[重賞回顧]30年越しに花開いた名牝の血。追い比べを制したカムニャックが樫の女王戴冠!~2025年・オークス~

桜花賞の1から3着馬による三強対決の図式となった2025年のオークス。思い返せば、ウイニングチケット、ビワハヤヒデ、ナリタタイシンによる対決や、アドマイヤベガ、ナリタトップロード、テイエムオペラオーによる再戦など、三強対決と称されたダービーは数あれど、ここまで明確に三強の図式となったオークスはあまり記憶に無い。

桜花賞から実に800mも延長となるオークスは、3歳の乙女たちにとってまだまだ厳しい条件。そのうえ、関西馬は遠征も控えており、桜花賞の結果が府中の2400mでそのまま反映される場面を想像しにくいのだろうか。

それでも、今回はオッズ3.3倍から3.7倍の間に三強がひしめき、4番人気は14.3倍と大きく離されるという明確な図式。

二冠達成か。2歳女王の逆転か。GⅠ初制覇か。それぞれの思いが入り乱れる中、1番人気に推されたのはエンブロイダリーだった。

デビュー当初は勝ったり負けたりを繰り返していたエンブロイダリーが本領を発揮したのは2走前のクイーンC。1分32秒2という出色のタイムで重賞初制覇を果たすと、そこから直行で臨んだ桜花賞も制し、見事、桜の女王の座に就いた。

父がマイルGⅠ3勝のアドマイヤマーズとはいえ、二代母の姉は2009年のオークスなどGⅠを6勝したブエナビスタということもあり、4連勝での二冠達成が期待されていた。

僅かの差でこれに続いたのがアルマヴェローチェ。

8月札幌の新馬戦で初陣を飾ったアルマヴェローチェは、出世レースの札幌2歳Sでも2着に好走。そこから3ヶ月の休養をはさんだ阪神ジュベナイルフィリーズを快勝し、2歳女王に輝いた。

そして、シーズン初戦となった前走の桜花賞はエンブロイダリーに敗れるも、タイム差なしの2着に好走。ここまでの4戦すべてで連対するなど安定感も魅力で、2つ目のビッグタイトル獲得なるか、注目を集めていた。

そして、3番人気となったのがリンクスティップだった。

初戦こそ2着に惜敗するも、続く未勝利戦を完勝したリンクスティップは、いきなりの重賞挑戦となったきさらぎ賞でも2着に好走。そこから挑んだ桜花賞はスタートで他馬と接触し、一時は大きく離された最後方に位置したものの、直線で猛然と追い込み3着と健闘した。

このレース内容や血統から、距離延長を歓迎材料とする声も多く、逆転でのGⅠ制覇なるか注目を集めていた。

以下、トライアルのフローラSを快勝したカムニャック。桜花賞は5着に敗れるも、1番人気の支持を受けていたエリカエクスプレスの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと全馬ほぼ揃ったスタートを切るも、隣の馬に寄られたタガノアビーが後方からの競馬。一方、前は僅かに好スタートを切ったアルマヴェローチェを交わしてレーゼドラマとサタデーサンライズの4枠2頭が先行し、さらにそれらを制したエリカエクスプレスが大外から主導権を奪った。

2番手につけたのはケリフレッドアスクで、4枠2頭を挟んだ5番手に、アルマヴェローチェ、エンブロイダリー、サヴォンリンナが位置。中団は、ウィルサヴァイブとパラディレーヌが併走し、そこから1馬身差の10番手を追走していたのがブラウンラチェットで、アイサンサン、カムニャックと続いた。

一方、後方はバラバラの展開となり、レーヴドロペラ、リンクスティップが4馬身差で続き、そこから3馬身差でタイセイプランセスとビップデイジー。ゴーソーファーを挟んだ最後方にタガノアビーが控えていた。

1000m通過は1分0秒0のミドルペースで、先頭から最後方までは22、3馬身ほどの差。その後、残り1000mの標識を過ぎたところから後方各馬が差を詰めたことで馬群が凝縮したものの、隊列に大きな変化はないままレースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、ケリフレッドアスクがエリカエクスプレスに並びかけるも、2頭の間を割ったアルマヴェローチェが坂上で先頭。後続を突き放しにかかった。

ところが、それも束の間。馬場の中央から追い込んできたカムニャックがこれに並びかけると、残り200mからは2頭の激しい追い比べとなり、最後はグイッと前に出たカムニャックが先頭ゴールイン。惜しくもアタマ差及ばなかったアルマヴェローチェが2着となり、パラディレーヌとの接戦を制したタガノアビーが3着に入った。

良馬場の勝ち時計は2分25秒7。フローラSから中3週の再東上をものともしなかったカムニャックが連勝でクラシック制覇。鞍上のアンドレアシュ・シュタルケ騎手にとっては日本で待望のGⅠ初制覇となり、管理する友道康夫調教師は、現役最多タイとなる23度目のJRA・GⅠ制覇となった。

各馬短評

1着 カムニャック

スタート後すぐ内に寄れたものの、焦らずライバルたちを前にやって、中団やや後方に待機し末脚を温存。前半引っ掛かる面を見せたフローラSから一転、折り合いを欠く場面はなく、直線、坂の途中でスパートすると、アルマヴェローチェとのマッチレースを制した。

