[重賞回顧]受け継がれし最強馬の称号~2021年・ジャパンカップ~

ショウナンパンドラが勝った2015年以来、6年ぶりのフルゲート。そして、3年ぶりに外国調教馬が複数頭出走した、2021年のジャパンカップ。複数ある見どころの中でも特に注目すべき点は、引退レースとなるコントレイルが有終の美を飾るのかどうか。そして、4世代のダービー馬が、それぞれどういったレースを見せるかだった。

圧倒的な1番人気に推されたのは、そのコントレイル。昨年、父ディープインパクトに続く史上3頭目となる無敗の牡馬三冠馬に輝いたものの、その後はGIで惜敗続き。ただ、今回のメンバーでは実績断然。大一番を制し、5つ目のビッグタイトル獲得なるか。そして、現役最後の一戦を勝利で飾ることができるか。大きな注目を集めていた。

2番人気に推されたのは、今年のダービー馬シャフリヤール。キャリア2戦1勝で臨んだ毎日杯をJRAレコードタイで制し重賞初制覇を飾ると、続くダービーも連勝。見事、世代の頂点に輝いた。ところが、秋初戦の神戸新聞杯では悪化した馬場に脚をとられ4着。今回は、それ以来2ヶ月ぶりの実戦となるものの、ダービーと同じ舞台で巻き返すことができるか、期待されていた。

3番人気は、4歳馬のオーソリティ。ここまで2度の骨折に見舞われ、長期の休養を挟みながらも、東京芝2400m以上のGⅡを3勝している。前走のアルゼンチン共和国杯も、半年ぶりの休み明けながら完勝し連覇達成。中2週のレースとなるものの、本格化を窺わせるような勝ち方を見せたことで、二強に続く上位人気に推された。

単勝オッズ10倍を切ったのは、この3頭。以下、昨年の菊花賞で、コントレイルを最後の最後まで追い詰めたアリストテレス。今年のオークス馬、ユーバーレーベン。そして、米国のブリーダーズカップターフで2着のブルームの順で、人気は続いた。

レース概況

拍手の中ゲートが開くと、ロードマイウェイとブルームが立ち後れ。キセキもスタートが決まらず、後方からのレースとなった。

先手を切ったのは、意外にもアリストテレス。そこに、ワグネリアンとシャドウディーヴァが続き、4番手にオーソリティ。さらに1馬身差の5番手にシャフリヤールがつけ、サンレイポケットを挟んだ7番手に、コントレイルが位置していた。

最初の1000mは1分2秒2のスローとなったものの、先頭から最後方までは20馬身弱と縦長の隊列。その1000mを通過する直前に、後方からキセキが一気に上昇を開始。3コーナー手前で、先頭に躍り出た。

それまでは12秒台のラップが連続していたものの、キセキが先頭に立ってからは一転。11秒台のラップが刻まれる淀みない流れに。それでも、お構いなしと逃げるキセキと2番手の差はみるみる開き、3、4コーナー中間では、およそ5~6馬身の差。続く4コーナーでも、その差はほとんど変わらないまま、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると後続も追い上げを開始し、その差は徐々に詰まり始める。まず、抜け出してきたのは、この日5勝、今週9勝と、絶好調のルメール騎手を背にしたオーソリティ。前走のアルゼンチン共和国杯と同じように残り300mで先頭に立ち、押し切りを図る。そこへ襲いかかってきたのが2頭のダービー馬。コントレイルとシャフリヤールで、そこからは3頭のマッチレースとなった。

しかし、その中でもコントレイルの末脚が際立ち、残り100m地点を前に先頭。そこから二度放たれた福永騎手の最後の愛の鞭に応えリードを広げると、万雷の拍手の中、見事1着でゴールイン。2馬身差の2着にオーソリティ、3着にシャフリヤールが入った。

