競馬ファンにとって初夏の到来を告げると言ってもいい北海道開催が、遂に今週からスタート。開催初週となる函館競馬場では、土曜日の第1レースのファンファーレとともに万雷の拍手が鳴り響いていた。私事だが昨年まで北海道に身を置いていた者としては、どこか懐かしく、それでいて嬉しくなる時期でもある。
そんな初夏の第1週。毎年恒例の電撃の1ハロン戦、函館スプリントSが幕を開ける。過去の勝ち馬にはマサラッキやビリーヴ、シーイズトウショウ、キンシャサノキセキにカレンチャンなど短距離界の主役を張った馬達がずらりと顔を並べるほか、勝つことは叶わなかったもののロードカナロアやタワーオブロンドン等、参戦してくる馬達はいずれも短距離界のスターホース、または将来そう呼ばれることの多い馬達が数多い名物重賞が、2年ぶりに函館の地で行われた。
2021年は東京オリンピック開催の影響により札幌競馬場で開催されたが、2022年は舞台を函館に戻しての開催。桜花賞でのちの2冠牝馬スターズオンアースの3着に突っ込んだナムラクレアが1番人気に推され、春雷Sで見事な抜け出し勝利を収め充実一途を辿ると見られたヴェントヴォーチェが2番人気。
3番人気に前年の勝者で連覇を狙うビアンフェが続き、前年のフィリーズレビュー勝ち馬で前走の鞍馬Sを見事な差し切りで勝利したシゲルピンクルビーまでがひとケタ台の人気に推されていた。
そのほかにもしぶとく粘るボンセルヴィーソ、前年葵SとキーンランドCを連勝したレイハリア、高松宮記念でブービー人気ながら3着に突っ込んで観衆の度肝を抜いたキルロードなど、人気を落としていた馬達も個性派揃いで2022年のサマースプリントシリーズは幕を開けた。
レース概況
快晴の下スタートが切られ、最内に入った3歳牡馬プルパレイとこれが7か月半ぶりのレースとなる古豪ペプチドバンブーが若干の立ち遅れを見せるほかはほぼ横並びでスタートを切る。
このレースで初コンビとなったレイハリアと松岡正海騎手が大外から手綱をしごいて前へ行こうとするが、昨年の覇者ビアンフェはやはりハナを譲らず内から先頭に立つ。その後ろの3番手の絶好位に50キロの最軽量を背負った1番人気ナムラクレアがつけ、シゲルピンクルビーとキルロードまでが先行集団。
中団馬群に西村騎手とヴェントヴォーチェがつけ、逃げの手に出るかと思われていたボンセルヴィーソもこの日は中団から。出遅れたプルパレイもこの中団馬群に取り付き、集団から3馬身くらい離れた位置にダイメイフジ、ファーストフォリオ、タイセイアベニールが位置。離れた最後方にペプチドバンブーといった様相で600mを通過していった。
その通過タイムは32.7。開幕週とは言えかなりのハイペースに近しい。とは言え昨年同様のペース。このままビアンフェが4コーナーで他を振り切りにかかるかにも思えたが、この日は早くも4コーナーでいっぱいの様相。代わって外からレイハリアが先頭に立つと、そのまま後退していった。
直線に向くとレイハリアの外から50キロの軽量も味方につけたかナムラクレアが物凄い脚で伸び始め、一瞬で先頭に立つ。その末脚は止まることなくみるみるうちに後続を突き放していく。
前半のハイペースも影響したか、2番手争いからはジュビリーヘッドが抜け出したものの3着争いはごった返しの大混戦。しかしそんな様相を尻目に2と1/2馬身後続を突き放したナムラクレアは、着差以上の完勝劇を我々に見せつけて重賞2勝目を飾ったのだった。
3歳牝馬の函館スプリントSの制覇は2017年のジューヌエコール以来5年ぶり。また鞍上の浜中俊騎手にとっても50キロでの騎乗自体が2008年以来14年ぶりとなる騎乗での勝利。その素材にほれ込んだ主戦として、執念の減量は確実に実を結んだ。
上位入線馬及び注目馬短評
1着 ナムラクレア
50キロの斤量の恩恵があったにせよ、流石の勝ち方と言わざるを得ない。前半32秒台のハイペースを3番手で進み、ロスなく一瞬でレイハリアを置き去りにしたその末脚は桜花賞でスターズオンアース、ウォーターナビレラを追い詰めた時同様切れに切れており、古馬相手でも十分に通用するところを見せてくれた。
