牝馬三冠レースの最終戦、秋華賞。京都競馬場で改修工事が行なわれているため、2022年も阪神競馬場が舞台となった。
その最大の見所といえば、スターズオンアースが史上7頭目の牝馬三冠を達成できるかどうかという点。オークス後に軽度の骨折が判明し、ぶっつけ本番とはなるものの、秋華賞はオークスからの直行組が4連覇中。むしろ、有利なローテーションともいえる。
一方で、今年のオークスは、スタート直前の輪乗り中にサウンドビバーチェが他馬に蹴られ放馬。予定よりスタートが大幅に遅れ、力を出し切れなかった馬が複数いたということで、物議を醸した。
そのせいか、スターズオンアースの単勝は、アーモンドアイやデアリングタクトのように1倍台前半とはならず、むしろ、オークスの上位入着馬と上位入線馬も交えて卍巴の様相。それでも、僅かの差でスターズオンアースが1番人気に推された。
2戦目で未勝利を脱出。その後の3戦は惜敗が続くも、大混戦の桜花賞で待望の2勝目を挙げ、最初の一冠を手にした本馬。ルメール騎手に乗り替わったオークスでは大外枠を克服し、見事、二冠制覇を成し遂げた。その後、両前脚の骨折が判明するも、不幸中の幸いか軽症で済み、今回が5ヶ月ぶりの実戦。史上7頭目の快挙なるか、大きな注目が集まっていた。
これに続いたのがナミュール。2戦目の赤松賞ではスターズオンアースに勝利し、阪神ジュベナイルフィリーズと桜花賞では1番人気に推されたほどの逸材。それぞれ、出遅れと大外枠に泣きビッグタイトル獲得はならなかったが、オークスでは巻き返し3着に健闘した。この馬もまた、オークス以来の実戦。三冠阻止と春の雪辱、そして念願のGI制覇なるか期待されていた。
やや離れた3番人気となったのがスタニングローズ。2歳時には重賞を3走し、連対することはできなかったものの、3歳になってから4戦3勝2着1回、重賞2勝と本格化。唯一敗れたのは2走前のオークスで、スターズオンアースに最後まで食らいついての惜敗だった。父は、これが最後の世代となるキングカメハメハで、母系はいわゆる薔薇一族という良血。こちらも、オークスの雪辱と最後の一冠奪取なるか注目を集めていた。
そして、4番人気となったのがアートハウス。この馬のベストパフォーマンスといえば、今回と同じコースで行なわれた3走前の忘れな草賞で、ラスト600mの加速ラップをノーステッキで2着に3馬身差の完勝。しかも、最後の1ハロンは11秒1という素晴らしい内容だった。その後オークスは7着に敗れたものの、前走のローズSは着差以上の完勝で重賞初制覇。母のパールコードは2016年の秋華賞で2着に惜敗しており、自身のビッグタイトル獲得は、すなわち母の雪辱も兼ねていた。
レース概況
オークスと同じくサウンドビバーチェが放馬するも、今回は異常なくそのまま出走。発走時刻が遅れることはなかった。
ゲートが開くと、スターズオンアースが出負け。すぐに挽回を試みるも前が塞がり、後方からのレースを余儀なくされた。
一方、前はブライトオンベイスが先頭に立ち、サウンドビバーチェが2番手。その後ろをアートハウスとウォーターナビレラが併走し、5番手にスタニングローズがつけて1コーナーへと進入した。
他の上位人気馬では、中団やや後ろの10番手をナミュールが追走。スタートで後手を踏んだスターズオンアースは、後ろから3番手のインに位置していた。
前半1000mは59秒7で、平均よりほんの少し遅いペース。前から後ろまでは15馬身ほどの差でやや縦長の隊列となるも、最後方のライラックは、馬群から3馬身ほど離れて追走。それを除けば、他の15頭は12馬身ほどの差だった。
その後、ペースが上がったのは残り800mの標識を過ぎてから。3~4コーナー中間で、サウンドビバーチェがブライトオンベイスに並びかけ、アートハウスもこれに続き、4コーナーで前は3頭が横一線。
スタニングローズもポジションを一つ上げ、ナミュールがその直後に迫る中、インに構えていたスターズオンアースは進路がなく、なんと最後方までポジションを下げ、直線勝負を迎えた。
直線に入ってすぐ、サウンドビバーチェとアートハウスが先頭へ。ブライトオンベイスは後退し、入れ替わるようにスタニングローズが前2頭を追い、残り200mで先頭に躍り出た。
そこへ外からナミュールと、馬群を割って追い込んできたスターズオンアースが襲いかかり、特に、坂を上りきってからの伸び脚は急。ゴール前50mで一気に差を詰めたものの、最後の力を振り絞ってもう一伸びしたスタニングローズが、2分の1馬身差をつけ1着でゴールイン。大接戦の2着争いを制したのはナミュールで、ハナ差届かなかったスターズオンアースがこれに続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分58秒6。スタニングローズがオークスの雪辱を果たし、坂井瑠星騎手とともにGI初制覇。高野友和調教師の管理馬によるワンツー決着となった。
