レース史上唯一の3連覇 ダイオライト記念の“鬼”クリソライト

ダートの長距離戦もずいぶん少なくなった。ひと昔前のダート大レースといえば、2000mを遥かに超える距離で争われるのが普通だった。帝王賞は2800m、東京大賞典は3000m。2024年からダートグレード競走になった東京ダービーも、古くは2400mで行われていたのだ。交流重賞でいえば東海菊花賞→名古屋グランプリ、オグリキャップ記念が2500m戦だったが、前者は競馬場移転に伴って距離を短縮。後者は交流重賞ではなくなった。いまや“長距離戦”といえるダートグレード競走はダイオライト記念だけだ。

東京盃(ダ1200m)が創設された当時は「地方競馬で唯一の短距離重賞」などといわれたらしい。地方はいまやスプリント戦のほうが主流で、JRA所属馬とも互角に戦っている。これも時代の移り変わり、流れ、と言われればそれまでだが、ステイヤーが活躍する舞台が失われつつあることに、少しばかりの寂しさも感じるわけだが……。

さて、そんなダイオライト記念は、数少ないロングディスタンスとあって、ときに同レースにめっぽう強い馬が現れる。チャンピオンディスタンスの2000mではちょっと忙しいような馬が、輝きを放つ舞台こそ船橋2400mなのだ。今回取り上げるのはクリソライト。15年〜17年にかけて三連覇。それも2馬身半差、1馬身半差、6馬身差と桁が違う強さを見せたのである。

クリソライトは父ゴールドアリュール、母クリソプレーズの血統。父は言わずとしれたダートの名馬にして、名種牡馬。そして、母はマリアライト(GI・2勝)、クリソベリル(GI/JpnI・4勝)、リアファル(菊花賞3着)を産んだ超名繁殖。本馬は2番仔で、先に挙げた3頭が活躍する前に産まれたのだが、のちの大活躍もうなずける血統背景だ。

今回の切り口は「ダイオライト記念の三連覇」としたが、それ以外の成績も申し分ない。デビューから9戦連続で連対。500万下、昇竜ステークス、ジャパンダートダービーを3連勝してJpnIタイトルを手にしている。その後、一時の低迷を挟んで、数々のビッグレースで好走。最終的にはコリアC(韓国ローカルG1)を制した地で種牡馬入りしている。

前置きが長くなったが、まずは15年のダイオライト記念から振り返っていきたい。前年に日本テレビ盃を勝利して、JBCクラシックでも2着に入ったが、チャンピオンズCは14着、東京大賞典は8着。決して勢い十分だったわけではなく、休み明けでもあった。

だが、武豊騎手が初めて手綱を執ることや、実績上位と見たか、ファンは2番人気に支持。地方勢悲願の制覇を期待して、地元船橋のサミットストーンが1番人気に推された。だが、レースではクリソライトが2番手から、2周目3コーナーで先頭に立つと、そこでつくった約2馬身のリードをそのまま保って押し切りV。サミットストーンが揉まれて失速する中、外の番手という絶好位で運んだクリソライトが強い勝ちっぷりを見せた。4走ぶりの白星。続くかしわ記念こそ距離不足もあって4着だったが、帝王賞、日本テレビ盃で2着と、ひさびさの勝利で再び息を吹き返している。

そして、JBCクラシック4着を挟んで16年の初戦。クリソライトは再びダイオライト記念に帰ってきた。前年の勝ちっぷりが評価されたのか、単勝1.3倍の圧倒的1番人気。今度は「勝てるのか」ではなく、「どう勝つのか」に注目が集まっていた。

この日は冷たい雨が降り、凍えるような寒さ。馬場には水が浮いて不良の発表。前残りの馬場と読んだか、脚質のかぶるクリノスターオー、サミットストーンとのハナ争いを制して、武豊騎手とクリソライトは序盤から先頭に立った。少し出遅れたこともあり、かなり激しく追ってのハナ。2400mということもあり、当然のことながら引っ掛かってしまっては台無し。だが、そこはペースの魔術師・武豊騎手。すぐにクリソライトをなだめて折り合いを付けると、道中は13秒から14秒台のゆったりとしたペースでたんたんとリズム良く運んでいく。

向正面過ぎ、武豊騎手がペースを1F12.9秒へと一気に上げる。クリノスターオーが必死に食らいついて来たが、手応えの差は歴然だった。前半たっぷり脚を溜めたクリソライトは一旦、半馬身差まで詰め寄られたが、直線で再び突き放していく。ゴール前で少し差は詰まったものの、最後は1馬身半差。武豊騎手の強気の好騎乗もあり、“無事に”連覇を達成した。

そうなると期待は3連覇。しかし、同一重賞、ましてやグレードレースを3年連続で勝つなど、容易いことではない。

でもクリソライトは違った。3年目こそ、一番の強さを見せたのだ。

17年はレース史上初めてナイターで行われ、カクテル光線の下で14頭が覇を競った。3連勝中のマイネルトゥランにも人気は集まったが、実績断然と見たか、クリソライトには単勝1.6倍の支持。多くのファンが偉業に期待した。

20時10分──。ゲートが開くと、外からマイネルトゥランが飛び出していき、一気に4、5馬身のリードを取っていく。次いでマイネルバイカ。クリソライトは内枠から押して3番手に付けると、「さすが、武豊」。スッと外に切り替え、砂をかぶらない、揉まれない、完璧なポジションを確保した。ホームストレッチでグッとペースは落ち着き、クリソライトは2番手に浮上。前を射程圏に入れて、いつでも捕まえられる態勢でレースを運んでいく。

向正面に入るとクリソライトはじわっと進出。向正面の中ほどでマイネルトゥランに並びかけると、そのまま3コーナー過ぎで早くも先頭に立った。

「いくらなんでも……」。ペースは少々流れているように見えたし、さすがに早仕掛けではないかと思ったのだが、武豊騎手に限ってそんなことはなかった。直線に入ると、後続をちぎるちぎる。なんと6馬身差V。レースの上がり3Fが41.6という我慢比べを、無尽蔵のスタミナで押し切った。これぞ無類のタフネス。「砂の最強ステイヤー、ここにあり」を思わせる走りだった。

4連覇に期待したくもなったのだが、東京大賞典11着を最後に同年限りで引退。現在は海を渡り、異国の地で種牡馬として活躍している。韓国競馬は成長著しい。コリアC、コリアスプリントが国際グレードを取得したように、少しずつだが世界レベルに追いつきつつある。そうなれば、クリソライト産駒の凱旋にも期待したい。日本の地方競馬では、ダートグレード競走を国際競走化する流れがある。いつの日か、韓国からやってきたスタミナ豊富な“刺客”が、ダイオライト記念で親仔制覇を達成するかもしれない。

写真:s.taka

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