季節外れの暖かさから一転、気温が急降下した12月17日。2歳マイル王を決める朝日杯フューチュリティSがおこなわれた。
中山から阪神に開催場を移して、今回が10回目。その間にホープフルSが重賞に格付けされ、後にGⅠとなり、こちらは「2歳マイル王決定戦」としての色合いが濃くなってきた。事実、半年後におこなわれるNHKマイルCやマイルGⅠと関係が深く、近年でも、アドマイヤマーズやグランアレグリア、セリフォス、ダノンスコーピオンら、このレースで好走した馬が、後にマイルのGⅠを勝利している。
一方、2019年の勝ち馬サリオスは、コントレイルに先着することこそ叶わなかったものの、皐月賞とダービーで2着に好走。そして、2021年の覇者ドウデュースは、当レースを制した馬としては、あのナリタブライアン以来28年ぶりにダービー馬の称号を獲得している。
ただ、有力馬がホープフルSと分散するせいか、混戦になることも少なくなく、今回も単勝10倍を切ったのは4頭。そのうち3頭に人気が集まり、僅かの差でジャンタルマンタルが1番人気に推された。
京都外回りコースでセンス抜群の走りを披露し、新馬戦とデイリー杯2歳Sを完勝したジャンタルマンタル。今回のメンバーで重賞を無敗で制したのはこの馬だけと、まだ底を見せていない点は魅力的。当レースを過去2勝している川田将雅騎手に乗り替わる点も評価され、大きな注目を集めていた。
これに続いたのがシュトラウス。東日本最初の新馬戦で、2着に9馬身もの差をつけ圧勝した本馬。4ヶ月ぶりの実戦となったサウジアラビアロイヤルCこそ3着と敗れるも、続く出世レースの東京スポーツ杯2歳Sを快勝し、重賞初制覇を成し遂げた。父モーリス、母ブルーメンブラットとも現役時マイルGⅠを勝った良血で、2歳マイル王戴冠が期待されていた。
3番人気に推されたのがダノンマッキンリー。シュトラウスと同じくノーザンファーム生産のモーリス産駒で、こちらはデビューから1400m戦を連勝中。まだレースぶりは荒削りながら、前走の秋明菊賞で見せた末脚は強烈。ルメール騎手との新コンビで、無傷3連勝でのGⅠ制覇が期待されていた。
そして、これら3頭から少し離れた4番人気となったのがエコロヴァルツ。この馬もデビューから2連勝中で、前走のコスモス賞は2着に6馬身差をつける圧勝だった。今回は、それ以来4ヶ月ぶりの実戦となるものの、1ヶ月超の休養から前日に復帰した武豊騎手が前走に続いて騎乗。武騎手とのコンビでGⅠを6勝したキタサンブラック以来となる、ブラックタイド産駒のGⅠウイナーが誕生するか、期待されていた。
レース概況
ゲートが開くと、シュトラウスが1馬身半ほど出遅れ。対照的に、ジャンタルマンタルは好スタートを切った。
前は、そのジャンタルマンタルを交わしてセットアップが逃げ、同枠のタガノエルピーダ、クリーンエア、ダノンマッキンリーが続く展開。その後ろに、バンドシェル、オーサムストローク、ジャンタルマンタルの3頭が横並びとなったが、出遅れたシュトラウスがこれらをまとめて交わし、セットアップも交わして先頭へ。スタート直後、中団につけていたエコロヴァルツはポジションを下げ、最後方を追走していた。
600m通過は34秒1、同800mが46秒1と、馬場を考慮すれば速いペース。全体はおよそ15馬身の隊列になったものの、前2頭が後続を3馬身ほど離し、他の15頭は10馬身ちょっとの差だった。
中間点を迎える前後で大きくペースは落ちたため、3、4コーナー中間で全体はいっそう凝縮。続く4コーナーで、大外からジューンテイクが前との差を詰めようとする中、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入ると、いつの間にか先団に取り付いていたジャンタルマンタルが、シュトラウスを交わして早くも先頭。そのまま馬場の中央へと持ち出され、後続との差を開きにかかる。
追ってきたのはタガノエルピーダ、セットアップ、ジューンテイク。さらに、内ラチ沿いからサトミノキラリ、離れた大外からエコロヴァルツが突っ込んできたものの、まだ余力を残していたジャンタルマンタルが悠々と押し切り1着でゴールイン。1馬身1/4差離れた接戦の2着争いを制したのはエコロヴァルツで、クビ差3着にタガノエルピーダが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分33秒8。パレスマリス産駒の持ち込み馬ジャンタルマンタルがデビューから無傷の3連勝でGⅠ初制覇。2歳マイル王の座についた。
各馬短評
1着 ジャンタルマンタル
直線で馬場の中央に持ち出された場面だけは異なるものの、過去2戦と同様、内ラチ沿いから抜け出すセンス抜群の競馬。着差以上の完勝で、2歳マイル王の座についた。
いかにも米国、かつダート向きの血統だが、完成が早いのもまた米国血統の特徴。それでも日本の芝を十分にこなすのは、社台ファームの育成はもちろん、3代父スマートストライクの良さがでているからだろう。
父パレスマリスは12ハロンのベルモントSを勝利しているため、2400mをこなしても不思議ではない。ただ。どちらかといえば皐月賞やNHKマイルCで力を発揮するのではないだろうか。