各馬短評
1着 スタニングローズ
持ち味の先行力を活かして真っ向勝負。自身のレースに徹し、オークスの雪辱を果たした。
言わずもがなではあるが、父キングカメハメハは、芝・ダート、そして距離を問わず、あらゆるタイプの産駒を出したスーパーサイアー。ただ、JRAの芝GIを制した馬は近年出ておらず、2018年の天皇賞・秋を制したレイデオロ以来の勝利となった(JRAのダートGIは、チュウワウィザードが2020年のチャンピオンズCを勝利)。
現3歳が最後の世代となり、今後産駒は減っていくものの、後継種牡馬、そして後継繁殖牝馬は多数。この先何年も、その血は受け継がれていくだろう。
一方、騎乗した坂井瑠星騎手はデビュー7年目でGI初制覇。先日のスプリンターズSで、やはりGI初制覇を成し遂げた荻野極騎手は、競馬学校の同期にあたる。
また、管理する高野調教師は、かつて松田国英厩舎に所属しており、その厩舎を代表する馬が、スタニングローズの父キングカメハメハ。喜びもひとしおではないだろうか。
2着 ナミュール
阪神ジュベナイルフィリーズと桜花賞では力を出し切れなかったが、オークスの3着、そして今回と、改めて世代トップクラスの実力を示した。
今回は、馬体重が20kg増えていたものの、太く見せるようなところはまるでなかった。むしろ、走るハービンジャー産駒は、顔や爪、球節などが小さいのが特徴。GIを勝った牡馬もいるが、牝馬の方が活躍する傾向にある。
レースに関していうと、今回は勝負所で遠心力がつき、左にもたれてしまったと横山武史騎手がコメント。キャリアの大半は、阪神の外回りか東京コースを走っているように、本来は大箱のコースが合うタイプだろう。逆に言えば、適性がさほどないと思われる小回りコースで好走したともいえ、次走どのレースに出てくるか注目される。
3着 スターズオンアース
最後の差を見る限り、一にも二にもスタートが惜しまれる結果となってしまった。
道中のペースなどを考えると、一番強いレースをしたのはこの馬で、血統や脚質など、ナミュール同様、明らかに大箱のコースが合うタイプ。勝手を言うと、次走ジャパンCで見てみたいが、果たしてどこに出てくるだろうか。
レース総評
前半1000mが59秒7で、同後半は58秒9。やや後傾ラップとなったものの、後半4ハロンは11秒台のラップが連続。結果、上位人気3頭が3着までを占め、4番人気のアートハウスも5着。ほぼ人気どおりの決着となったが、3着スターズオンアースと4着メモリーレゾンの間には2馬身の差があり、やや遅い流れの中、最後これだけの差がついたということは、3頭の力がやや抜けていたのかもしれない。
2000年以降、牝馬三冠に挑戦したのは6頭で、そのうち5頭が三冠を達成。唯一、秋華賞で敗れたブエナビスタは、他の5頭と違い、内枠を引いたのが影響した。
そのため、阪神コースで行なわれるとはいえ、真ん中より外を引いたスターズオンアースが三冠を達成する可能性は十分にあると思っていたが、出遅れが結果に大きく影響したことは言うまでもないだろう。
一方、勝ったスタニングローズは、正々堂々、自身の競馬に徹し最後の一冠を奪取。このコースに最適な脚質だったともいえるが、この日の阪神競馬場の天気のように、清々しいまでの正攻法。文句なしの、そして堂々たるレースだった。
前哨戦を使った馬の勝利は、2017年の紫苑Sと秋華賞を連勝したディアドラ以来、5年ぶり。その前年に重賞へと昇格した紫苑Sはレースレベルが格段に上がり、2016年の2着馬ヴィブロスも秋華賞を制している。
また、2018年の勝ち馬ノームコアは疲労で本番を回避したものの、翌年のヴィクトリアマイルを制覇。そしてこれら3頭は、後に海外のGIも勝利しており、スタニングローズにも同様の期待が懸かる。
スタニングローズの母系に目を向けると、いわゆる薔薇一族の出身。4代母のローザネイに始まり、その産駒のロゼカラーとロサード。そして、ロゼカラーの初仔ローズバドや、他、ローゼンクロイツ、ローズキングダムなど、数多くの重賞ウイナーが誕生している。
ただ、隆盛を極めたこの一族も、ローズキングダムの京都大賞典以来、実に11年間も重賞勝ち馬が現われなかった。しかし、3月にスタニングローズがフラワーCを勝利すると、今度は12年ぶり、そして一族2頭目のGIウイナーにまで上り詰めた。
ローズキングダムがGIを制した際には一族の悲願ともいわれたが、ロゼカラーとローズバドは、いずれもオークスと秋華賞で惜敗した実績がある。そのため今回の勝利は、一族の──特に牝馬の悲願が叶えられた勝利ともいえる。
写真:俺ん家゛