今年も有馬記念の季節がやってきました。今年はクリスマスに行われるという事で例年以上に盛り上がっている有馬記念。好メンバーが揃って非常に楽しみなレースになりました。例年このレースへは各世代、路線から様々な馬が集まるので能力の比較が難しくもあります。まずは各前哨戦を簡単に振り返っていきましょう。
凱旋門賞
11着タイトルホルダー、18着ディープボンドが出走を予定しています。
前半1000M通過が63.96秒に対し、ラスト1000Mが66秒61。日本の馬場と比べてかなり時計がかかる馬場であったことは分かるタイムです。高低差に加えてレース直前の雨で非常にタフな馬場コンディションになってしまった中で、タイトルホルダーが逃げていきました。レースの中盤までは1ハロン12秒台で進む道中のスピードを見せていましたが、残り1000Mから1ハロン13秒台がゴールまで続く完全な消耗戦になり、直線で失速してしまいます。消耗してしまったのは他馬もそうでしたが、勝ったアルピ二スタは直線で凄い脚を見せました。直線で速い上りを見せたというよりはタフな馬場コンディションでもスピードを維持し続けたという見解になるでしょうか。
日本馬4頭にとっては厳しい結果になりましたが、各騎手のコメントからはレース直前の雨でよりタフな馬場になってしまったことを惜しむ声が多くありました。粘土の様なロンシャンの馬場で直前に雨が降ると日本の馬場のように排水できないですし、水分を多く含んだ粘土質の馬場で、走った時に脚が埋まってしまうような馬場になってしまっていたのかもしれません。加えて日本よりも高低差のあるコースだったのでスタミナの消耗が想像以上だったと考えるべきでしょう。着順そのものは特殊事情から参考外と考えるべきでしょうが、かなり厳しいレースだったのは確かなので、どのくらい疲労が残っているかを気にしたいところです。
菊花賞
2着のボルドグフーシュ、3着のジャスティンパレスが出走を予定しています。
最初の1000Mが58秒7、中盤の1000Mが62秒7、ラスト1000Mが61秒0というペースで進みます。逃げたセイウンハーデスが飛ばして逃げていったので全体的に速いペースとなりました。レース中盤もそれほどペースが落ちておらず、ラスト1000Mで再加速する流れ。速い時計が出る馬場だったのは確かですが、1ハロン13秒台のラップが一度しかなかったという、道中でスピードの持続力とスタミナが問われた長距離戦らしいレースでした。
2着だったボルドグフーシュはスタートで出遅れて後方からの競馬となります。3コーナーから長くいい脚を使いましたがハナ差届かず。ただ、神戸新杯と同様に後方から差してきたジャスティンパレスには、神戸新聞杯とは変わって先着しました。長距離の差し馬としてキャラを確立させたと言っていいでしょう。春はクラシックに出走できなかったので他馬との能力比較が難しいですが、タイトルホルダーが積極的に逃げる展開となれば、ある意味では菊花賞と同じ。加えて今回は距離を短縮する形になるので、ラストのもう一押しも可能でしょう。勝ち切るかどうかはともかく、展開と馬場を味方にできれば好走は十分にありそうです。
3着のジャスティンパレスは前走・神戸新聞杯と同様に中団の内目を進み、4コーナーでうまく馬群を捌いてきましたが、思うように伸び切れずに終わりました。神戸新聞杯でかなり仕上げた状態だったので上積みが少なかったはずですが、その中で力を見せたと言って良いでしょう。この馬も長距離適性が高いと見ますし、内々を器用に立ち回れる脚質は有馬記念向き。うまく道中内々を通って4コーナーで抜け出せれば、外を回る差し馬を内からロスなく立ち回って馬券圏内を狙える可能性は十分にあるでしょう。
天皇賞・秋
勝ち馬のイクイノックスが出走を予定しています。
スタートからパンサラッサが2番手以降を大きく引き離して逃げて、前半1000M通過が57秒4に。かなり速いタイムで飛ばしていったように見える数字ですが、レース当日の馬場は超がつくほどの高速馬場でした。ですから、逃げたパンサラッサはそこまで無理をしていないペースと言えます。対して2番手以降が脚をためていてスローの流れで進んだとの相まって、先頭のパンサラッサと2番手以降が大きく離れていたという現象が起きていました。2番手以降がスローで進んでいた理由として、天皇賞秋の開催前の東京の芝のレースでは、とにかく速い上りを出した馬が勝ち切っているレースが多く、それを意識した各馬が控えたのではないか…と、推測しています。天皇賞秋でも、残り400Mから12秒4-12秒7と脚が止まっていたパンサラッサに対し、勝ったイクイノックスは上り3ハロン32秒7という究極の切れを見せて勝利。勝ったイクイノックスの切れが光った一戦でした。
有馬記念には勝ち馬のイクイノックスが参戦しますが、同馬は体質的にレースを続けて使えないという事情があります。春には皐月賞→ダービーとレースを使いましたが、ダービーでは18番枠もあったかと思いますが、皐月賞の時よりも位置が取れなかったのは疲労があったからでは、とも噂されました。今回は天皇賞秋から約2か月間隔があってのレース。馬の能力は上の世代と比較しても上位、中山コースも経験済みで、距離も大丈夫そうではあります。あとは馬の力を出し切れる状態にあるのか、というところでしょう。
ジャパンカップ
勝ち馬のヴェラアズールが出走を予定しています。
前半1000M通過が1分01秒1とスロー。そこからもペースが上がらず、残り800Mからゴールまで1ハロン11秒台と速くなっての切れ比べとなりました。いわゆるスローからのヨーイドンの競馬で、上り3ハロンが速い馬が上位に来たレースと言えます。速い上りを使えるのはもちろん、ゴールまでの最短距離になる内から伸びた馬でなければ上位争いに加われない展開となりました。
勝ったヴェラアズールはスタートして道中は中団後方の馬群を進み、3~4コーナーでも後方の馬群の真ん中に。直線に入っても馬群の後方にいて、前に馬が多数いましたが、ゴチャゴチャしていた馬群の中から抜け出てきて最後には差し切りました。何度か進路を変えながら、前が詰まりながらもこじ開けるように狭いスペースを抜けてきての差し切り勝利だったので、ムーア騎手の腕によるところが大きい勝利と言えます。有馬記念では元々の主戦騎手だった松山騎手に戻りますが、ジャパンカップと同様のパフォーマンスを引き出せるかどうかに注目したいところです。ヴェラアズール自身は中山芝2500Mの経験はありますが、同レースでは今年の目黒記念6着だったパラダイスリーフから0秒6差の3着。能力覚醒前だったからとも言えますが、JCと同様の走りができるか気になるポイントです。
有馬記念はなぜ内枠有利?
