"GⅠへの登竜門"の真骨頂〜2013年・東京スポーツ杯2歳ステークス〜

数ある2歳重賞の中でも、出世レースとして名高いのが東京スポーツ杯2歳ステークスではないだろうか。
2019年の勝ち馬コントレイルが、翌年に史上初となる親子二代無敗の三冠を達成。2005年から実に12年連続で当レースの出走馬が後にGⅠを制していて、2018年の出走馬からGⅠ勝ち馬が出ればこの記録はさらに伸びることとなる(2020年11月現在)。

出走頭数の面からみると、2017年の7頭立てや2019年の8頭立てのように、比較的少頭数に落ち着く年がある。そうした条件下でこのGⅠ勝ち馬の輩出率は、かなり高いといえるだろう。
今回は、出走馬15頭中3頭が後にGⅠを制し、レース史上屈指の「お宝レース」となった、2013年の東京スポーツ杯2歳ステークスを振り返りたい。

この年は、15頭立てと例年よりも多頭数のメンバー構成。
しかしながら1番人気馬の最終的な単勝オッズは1.8倍と、少し抜けていた。
その圧倒的人気に推されたのが、サトノアラジンである。

8月新潟の新馬戦を楽勝しここに出走してきたこの馬の血統は、父ディープインパクト、母の父ストームキャットという、今ではお馴染みの黄金配合だった。同年に桜花賞を制したアユサンとダービーを制したキズナもこの黄金配合を持ち、またサトノアラジンの全姉にあたるラキシスが前週のエリザベス女王杯で2着に惜敗したこともまた、この配合に注目が集まるきっかけとなっていた。

対する2番人気に推されたのはイスラボニータ。
2歳馬がデビューし始める6月1週目の新馬戦を快勝した後の新潟2歳ステークスでは、後の桜花賞馬ハープスターの『神脚』ともいえる追込みに屈し2着惜敗となったが、前走のいちょうステークスは快勝。父フジキセキは2011年以降種付けが行われていなかったため、早くも『フジキセキ産駒、最後の大物』の呼び声が上がっていた。

3番人気に続いたのは、サトノアラジン同様、父ディープインパクト×母の父ストームキャットの黄金配合を持つラングレー。
矢作厩舎所属で父ディープインパクトといえば、2年前に当レースを制し、後に日本ダービーを優勝したディープブリランテと同じということも人気を集める要素になった。以下、プレイアンドリアル、クラリティシチー、ウインマーレライ、リターンラルク、ワンアンドオンリーと人気は続いた。

ゲートが開くと、クラリティシチーがほんの少し出遅れた以外はほぼ揃ったスタートとなったが、まず内からオールステイがハナを奪う。その後にウインマーレライがつけ、イスラボニータとラングレー、そしてプレイアンドリアルの上位人気馬が好位を確保した。

他の上位人気馬では、ワンアンドオンリーとサトノアラジンがちょうど中団を追走し、クラリティシチーがその直後まで盛り返したところで1000mを通過。59秒6という平均より少し遅めのペースで前半は推移した。大欅の向こうを通過し、そのまま隊列は変わらず4コーナーから最後の直線に向かう。

直線に入ってすぐ、ウインマーレライが馬なりで先頭に立ったが、それを外からプレイアンドリアルが交わしていく。

地方所属馬による久々の中央重賞制覇か──期待の混じったざわめきが起こる。

しかし、道中は内でずっと我慢していたイスラボニータがそこに馬体を併せ、その快挙を阻まんとする。馬場の中央からはラングレーが、外目からはクラリティシチーとサトノアラジンが勢いよく伸びてくるが、前の二頭からは差がありどうやら届きそうにない。

その3着争いを尻目に、馬場の内側で叩き合いを展開するイスラボニータとプレイアンドリアル、そして蛯名騎手と柴田大知騎手。

ホッカイドウの雄か、フジキセキ産駒最後の大物か。

しかし、最後はイスラボニータが半馬身前に出たところを、プレイアンドリアルが再度クビ差まで追い詰めた地点にゴール板があった。

重賞初制覇を達成したのは、イスラボニータ。

プレイアンドリアルは非常に価値ある、惜敗の2着。
スタートで後手を踏んだクラリティシチーが上がり最速で追込み1馬身4分の1差の3着。以下、ラングレー、サトノアラジン、ワンアンドオンリーの順で入線した。

勝ちタイムの1分45秒9は、JRA史上初めて2歳馬が芝1800mで1分46秒の壁を破る好タイムとなった。

そして、このハイレベルのスピード決着となった好レースは、出走各馬のその後の明るい未来を暗示しているかのようだった。まず、勝ち馬のイスラボニータは年明けの共同通信杯を快勝すると皐月賞も勝利して4連勝。フジキセキ産駒最後の大物の呼び声通り、父にとって最初で最後のクラシック勝ち馬となった。秋にセントライト記念を勝って以降は2年半、惜敗を繰り返し勝ち星に見放されていたが、6歳の春にマイラーズカップを勝つと、引退レースとなった年末の阪神カップではレコード勝ちを収め、最高の花道を飾ったのだった。

一方、そのイスラボニータを日本ダービーで破ったのは、東京スポーツ杯2歳ステークスでは8番人気6着と、当時まだ注目があまり集まっていなかったワンアンドオンリーだった。次走のラジオNIKKEI杯2歳ステークスを勝利すると、さらにそこからめきめきと力をつけ、一気にダービー馬にまで上り詰めてしまったのである。

また、当時1番人気に推されていたサトノアラジンは、5歳の京王杯スプリングカップまで重賞初制覇の時を待たなければならなかったものの、6歳の安田記念でついに念願のGⅠ初制覇を達成。上述した二頭と共に仲良く2018年から種牡馬入りし、逃げて13着となったオールステイも2017年から種牡馬入りし、こちらは一足先に2020年から産駒がデビューを果たしている。

とりわけ、イスラボニータとサトノアラジンはセリで上場された産駒の評価が非常に高く、多くの馬が高額で落札され、それぞれフジキセキとディープインパクトの後継種牡馬としてさらなる期待を集めている。

他に、2着馬プレイアンドリアルが年明けの京成杯で地方所属馬としては7年ぶりの重賞制覇を達成し、9着馬ウインマーレライも翌夏のラジオNIKKEI賞で重賞を制覇するという、まさに後の活躍馬の宝庫となったのが2013年の東京スポーツ杯2歳ステークスだった。

GⅠ制覇への登竜門となるだけでなく、さらにその先の未来を明るく照らすことになるかもしれないレース。
東京スポーツ杯2歳ステークスのレースぶり──そして出走馬に広がる未来から、目が離せない。

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