桜花賞では3着に健闘したが1600mはやや長い印象も否めず、本質的には1200から1400で輝くスプリンタータイプだろう。
この後の短距離戦線での活躍に益々期待は高まる一方だ。引き続き注目したい。
2着 ジュビリーヘッド
オープンクラス昇級初戦がいきなりの重賞初挑戦となった同馬だったが、2着に大健闘。
1200m戦はこれで10戦して掲示板外ゼロ、そのうち9戦は馬券圏内と高いスプリンター適性を見せている。北海道開催もこれで3戦3連対だけに、今後のサマースプリントシリーズ路線でも覚えておいた方がよさそうな一頭だ。
3着 タイセイアベニール
16頭立て13番人気の中3着に突っ込む大金星。だが結果論とはいえ、本年のシルクロードSではメイケイエールと差のない5着(0.3秒差)、前年の鞍馬Sでもクリノガウディーの3着(0.4)と短距離戦線の一戦級相手にも好走を続けており、重賞戦線でも十二分にやれる事を証明した末脚だった。
鞍上の鮫島騎手も後方から焦らず進路を見つけ突き抜けるベストな進路選択だった。
4着 レイハリア
キーンランドCで重賞格連勝をあげた後は京阪杯最下位、高松宮記念も18頭中17着と成績が奮っていなかったが、ここにきて見事な復調の兆しを見せ始めた。
葵S、キーンランドC共に揉まれずスムーズな競馬ができていたことも勝ちの要因に繋がっていたことから、揉まれずすんなり逃げ馬をマンマークする形になったレイハリアは要注意の一頭かもしれない。
5着 キャプテンドレイク
前年暮れの中京1勝クラスでそれまで使われていた中長距離から短距離へと距離短縮をしてから一変、年明けの小倉から3連勝でオープンクラス入りし、昇級初戦となる前走の鞍馬Sでも0.6秒差の7着に入線していた同馬が掲示板に。
内で不利を喰った分仕掛けが遅れたが、最後は確実に差し脚を伸ばしている。上り3Fこそ34.0だが、実際にはスムーズにインを進み3着に突っ込んだタイセイアベニールとそう差の無い末脚を見せていることからも、スムーズなら3着まであったように思える。
距離を短縮してからのこの躍進ぶりは引き続き注視していきたい。
15着 プルパレイ
近走同様再びスタートで出遅れ、直線は蛇行したキルロードの不利をまともに喰うかたちで全く競馬になっていなかった。とはいえ初の1200m戦ながら直線の手応えはよく、スムーズならナムラクレアには及ばないまでも2.3着争いに割って入れていた可能性は十分。
奇しくも同じ3歳世代のナムラクレアとははっきり明暗が分かれる形になってしまったことからも、次走以降の巻き返しに期待がかかる。
16着 ビアンフェ
ペース的には昨年同様のラップを刻んでいたとはいえ、スタートからレイハリアのマークがきつく、ノンストレスで走ることができる状況にはなかった。とはいえ今年に入ってからもオーシャンSでハイペースの中3着に粘っており、まだまだ楽に先手を取ると侮れない存在なのは間違い無い。
総評
ラップタイムが11.7-10.2-10.9-11.2-11.2-12.0と全く緩まずタフなハイペースになった今年の函館スプリントS。先行勢には苦しい展開となる中、見事に上位入線を果たしたナムラクレア、ジュビリーヘッド、レイハリアは今後のスプリント路線でも注目すべき馬達だろう。そしてこのペースを作り出すビアンフェも、まだまだ軽視してはならない存在だ。かつてのモズスーパーフレアのように「超ハイペース」のなかでも逃げ切れた前年の函館スプリントSを忘れてはいけない。
勝利したナムラクレアの父はミッキーアイル。
NHKマイルCとマイルCSを制した彼の鞍上もまた、浜中俊騎手だった。
時を超え、かつての相棒同様短距離路線の覇道を今度は彼の娘と共に歩むのだろうか──。
このレースから始まったサマースプリントシリーズの経過同様、秋に向けて楽しみな戦いがまだまだ続いていきそうだ。夏競馬も競馬界から、一瞬たりとも目が離せない。
写真:安全お兄さん