良馬場の勝ちタイムは、2分24秒7。大一番を制したコントレイルが5つ目のビッグタイトルを手土産に、現役生活に別れを告げた。

各馬短評

1着 コントレイル

前走から8kg減ったこの日は、まさに究極の仕上げが施されていた。少し細いでのはないかと思わせるような見た目。たとえは古いが、93年の天皇賞・春でメジロマックイーンとの対決に挑んだ、ライスシャワーを思い出させるような馬体。まさに、アスリート中のアスリート。一切の無駄をそぎ落としたような、究極の馬体だった。

道中は、ここ数戦、中団よりも少し後ろにつけていたが、今回は一列前の7番手に。それでも末脚の威力は衰えることなく、むしろこれまで以上の伸びを発揮。見事に、有終の美を飾った。

2着 オーソリティ

故障明けだったアルゼンチン共和国杯の直後は、無理をさせず有馬記念に挑むのではと思っていたが、中2週で得意の東京コースに出走。厳しいローテーションをものともせず、完璧なレースを見せた。いうまでもなく相手が悪かっただけで、来年エフフォーリアとともに、古馬の中・長距離戦線を引っ張る存在となっても不思議ではない。

ただ、小回りコースでコーナーを6度も回るようなレースより、大回りのコースで、コーナーを1周するような競馬が向いているのは間違いなさそう。

3着 シャフリヤール

直線半ばで、オーソリティの外に進路を取ろうとしたものの、ちょうどそのタイミングでコントレイルが伸びてきたため、外に出せなかった。ただ、それがなくても2着があったかどうか。少なくとも、今回に関してはコントレイルと少し差があったように見えた。

とはいえ、これは昨年コントレイルも通った道。近年のダービー馬は、コントレイルとレイデオロ以外、古馬になってGIを勝てず苦戦しているが、そのジンクスを吹き飛ばすような活躍を見せて欲しい。

レース総評

前半1000mが1分2秒2で、後半1000mは58秒6。キセキが先頭に立ってからペースは上がったものの、全体的にはスローからの瞬発力勝負だった。

コントレイルは、ここ数戦より前目のポジションでレースを進めたものの、末脚の威力が落ちることなく完勝。完璧な仕上げを施した陣営の期待に応える内容で、見事に有終の美を飾った。

ただ、福永騎手や矢作調教師の涙を見る限り、ここに至るまでの関係者の思い、そしてプレッシャーは計り知れないものだっただろう。

昨年、無敗の三冠を達成してから、まさかの3連敗。大阪杯は道悪に、天皇賞・秋は駐立の悪さに原因があったとはいえ、その実力を疑う声も少なからず出始めていた。今回のジャパンカップは、まさに「負けられない」一戦。しかし、その大一番で文句なしの強さを見せつけ、自身が最強であることを示してみせた。引退したアーモンドアイを除けば、「世紀の一戦」と呼ばれた昨年のジャパンカップの最先着馬。最強馬の称号は、しっかりと受け継がれていたのだ。

そして、勝利をもって現役生活を終え、種牡馬入りを果たす意義はあまりに大きい。2012年以降、過去10年のダービー馬で、古馬となってからもGIを制したのは、コントレイルが2頭目。ダービー馬のジャパンカップ制覇はウオッカ以来12年ぶりで、牡馬のダービー馬による当レース制覇は、父のディープインパクト以来15年ぶりの快挙だった。

そういった意味でも、コントレイルが歴史に残る最強馬の一頭であることは疑いようがない。レース後、引退式でその背に跨がった矢作調教師が「空を飛んでいるよう」と表現していたが、このディープインパクトから受け継いだ飛ぶような走り、そして瞬発力を産駒に、特に牡馬の産駒に引き継げるか。それが、種牡馬として成功できるかのカギとなるのではないだろうか。

その走りを受け継ぐ産駒が現われたとき。世界でも類を見ないような、父仔三代での無敗の三冠達成や、矢作調教師が宣言した凱旋門賞制覇が、現実のものとなるだろう。

写真:かぼす

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