エルフィンS4着後、桜花賞をスパッと諦めたことが最高の結果を生むことに。現代競馬は、いわゆる「直行ローテ」が主流になりつつあるものの、カムニャックに関しては前哨戦に出走したほうが本番で好結果に繋がるかもしれない。

2着 アルマヴェローチェ

内枠やや有利なダービーとは対照的に、近年は外枠からの差しがきまりやすいオークス。今回も結果的にはそうなり、グレード制導入以降、勝ち馬0の最内枠を引いたことは悔やまれるものの、限りなく勝ちに等しい内容だった。

過去2頭の秋華賞馬を送り出しているハービンジャーの産駒。デビューから5戦すべて連対と安定感がなによりの武器で、よほどのことが無い限り、同世代の牝馬との戦いで大きく崩れることは考えにくい。

3着 タガノアビー

スタート直後の不利が悔やまれるものの、最後方待機から直線内を突き激走。自身の上がり33秒5はレース上がりより1秒以上も速く、十分すぎるほど見せ場を作った。

臨戦過程としては、フローラS5着からの連闘で矢車賞を勝利し、さらに中2週でこのレースに臨むという過酷なもの。それでも、当日のパドックでは元気に外々を周回し、馬体重も前走比4kg減に留めていた。

父アニマルキングダムは、1ヶ月強で終了するという非常に過酷な米国の三冠レースを走破し、ケンタッキーダービーを制覇。それ以外にも、オールウェザーのドバイワールドCを勝ち、芝のブリーダーズCマイルでも2着に好走するなど「三刀流」で活躍した。

一方、同馬の翌年にケンタッキーダービーを制したのが母の父アイルハヴアナザー。こちらは、続くプリークネスSで二冠を達成したものの、三冠制覇が懸かったベルモントSの直前に屈腱炎が判明し前日に取消、そのまま引退となったが、タガノアビーのタフさは、これら2頭から受け継いだものかもしれない。

レース総評

レース前日の夕方から当日朝8時までに23.5ミリの降雨を観測した東京競馬場は稍重スタート。ただ、クッション値は8.9と標準の値で、含水率は4コーナーが18.3、ゴール前は17.3と稍重の中でも良に近く、14時頃に良へと回復した。それでも、レースが始まると直線は大半の馬が内柵沿いを避け、馬場の中央から外へ進路をとった。

そんな中おこなわれたオークスは、1000m通過が1分0秒0。最初の3ハロンが34秒8とまずまず速かったためミドルペース判定となったものの、隊列が決まった4ハロン目からは6ハロン連続で12秒5以上を要し、この1200mは1分16秒2と、いわゆる中だるみの流れに。一転、ラスト3ハロンは11秒6-11秒4-11秒7で、瞬発力勝負、差し比べとなるも、適度に水分を含んだ馬場だったため、スタミナや底力も含めた総合力が問われるレースとなった。

結果、7着までに入った馬のうち、6頭が4コーナーを8番手以下で通過した差し・追込み馬。先行馬の中では、4コーナーを5番手で通過したアルマヴェローチェだけが2着に好走し、勝ち馬と同等の評価を与えられる内容だった。

勝ったカムニャックは父がディープインパクトの全兄ブラックタイドで、産駒2頭目のJRA・GⅠ制覇。もう一頭のGⅠウイナーはもちろんキタサンブラックで、そこから世界ナンバーワンホースとなったイクイノックスが誕生している。両馬は、既に人気種牡馬の地位を確立しており、このサイアーラインもしばらく安泰といえるのではないだろうか。

また、キタサンブラックとカムニャックの共通点といえば、なんといっても母父がサクラバクシンオーであること。同馬を生産した社台ファームの吉田照哉代表も「キタサンブラックがいたから、サクラバクシンオーの牝馬にブラックタイドをつけた」とコメントしているが、注目したいのは3代母ダンスパートナーの存在である。同馬は、大種牡馬サンデーサイレンスの初年度産駒で、初の牝馬クラシック勝ち馬。そのレースこそが1995年のオークスで、名門・社台ファームが大切にしてきた血脈が、30年の時を経て再び府中の2400mで花開いた。

一方、もうひとつ注目したいのがカムニャックの臨戦過程。過去5年におけるオークスの3着内馬15頭中10頭は前走桜花賞組で、前走フローラS組は[1-1-0-16/18]と分が悪かった。しかも、今年の桜花賞1から5着馬は、すべてトライアルに出走しなかった直行組。そのため、消耗との戦いともいわれる牝馬クラシックにおいて、このアドバンテージは非常に大きいかと思われた。

ところが、オークスを勝利したのは、フローラSから中3週の再東上にもかかわらず、前走から馬体重を4kg増やして出走したカムニャックで、これら2レースを連勝したのはサンテミリオン以来15年ぶり。さらに、3着タガノアビーに至ってはフローラSで権利を取ることができず、連闘で矢車賞を勝利してこのレースに臨んできた強行軍だった。

この矢車賞は、京都芝2200mでおこなわれる牝馬限定1勝クラスの特別戦。2021年のオークスで16番人気ながら3着に激走したハギノピリナも前走矢車賞組で、抽選を突破しなければならないという別の課題はあるものの(今年は賞金のボーダーが低く、タガノアビーは抽選の対象にならなかった)、今後、この臨戦過程が関西馬の新たなトレンドになるかもしれない。

写真:だいゆい

あなたにおすすめの記事