[重賞回顧]いざ、菊の大輪へ 鮮やかに逃げ切ったメイショウタバルが復活の重賞2勝目!~2024年・神戸新聞杯~

西日本でおこなわれる菊花賞トライアルの神戸新聞杯。1週前におこなわれたセントライト記念は前走ダービー出走組が人気を集め、そのとおり上位を独占したが、神戸新聞杯もまた過去10年の勝ち馬のうち9頭が前走ダービー組である。

ただ、先日のセントライト記念とは異なり、神戸新聞杯に出走したダービー組はいずれも10着以下に敗れた馬たち。そのため、夏に条件戦を勝利した新興勢力にも注目が集まって混戦模様となり、最終的に単勝10倍を切ったのは5頭。その中でメリオーレムが1番人気に推された。

出世レースのエリカ賞を勝利するもリステッドで2戦連続惜敗し、クラシック出走が叶わなかったメリオーレム。それでも、自己条件に戻った前走の西部スポニチ賞は2着に4馬身差をつける完勝で、このレースに臨んできた。

管理する友道康夫調教師は、父シュヴァルグランも管理した実績があり、中・長距離戦では無類の強さを発揮している厩舎。重賞初制覇と菊花賞の優先出走権獲得が懸かっていた。

これに続いたのがメイショウタバル。ここまで取消や除外が度々あり、やや順調さを欠くも印象的な勝ち方をしてきたメイショウタバルは、3月の毎日杯で2着に6馬身差をつけ圧勝。重賞初制覇を成し遂げた。

続く皐月賞は暴走気味の逃げで大敗し、ダービーは無念の取消となったものの、ここでは実績上位の存在。2つ目のタイトル獲得が懸かっていた。

僅かの差で3番人気となったのがジューンテイク。2歳時に6戦し、今季も4戦と使われながら成績を上げてきたジューンテイクは、2走前の京都新聞杯で重賞初制覇を成し遂げた。

前走のダービーこそ10着に敗れたものの、今回の出走馬では最先着。また、メンバー唯一のGII勝ち馬で実績最上位の存在といえ、こちらも2つ目のタイトル獲得が懸かっていた。

以下、ダービートライアルの青葉賞でタイム差なしの2着と健闘したショウナンラプンタ。京都新聞杯でジューンテイクと接戦を演じたウエストナウの順で、人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートからインテグレイトが飛び出し、ジューンテイクとゴージョニーゴーが続くも、大外からメイショウタバルがこれらをまとめて交わし先手を切った。

一方、1番人気のメリオーレムは5番手につけ、その直後にバッデレイト、ミスタージーティー、ヴィレムが横並びとなり、1馬身差でオールセインツとウエストナウ。さらに1馬身差でショウナンラプンタが続き、ビザンチンドリームとトラストボスを挟んで離れた最後方にヤマニンステラータが控えていた。

1000m通過は、1分0秒0とまずまずの流れ。逃げるメイショウタバルは1、2コーナー中間から徐々に後続を引き離したため、先頭から最後方までは20馬身以上の差となったものの、メイショウタバルとヤマニンステラータ以外の13頭は、およそ10馬身の圏内に固まっていた。

その後、メイショウタバルが僅かにペースを上げると、3、4コーナー中間でリードは7馬身に。すると、ようやくといった感じで3番手以下の各ジョッキーが手綱を押し始めて前との差を詰めようとするも、メイショウタバルは2番手ジューンテイクに5馬身ほどの差をつけたまま4コーナーを回り、最後の直線勝負を迎えた。

直線に入るとすぐメイショウタバルもスパートを開始し、坂下でリードは再び6馬身に拡大。追ってきたのはジューンテイクで、2馬身差の3番手にショウナンラプンタとバッデレイトが並び、内からオールセインツ、外からメリオーレムが末脚を伸ばすも、先頭との差はなかなか縮まらない。

それでも、残り100mを切ったところでメイショウタバルの脚が鈍りはじめ、ジューンテイクが一気に差を詰めたものの、この猛追を1/2馬身凌いだメイショウタバルが1着でゴールイン。僅かに届かなかったジューンテイクが2着となり、2馬身差3着にショウナンラプンタが続いた。

稍重の勝ちタイムは2分11秒8。春二冠の鬱憤を晴らすように逃げ切ったメイショウタバルが2つ目のタイトルを獲得し、2012年に勝利したゴールドシップとの父仔制覇も成し遂げた。

各馬短評

1着 メイショウタバル

皐月賞はスタートからやや出していって暴走気味の逃げとなり、コースレコードを生む要因となった一方で自身は17着に大敗してしまった。それを踏まえてか、今回はスタート直後から出していくようなことはせず馬の気分に任せた結果、やはり逃げる形となるも道中はスムーズ。その後、徐々にペースを上げると直線入口で後続との差は大きく開き、最後は迫られたものの逃げ切った。

重馬場の毎日杯を圧勝したように、おそらくかなりの道悪巧者で渋った馬場を味方につけたのは確か。ただ、京都でおこなわれる菊花賞は逃げ切りが決まりにくく、グレード制導入以降、スタートからゴールまで先頭をキープし続けたのは1998年のセイウンスカイだけ。とはいえ本番でも逃げそうだが、いずれにせよ展開のカギを握る存在だけに、どういった作戦で臨むのか注目が集まる。

