[インタビュー]ホースセラピーの現場で起こった、奇跡のような出来事とは。

岩手県の中心地、盛岡。

競馬ファンにとっては、盛岡競馬場がある場所として有名なスポットであるが、それだけではなく「チャグチャグ馬コ」という、馬に色とりどりの鈴や衣装を身に着け街中を行進する伝統行事も執り行われている、いわば「馬どころ」でもある。

そんな盛岡市から車を20分から30分走らせ、隣の滝沢市に向かうと、ひとつの牧場が見えてくる。

そこが、馬っこパーク・いわて。

過去には岩手競馬の不朽の名馬、トウケイニセイが過ごし、現在でも桐花賞を制したコミュニティや、引退後再度の現役復帰を果たしたナグラーダなどが過ごす地だ。

他でもない岩手の馬スポットのひとつである牧場であるこの場所は、NPO法人(乗馬とアニマルセラピーを考える会)としても活動しており、数多くの活動を行ってきた。

今回は、理事長である山手寛嗣氏にその想いやパークの現状を語っていただいた。

今回のテーマは「ホースセラピー」。引退馬支援の中で、かなり重要性の高い問題についてである。

「ホースセラピー」であった、奇跡のような出来事。

ホースセラピーとは、そもそもどういうものなのか。

簡単に言えば、セラピー療法……つまり手術や投薬を伴わない治療法を、馬と共に行うものである。

一般的には精神的治癒が多いこの手法だが、近年、様々な例や広がりを見せている療法のひとつでもある。それが時折、今の科学の力では考えられないような、そんな奇跡を引き起こしたように感じられるケースもあるのだという。

「今からだいぶ前でした。3歳か4歳くらいの子だったんだけど、その子は産まれつき筋力が弱くて……誰かに抱えられたりしないと歩けないくらいの子でした」

とあるケースについて、山手理事長はそう振り返る。その子がパークに最初に来た時、馬に乗るのには母親に抱えられたうえで、馬の鞍を掴むのがやっとといった状況だった。

医師も、その子の筋力について「残念ながら筋力が戻るのは非常に難しい状況だろう」と診断していたという。

その子がパークに通い続け、かなりの月日が経った。

元々動物が好きだったというその子は、馬とコミュニケーションをとることに喜びを覚え、乗馬の楽しさに目覚めていった。

そして、ある日。

いつものように馬上でも支えられる必要があったはずのその子が、自力で馬の鞍を掴み、必死にしがみついて、自分の力で馬に乗ったのである。

その光景に、山手理事長は目を疑ったという。

「お医者さんでも厳しいと言われていたような症例の子が、馬に乗りたいという想いで通い続け、筋力を取り戻すなんて、にわかには信じがたかったですね」

そしてその子は、手を引かれながらではあるが自分の力で地面に足をつけて立つことができるようになったという。


登校拒否の子や、引きこもりの方への治療方法として、ホースセラピーが施されていることもある。そのなかで、彼らに社会の動き、そして大事さを感じさせる、といった目的が一番にあるのだという。

「例えば引きこもりの人であれば、外に出る習慣がありません。だけどパークで馬達とかかわるとなれば、一緒に仕事をする仲間もいますし、何より時間で動かなければならないわけです」

仮に担当馬が決まったとして、その馬と共にセラピーを行うのならば、面倒は自分で見なければならないことになる。

朝の餌をやる時間はいつか、乗馬に行く前の飾鞍、馬の手入れ、厩舎掃除はいつやるのか……。

朝から夕方まで馬達と共にする時間が、そこにはある。

「担当馬が決まって、最初は何も感じないかもしれない。だけど一緒に関わって、触れ合っていくうちに次第に愛情が湧いてくる。そうすると、簡単に見捨てるという事はできなくなると思うんです」

もし自分が休み、放っておくようなことをすれば、彼らの面倒は誰が見るのか。

勿論、牧場の人が見るかもしれない。だがそうなれば、その人が元々見るはずだった馬と、自分の担当馬が加わる。

果たして、同じように面倒をしっかり見てあげられるのだろうか。

「これって、社会で生きていくうえですごく大事な事だと思います。誰かに押し付けられるのではなく、自分自身で彼らと接することで、働く意義や責任が身につくということですから」

山手理事長は続ける。

「そうしてかかわってきた馬が、自分の思ったように動く保証はありません。ですが、意思疎通が馬とできた時、きっと大きな達成感があるだけでなく、同時に責任感も根付くようになると思います」

事実、パークで上記のプログラムを行い、成功したのち、無事に社会復帰を果たした人たちも大勢いるという。

ここまでホースセラピーの実例をもとに、様々な効果を語ってきた。

では、山手理事長はどのようにホースセラピーを考えているのだろうか?

