手に乗り替わったホープフルSは単勝303倍の17番人気に甘んじたものの、向正面でマクったことが功を奏し3着に激走した。
ただ、GⅡ以上のレースで2戦連続マクリを決め、なおかつ好走する例はまれ。こういった個性派は現代競馬において大変貴重で、この先の実績はもちろん、競馬界を盛り上げるような人気者になることを願わずにはいられない。
また、栗東・西村真幸調教師の管理馬の鞍上を、美浦の杉原騎手が任されている点も応援したくなるポイント。ファウストラーゼンの調教に騎乗するため栗東トレセンへと出向いた杉原騎手は、改めて心肺能力の高さを感じ取り、陣営としっかり作戦を共有していた。マクりという奇襲をかけられるのは、騎手、馬、厩舎の信頼関係が強固ななによりの証。クロワデュノールの牙城は間違いなく高いものの、本番で雪辱を果たすようなことがあれば、これ以上なく感動的な勝利となるだろう。

写真:水面