2着 エコロヴァルツ
ほぼ五分のスタートを切るも、350mほど進んだところでミルテンベルクと接触。最後方まで位置を下げたことが、結果的に響いてしまった。
それでも、ハイペースに乗じ直線で15頭をごぼう抜き。勝ち馬にあと僅かのところまで迫り、十分に見せ場を作った。
JRAの2歳GⅠで前走コスモス賞組が連対したのは、1986年の阪神3歳Sを制したゴールドシチー以来37年ぶり。また、2002年の阪神ジュベナイルフィリーズでもブランピュールが3着に好走しており、これら2頭に騎乗していたのは奇しくも本田優騎手(現調教師)だった。
ブラックタイド産駒に武豊騎手のコンビといえば、あのキタサンブラックと同じ。今回は、序盤の不利の影響で追い込む競馬となったものの、本来は先行して長く良い脚を使うタイプ。こちらも、どちらかといえば皐月賞向きではないだろうか。
3着 タガノエルピーダ
阪神ジュベナイルフィリーズを除外され、1週スライドしての出走。さらに、紅一点だったこと。終始先行していた馬の中で唯一掲示板に載ったことを考えれば、この馬が最も強い競馬をしたといえるのかもしれない。
そのため、桜花賞で好走してもおかしくないが、僅かの差で賞金を加算できなかった点は痛恨。次走、1勝クラスに出てきた際はもちろん、牝馬限定の重賞でも十分通用するはずで、阪神ジュベナイルフィリーズ上位入着馬や、チェルヴィニア、ボンドガールらとともに、なんとか桜の舞台に立って欲しいと思う一頭。
レース総評
前半800m通過が46秒1、同後半が47秒7の前傾ラップで=1分33秒8。良馬場でおこなわれたとはいえ、稍重から良に変更されたのは、レース当日の13時40分頃。いわゆるパンパンの良馬場ではなく、ある程度パワーを要する馬場で標準的なタイム。この点も、ダート寄りの血統であるジャンタルマンタルに味方した。
GⅠでは珍しく、上位人気3頭がいずれも乗り替わりとなった朝日杯フューチュリティS。ただ、明暗がくっきりと分かれる結果になった。
まず、2番人気10着のシュトラウス。スタートで出遅れた上に、馬の行く気に任せた結果、すぐに先頭へ。騎乗したマーカンド騎手は「掛かった訳ではない」と、レース後コメントしていたものの、懸念されていた気難しさがモロに出てしまった。
また、シュトラウスと同じモーリス産駒で、3番人気のダノンマッキンリーは8着。こちらは、ルメール騎手が「引っ掛かりました」とコメント。
レースを見直すと、ペースが速かった序盤。次いで、ペースが落ちた中盤もいきたがるような仕草を見せており、現状は1400m以下が良いのかもしれない。
モーリス産駒の「先輩」ピクシーナイトも、3歳夏以降に力をつけ、なおかつ距離を短縮してからスプリンターズSを勝利。同じような臨戦過程を歩むのであれば注目したい。
一方、1番人気に応えて優勝したジャンタルマンタル。序盤は問題なく中団を進んでいたものの、中間点付近でポジションを少し下げそうになるシーンがあった。
しかし、レースは初騎乗でも、調教に騎乗していた川田将雅騎手が軽くプッシュすると、馬も即座に反応。このあたりが同馬の持ち味ともいえるセンスの良さで、素晴らしいコーナリングで上昇すると、4コーナーではいつの間にか4番手。さらに、直線に入ってからすぐ先頭に立ち、そのまま押し切ってしまった。
ジャンタルマンタルの父は、米国のクラシック最終戦ベルモントSを制したパレスマリス。ただ、同馬は翌シーズンに8ハロンのGⅠメトロポリタンハンデキャップも勝利しており、マイルの適性も持ち合わせている。
また、現役時は芝のレース未出走だったにも拘わらず、母系から適性を受け継いだか、産駒のストラクターは、芝1マイルのブリーダーズCジュヴェナイルターフを優勝。さらに、パレスマリスの半弟ジャスティンパレスは天皇賞(春)を、同じく半弟アイアンバローズも先日のステイヤーズSを勝利し、2頭とも有馬記念に登録している。
さらに、ジャンタルマンタルの3代父スマートストライクは、キレッキレの瞬発力を武器に2009年の共同通信杯を制したブレイクランアウトを輩出。母の父としても安田記念を勝ったストロングリターンや、二冠牝馬スターズオンアースを送り出している。
ジャンタルマンタルにもこの部分が上手く伝わっており、前述したストラクターは2023年からレックススタッドで供用開始。そして、パレスマリス自身も、奇しくもレースの3日前に、2024年からダーレージャパンで供用されることが発表された。
日本におけるミスタープロスペクター系種牡馬といえば、キングマンボからキングカメハメハを介したラインだが、これまであまり馴染みのなかったスマートストライクを介したラインが、ジャンタルマンタルの活躍をきっかけに勢いづき始めた。
今後、同馬の課題となりそうなのが、皐月賞などコーナーを4度まわるレースに出走したときと、未経験の左回り。ただ、前者に関しては持ち前のセンスの良さで難なくこなしてくれるだろう。
また、気の早い話だが、ダートに矛先を変えてきた時も注目。フェブラリーSや南部杯など、瞬発力が活かせそうなコースのレースに出走した際は、積極的に狙ってみたい。
写真:RINOT