今年の有馬記念も実力派による激戦になるのは間違いないですが、大きな注目を集めるのが枠順です。
続いては、その理由を説明していきましょう。
中山芝2500Mはスタート地点が外回りの3コーナーにあります。そして4コーナーを回ってスタンド前の直線に入り、そこから内回りをぐるっと回るコースで計6回コーナーがあるコースです。このため多頭数の外枠を枠なりに走っていたら大きな距離ロスができますし、ぐるぐる回るコースの中で前半から強引に位置を取ればそれだけスタミナを浪費してしまいます。ましてやレース前半は登り坂が多いので、各陣営はとにかく距離ロスを防ぐためにも内をキープして進みたいというのが本音でしょう。
2周目の3コーナーから勝負ところになりますが、さすがにここからは差し馬を中心に、距離ロスを承知で外を回して勢いよく上がっていく馬が多くなります。内々にこだわって直線で前が壁になって脚を余して負けるのは悔しいという意識も働くかと思います。ただ、そんな状況でも内に残っていて直線でうまく抜け出す馬がいた年もありました。今年の有馬記念でもそんな場面があるかもしれません。
道中はとにかく内を回って距離ロスを少なくしたいというのが陣営の願いですし、それができる可能性が高い内枠が有利で、ぐるぐるとコーナーを6回も回る中山芝2500M、多頭数の有馬記念ではそれが顕著に出るので内枠有利というわけです。
今年のメンバーを枠順から考える
前述の中山芝2500Mは内枠有利を踏まえた上で今年の出走メンバーを見ていくなかで、ポイントを挙げると
- タイトルホルダーなどの先行馬が外枠に入った
- 内枠に差し馬が多く入った
の2点でしょうか。
展開を考える上では「タイトルホルダーがどの位置を取るか?」というのが注目です。
8番枠のウインマイティーが積極的に出なければハナを取れそうですし、他馬がやや強引にハナを取っても、2番手で競馬ができるのがタイトルホルダーの強みでしょう。そこからマイペースで進める展開になるはずです。ここでのポイントは「タイトルホルダーがどのくらいのペースで進んでいくのか?」ということです。あまりスローに落とし過ぎても後続の差し脚が生きる展開になるので、ある程度息の入らないペースを作って進み、後続に脚を使わせる流れを作るのが理想ですが、凱旋門賞の疲労がどこまで残っているかが焦点になるでしょう。
また、内枠に差し馬が多く入った点については「各馬がどのくらいの位置からスパートを開始するか?」というレースの大きな注目点に繋がります。先行するタイトルホルダーに楽に走られてしまったら、天皇賞春や宝塚記念のようにそのまま押し切られてしまう可能性が高いです。なので、ある程度早い段階からプレッシャーをかけていく必要があると思いますが、ディープボンド、ブレークアップ、ポタジェなどの先行馬がタイトルホルダーの後ろにつけて早めに競りかけていくのか、またはイクイノックスあたりが3コーナーから早めに外を回して上がっていくのか、ボルドグフーシュ辺りが外から長くいい脚を使って前に迫るのか、または、各馬が外を回すのを見越して、内でじっと我慢していたジェラルディーナが直線で内からスパッと抜けて来るのか……様々な陣営の思惑が入り混じった展開になりそうです。これ以上は皆さんの選択になりますが、各馬の動きを予想するのも楽しいレースと言えそうです。レース展開を予想してワクワクしそうなレースになるのは間違いないでしょう。
各世代から有力馬が集まり、極端に枠の有利不利も少なく、展開予想など考えることが非常に多い有馬記念になりました。どの馬がどんな動きをしていくのかという点でも楽しみですが、出走馬を見ながら、今年はこんなことがあったな、あんなこともあったな……と振り返るのも趣がある有馬記念。混戦であるのは確かなだけに難解なレースですし、そんなレースで思惑が当たれば最高ですね。この記事が皆さんの参考になれば幸いです。
写真:かぼす