東京大賞典で見せた鮮烈な4馬身差V。心揺さぶるホッコータルマエの走り

ホープフルステークスが行われるようになったものの、年末の大一番といえば有馬記念という競馬ファンが多いだろう。だが、私は10年近く前から東京大賞典と決まっている。まぁ、個人的な話をすれば、大みそかに高知競馬のファイナルレースを買って馬券を外し、もやもやしたままひと眠り。そして、目が覚めたら初詣で馬券的中を願って、名古屋や川崎の馬券を買って外す……という生活を10年あまり繰り返しているので、総決算なんて概念は存在しないのだが(笑)。さて、冗談はここまでにして、東京大賞典の話である。

1955年に秋の鞍という名で創設された伝統の一戦は、地方競馬を代表するビッグレースとして定着。中央競馬のファンにも、よく知られたレースのひとつだ。地方で行われるダートグレード競走では唯一(2023年現在)の国際GIとなっていることも、より特別感を強めている。過去の勝ち馬には名馬がズラリ。古くはオンスロートやイナリワン、ロジータ。ダートグレード競走となって以降も、アブクマポーロやアジュディミツオーといった地方の雄が勝利を挙げた一方で、スマートファルコンやオメガパフューム、コパノリッキーやウシュバテソーロなどJRA所属の雄も多数白星を飾っている。名前を挙げれば枚挙にいとまがない。

その中でも2014年の当レースを今回のテーマとしたい。勝ち馬はホッコータルマエ。生涯でダートGI級競走10勝を挙げる同馬にとって、単なる通過点に過ぎなかったレースだが、とにかく勝ちっぷりが鮮やかだった。4馬身差。普段はそれほど着差をつけて勝つ馬ではなかったからこそ、直線突き抜けた姿は今でも強烈に印象が残っている。


まずは簡単にホッコータルマエのそれまでを振り返っておく。2012年1月にデビューを迎えたが、初戦は11番人気11着とごくごく平凡なスタート。だが、2戦目には早くも勝ち上がりを決め、同年春に幸英明騎手と出会うと、以降は次々にタイトルを獲得していった。2013年にはGI級競走を4勝。2014年はドバイWCで最下位に敗れたうえ、ストレス性腸炎を発症してファンや関係者から心配されたが、秋には復活してチャンピオンカップを勝利した。JRA・GIも手にして充実一途。東京大賞典は前年に勝利した舞台であり、連覇への期待は高かった。

だが、同馬の前に再び現れたのがコパノリッキー。フェブラリーステークスを最低人気ながら勝利し、ホッコータルマエのJRA・GI初制覇を阻止すると、その後はかしわ記念、JBCクラシックと連勝。チャンピオンズカップこそ出遅れも響いて12着と大敗していたが、フェブラリーステークスとJBCクラシックでホッコータルマエに先着していた。リベンジしなければいけない相手。陣営は燃えていた。

そのほかにも、ローマンレジェンドやワンダーアキュートなどに加えて、サミットストーン、ハッピースプリント。さらにはアメリカからソイフェットの参戦もあり、中央・地方・海外の豪華メンバー16頭が集結した戦い。ダート路線を締めくくるのに相応しいメンバーが揃った。16時30分。冬の短い夕暮れ。夕闇せまる大井競馬場で、激闘の火蓋が切られる。

ゲートが開くとホッコータルマエがロケットスタートを決めたが、そとからスッとコパノリッキーが先手を奪う。ホッコータルマエは外に切り替えて2番手。さらにソイフェットも先行し、クリソライトも内から主張したが、隊列はすんなり決まった。ペース速くならず、61.7の平均ペース。いや、このメンバーならスローかもしれない。向正面でロイヤルクレストがマクってきたが、前2頭は冷静にさばいて、たんたんとしたリズムを刻んでいく。

4コーナー手前でロイヤルクレストが後退。直線はコパノリッキーとホッコータルマエのライバル同士の追い比べに……ならなかった。直線入口で鞍上の手が動いていたコパノリッキーに対して、ホッコータルマエの幸英明騎手は持ったまま。残り300mほどで追い出されると、ただ一頭力強く抜け出していく。ぐんぐんと後続を引き離し、その差は2馬身、3馬身……と、あっという間に開いていった。王者は俺──。堂々と、堂々と、先頭でゴール板を駆け抜けたホッコータルマエ。GI級競走7勝目の白星だった。

その後さらに3つのビッグタイトルを積み上げるホッコータルマエだったが、2014年の東京大賞典は確実にベストレースといっていい。状態、展開すべてがかみ合ったレースだったように思う。字面でみれば、彼にとって単なるひとつの勝ち星に過ぎないが、語り継いでいきたい名レースだった。拙い文章でタルマエに申し訳ない。個人的なことを語れば、このレースを見たところからダート競馬の魅力に気づき、地方競馬やダート競走の面白さを伝えていきたいと考えるようになった。いまの仕事に就いているのも、このレースがあったからこそ。さぁ、今年の東京大賞典はどんな結末が待っているだろうか。心揺さぶる名勝負を期待したい。

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