2着 ジューンテイク

枠を生かした競馬で序盤は3番手につけ、その後2番手に。勝負所で各馬が仕掛ける中、タイミングをワンテンポ遅らせそれがゴール前の猛追に繋がった。

父キズナ×母父シンボリクリスエスの組み合わせは、ソングライン、アカイイトとGⅠ馬が2頭出た成功パターン。おそらく本番に最も繋がるレースをしたのはこの馬で、不利な外枠を引いたりスローからの瞬発力勝負にならなければ好勝負が期待できる。

3着 ショウナンラプンタ

序盤は後ろから4番手に位置するも、3コーナー手前から馬場の内側を通って徐々に進出。直線でもしぶとく伸び、権利獲得に成功した。

ジューンテイクと同じく今回出走馬の半数を占めたキズナ産駒で、キレない分、長く良い脚を使う点も似ている。ただ、母系がアメリカのスピード血統だけに、3000mをこなせるかが課題となりそう。

レース総評

前半1000m通過が1分0秒0で、12秒0をはさみ、同後半が59秒8と、ほぼイーブンペース。最も遅い1ハロン目と最速の2ハロン目を除くと、以後の9ハロンは11秒7から12秒5の間に収まっており、あまり緩急のないレースだった。

メイショウタバル自身は過去、2勝目をあげたつばき賞の最後の直線で11秒1、重馬場の毎日杯でも直線10秒9と素晴らしい末脚を繰り出しているものの、距離が伸びメンバーレベルが上がると、今回のようなワンペースに近い競馬が合っているのかもしれない。

そのメイショウタバルはゴールドシップ産駒で、母父はフレンチデピュティ。この組み合わせでデビューした馬はメイショウタバルを含め4頭しかいないものの、うち3頭がJRAで勝ち上がり、そのうちの一頭プリュムドールはステイヤーズS2着などオープンまで出世。かなり相性の良い組み合わせといえる。

母系には他にも、自身だけでなく産駒が3頭も菊花賞を勝ったダンスインザダーク(うち一頭スリーロールスは浜中騎手と菊花賞制覇)や、97年の菊花賞馬マチカネフクキタルの父クリスタルグリッターズの名前もあり、皐月賞のような暴走気味の逃げにならなければ3000mも問題なくこなすだろう。

ただ、ゴールドシップ産駒は牡馬だと重くなりすぎてしまうせいか成績は牝馬のほうが良く、これまでJRAの平地重賞を勝った産駒7頭中5頭が牝馬。メイショウタバルの毎日杯勝利は牡馬の産駒として5年ぶりの重賞制覇で(19年札幌2歳S勝ちのブラックホール以来)、現在500kg前後のメイショウタバルも、今後を考えれば、馬体重はこれくらいに留まるのが理想かもしれない。

さて、この神戸新聞杯をもって菊花賞のトライアルレースは終了した。今年は、ダービーで掲示板に載った馬が一頭もトライアルに出走しなかったが、これはグレード制導入以降初めてのこと。それでも、両トライアルで3着内に入り権利を獲得した6頭は、すべて前走ダービー組(レース2日前に取消したメイショウタバルを含む)だった。

ただ、今年のダービーは近年稀に見るレースで、例えば上位陣の顔触れを見ても、勝ったダノンデサイルは、前走の皐月賞で競走除外となった馬。他、3着シンエンペラーは外国産馬で、5着レガレイラに至っては牝馬である。

またレース自体も特殊で、メイショウタバルが取り消したことで逃げ馬不在となり、エコロヴァルツが逃げた結果、スローからの瞬発力勝負に。中団以下に位置していた馬にとっては厳しいレースとなったが、神戸新聞杯の2、3着馬はまさにダービーで展開に泣いた馬である。

そんなダービーを制したダノンデサイルは菊花賞に直行する一方、当時の2、3、5着馬は別路線に向かい、なおかつトライアルを傑出した内容で勝った馬もいなかった。そのため、1番人気に推されるのはおそらくダノンデサイルで、以下、セントライト記念勝ち馬アーバンシック、同2着コスモキュランダ、そしてメイショウタバルあたりが人気を集めるだろうか。

とはいえ、トライアルで権利を逃した3勝馬にも伏兵候補がおり、神戸新聞杯で渋った馬場に泣き5着に敗れたメリオーレムは、出走が叶えば巻き返す可能性は十分。また、夏場に3勝クラスを勝ち上がったヘデントールとシュバルツクーゲルや、京都2歳Sでダノンデサイルに先着して2着となり、7月福島の信夫山特別を勝利したプレリュードシチーも、出走すれば面白い存在。

これら3頭はダービーの前哨戦で敗れているものの、夏に賞金を積み重ねた分、9月を休養に充てることができた。これは2023年の菊花賞覇者ドゥレッツァと同じパターンで、トライアルの結果だけを見るとダービー出走組が大きくリードしているように思えるものの、実際は高いレベルの混戦ではないだろうか。

写真:gpic

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