頭を使い、考え、自らの最良と思われる答えで動く──。

「動物を見て学ぶ」

それがセラピーの効果のひとつだと、山手理事長は答えた。

「筋力のないお子さんの話や、社会的に弱いとされている人たち……僕ら人間から見たら確かにそうかもしれないけど、馬に人の得手不得手は関係ないんですよ」

右に行ってほしければ、馬上から右に行けと指示を送らないと行くことは無い。

止まってほしければ手綱を引かなければ、自分の意図したタイミングで止まることは無い。

勿論、手入れの時もそうだ。蹄の手入れをしたいから脚を上げてくれと合図を送らなければ、馬は自分から脚を上げることは余程の信頼関係でない限り、無い。そればかりか指示に背いて蹄を上げないことや、嚙みついてこようと悪戯をするときもある。

そんな仕草は、たとえこちらに何か問題があろうとも関係ない。馬は、人に平等だ。

動かすためにはどうすればよいのだろう? 手入れの時も、悪癖を治すためにはどうすればよいのだろう?

私達は彼らに自分の考えを聞いてほしくて、コミュニケーションを取る。

そのために、私たちは頭を使う。頭を使い、考え、自らの最良と思われる答えで動く。

先に述べた人たちのほか、小さい子供たちにとってもそれは同じ。

「例えば母馬と仔馬を一緒に放牧しているとき、そこに他の仔馬が寄ってきて仔馬にちょっかいをかけようとする。すると、母馬は仔馬を守るように間に入るんですよ。そんな行動ひとつとっても、小さい子には充分大きな学びではないでしょうか。親は子供を守るものだ……と」

幼稚園から小学校低学年までの間に、馬と関わることを推進しているという山手理事長の考えは、「人が言うより、見て考える事で理解する」というものだった。

「例えば大人たちが、『人には気を遣いなさい』と言ったとします。でも、実際に言われるだけで、どういう風に気を遣うのか、どういう風に考えて動けばいいのか、というのがすぐには分からない子もいる。だけれど、馬とかかわることで、『今この馬は喉が渇いているのだろうか』『エサは本当にこの草でいいのかな』『なんだか機嫌がよくないみたいだけどどうしたらいいのかな』ということを実際に体験して、考えることができます。そんな教育を小さい頃からできれば、馬にとっても子供たちにとっても、とても貴重な経験になるのではないかな、と考えているんです」

最後に理事長は、こう付け加えた。

「お金儲けでなく、それぞれの幸せを考え、これからも行動したいと思っています」と。


今回ご紹介した馬っこパーク・いわてを支援するクラウドファンディングが、10月11日より開催されている。

目標額は100万円。頂いた費用は厩舎修繕の費用、飼料の購入や新しく非常勤スタッフを雇うなどのパークの運営に充てられる。

先にご紹介した通り、馬っこパーク・いわては今、コロナ禍の影響で経営難に陥っている。

岩手県の中でも積極的に様々な活動を行っている馬っこパーク・いわて。

多くの人にとって救いであり、また憩いの場所になっているパークの支援を、馬が好き、また競馬が好きなあなたも、一度検討してみてはいかがだろうか?

クラウドファンディングの募集は11月30日まで。

3000円から20000円の範囲内で支援でき、リターンは以下の通り。

  • 3000円 リンゴジュース+オリジナルグッズセット
  • 5000円 体験乗馬チケット+オリジナルグッズセット+リンゴジュース
  • 10000円 体験乗馬チケット+オリジナルグッズセット+馬達のたてがみ
  • 20000円 体験乗馬チケット+オリジナルグッズセット+リンゴジュース+馬達のたてがみ

詳細は下記URLを参照。

https://camp-fire.jp/projects/view/455710

あなたにおすすめの記事